ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

カミュ『ペスト』を読んで

 コロナ禍のさ中、アルベール・カミュ『ペスト』を読んだ人が多いという。小生も図書館で借りて読もうと思ったら、緊急事態宣言のおかげで図書館まで休館になってしまい、やむなく新潮文庫版の訳本をネットで購入した。半分くらい読んだが、いろいろと考えさせられることが多い。
 前にデモクラシータイムスを見ていたら、出演していた山口二郎さんも、改めて『ペスト』を読み直してみて、「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さ」(新潮文庫 宮崎嶺雄訳 245頁)と書いてあったと述べておられた。まさしく、今の政権に最も欠けているものである。
 
 先日のブルーインパルスの飛行については、「元気が出た」「涙が出た」等々の(肯定的な)反響が大きかったという。これを受けて河野防衛大臣は、「全国から要望があるので、2回目の飛行を前向きに検討している」と明らかにしたとのこと。小生には、カミュが「筆者の意見」として書いた次の箇所が、何かエコーのように響く感じがした。

 「………美しい行為に過大の重要さを認めることは、結局、間接の力強い賛辞を悪にささげることになると、信じたいのである。なぜなら、そうなると、美しい行為がそれほどの価値をもつのは、それがまれであり、そして悪意と冷淡こそ人間の行為においてはるかに頻繁な原動力であるためにほかならぬと推定することも許される。かかることは、筆者の与しえない思想である。世間に存在する悪は、ほとんど常に無知に由来するものであり、善き意志も、豊かな知識がなければ、悪意と同じくらい多くの被害を与えることがありうる。人間は邪悪であるよりもむしろ善良であり、そして真実のところ、そのことは問題ではない。しかし、彼らは多少とも無知であり、そしてそれがすなわち美徳あるいは悪徳と呼ばれるところのものなのであって、最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで自ら人を殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬのである。殺人者の魂は盲目なのであり、ありうるかぎりの明識なくしては、真の善良さも美しい愛も存在しない。」(同、192-193頁)

 「無知な善人は悪人より始末が悪い」というが、無知に無恥が加わったら、それはもはや「善人」ではないだろう。
 ………白日夢はまだまだ続きそうである。


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