ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

コロナとの共生

 ここのところ「政治問題(というよりも、政治問題!)」にばかり焦点を当ててきた。小生は千葉県の田舎で暮らしているので、都会や都市部の緊張感に疎く、ネットでわかる情報くらいしか知らないのだが、最近、東京都市圏に在住する人が地方への「疎開」・移住を検討されているという話を聞き、そういうものかと思っていたところ、昨日車で幹線道路を走っていたら、「何でこういうナンバーの車が走ってるんだろうか?」と思わせる県外ナンバーの車をいくつも目にした。なるほど、これは単なる「一時避難」ではないのかも、と感じた次第。
 14世紀半ばに流行したペスト(黒死病)による人口減少は西ヨーロッパの封建社会衰退の促進要因のひとつとされているが、今回の新型コロナも歴史を転換させるようなインパクトになるのだろうか?『現代農業』(農文協)の6月号の「主張」という連載コラムに「われわれはどこにいて、どこへ向かうのか」という短い論説があり、感染症の流行が時に社会変革の先駆けとなることがあるという趣旨で文章が綴られている。その一節を引用してみる。

 新型コロナはニューヨークや東京といった大都市を直撃した。
 その点を農民作家の山下惣一さんはこう表現する。
 「あたかも人間の生活環境に合わせて変化してきたかのように、人間が快適とする環境がウィルスの繁殖・増大に最適の環境となっているのだ。
 それは①密閉した環境(電車や車)などで長時間移動する。➁気密性の高い環境(会社や飲食店)におおくのひと多くの人が集まって長時間を過ごす。③年中どこでも祭りやイベントをやっている。④職場も家庭も冷暖房完備で冬は暖かく夏は涼しくウィルスの繁殖に適している。
 つまり、一方でウィルスや細菌の繁殖に最適の環境を作りながら、他方ではウィルス退治をやろうとしているわけで、例えていえば『水道の蛇口をあけたままで下のバケツの水を汲みだしている』ような行為に等しいわけだ」……<中略>……
 そのように考えれば、ウィルスに「悪意」はなく、人間が地球全体に開発の手を広げ、過度の都市化、人工化、集住化を進めることで、自ら災厄を招いたといえないこともない。
 そして、この災厄によって、人間が生きるために本当に必要なものや、本来的な生き方が明確になっていくような気もしてくる。……<中略>……。
 ウィルスはけっして戦う相手=「敵」ではなく、長い目で見れば共存、共生する相手なのかもしれない。
 哲学者の内山節さんはこういう。
 「好むと好まざるとにかかわらず、私たちはこのコロナウィルスとも共存していかなければならない…。このウィルスが死滅することはないだろうし、これからも変異しながら存在し続けるだろう。たとえ不都合な生き物であったとしても、共存していくしかない。
 そして、そのことを決意するとき、私たちの生命観も変更を求められるかもしれない。
 私は、ウィルスは関係のなかに生存基盤をもっているのだと感じている。人と人が関係し合う世界があり、ときに自然の生き物と人間のとの関係し合う世界がある。この関係のなかで移動し、ときに増殖し、ときに変異していく。個別の体内に入って増殖するだけなら、その寄生先が命を失えば、ウィルスも生きる場所を喪失する。………ウィルスの生命世界が存続するのは、ウィルスが個別的生命体ではなく、関係のなかで生き続ける生命体だからではないだろうか。
 本当は人間もまた、同じような生命体なのである。自然との関係のなかで、人々との関係のなかでたえずそれぞれの生命を再生産している。誰かが亡くなり、誰かが生まれる。そうやって維持されているのは、関係し合う世界だけである。人間もまた、そこに生命的基盤をもっている」
     *
 山下惣一さんは政府が外出自粛を呼び掛けていた3月、剪定作業のために毎日ミカン畑に通ったという。
 「ほぼ1カ月間、どこへも行かず、誰も来ない暮らしだったが、何の不自由もいささかの痛痒も感じなかった。
 考えてみたら、それだけの食のストックや自給システムがあり、高齢夫婦では欲しい物も必要な物もないということだった。1カ月間『お金がほとんどいらなかった』と女房はいう。カネはなくてもモノがあれば暮らせるのである。
 『新型コロナでわかった都会暮らしの危うさ』を逆にすれば『新型コロナでわかった田舎暮らしの強さ確かさ』ということになろうか」

            (『現代農業6月号』、2020年5月。318-319頁。)

 小生も山下さんほどではないが3月から4月は晴れれば草取りや剪定に精を出していたし、あまり人とも会わず、来訪者も少なかったが、特段不自由さを感じることはなかった(もともとがそういう生活だったから当たり前の話だが…)。しかし、だからといって、田舎暮らしがいいことばかりとも言えない。都会には都会の問題があるように、田舎には田舎特有の問題がある。だから難しい。
 実際に今危機に直面している方、大きな悲劇や被害を被っている方には、それどころではない話だとは思いつつ、少し軸と視点のおきどころを変えてみた。


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