ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

小田嶋隆さんのコラム

 小田嶋隆さん。自称「引きこもり系コラムニスト」。森本あんりさんの『異端の時代』(岩波新書 2018年)を読んだのをきっかけに、小田嶋さんが森本さんの同級生であることを知った。森本さんは別の著書『反知性主義』(新潮選書)の中で、小田嶋さんを次のように紹介している。
 ……小田嶋隆というコラムニストがいる。コンピューターだのサッカーだのひきこもりだのと、何かと話の引き出しが多い男で、いつもどこか別のところにある座標軸から世間の常識をナナメに切ってみせる。実は彼とは小中高と同級生だったので、わたしは彼が小さい頃から成績優秀な秀才だったことをよく知っている。明らかに高度な知性の持ち主だが、その自分の立ち位置にも常にシニカルな目線を注いで笑いの種にしてしまう。それで彼の言葉は、政治家や学者に限らず、マスコミでも芸能界でもスポーツ界でも、「その筋の権威」といわれるものを片端から軽妙洒脱に切り捨てることができるのである。(対談 三田線に轢かれかけた「スタンド・バイ・ミー」 『超・反知性主義入門』刊行記念企画 日経ビジネス編集部 2015年9月16日付 からの引用)
 それから小田嶋さんの書いたものを意識して見るようにしている。2020年4月24日付で、日経ビジネス・電子版に「『 ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明」:「隣組』マインドにご注意を」があった。

「隣組」マインドにご注意を:日経ビジネス電子版

 一部引用し、警句ととらえたい。

 視聴者の不満は、日に日にふくれあがっている。………以下、この10日ほどの間に私が個人的にクリップしておいた「世間の不機嫌」を順次ご紹介する。
・東京の道路は交通量が少ない。おかげで運転はしやすい。一方、粗暴運転のドライバーが目立つ。何をイライラしているのか。
・夕方の情報番組が、湘南に集うサーファーを白眼視する特集を放送している。東京から来たのかと、しきりに追及しているが、いったい、あんな広いオープンエアの砂浜で波に乗ることのどこに感染リスクがあるというのか。
・徳島では、他県ナンバーの車を県職員が双眼鏡で調査しているという。びっくりだ。「『来県お断り』徳島県 双眼鏡で県外ナンバーをチェック」
岩手県花巻市では、転入届の受け取りを拒まれた男性が焼死している。「『今、東京から?』拒まれ、仮住まいで焼死 岩手『ついの住みか』のはずが」
・千葉県佐倉市では、見物客の来訪を避けるために、公園内のチューリップ80万本の花を切ったのだそうだ。「花咲けば人密集…チューリップ80万本、無念の刈り取り」
・東京・荒川区の公園では、「親子が遊んでいる」という通報に対応して、遊具を閉鎖するなどの措置を取っているのだとか。「親子で公園、役所に苦情も 遊具閉鎖、集団禁止の看板―新型コロナ」
 ワイドショーのMCの言う「心をひとつにして、みんなでこの状況を乗り切って行きましょう」という呼びかけは、おそらく、100パーセント善意からの言葉なのだろう。
 それを聞かされている視聴者とて、ほとんどの人々は、言葉そのままの意味で、ポジティブに受け止めているはずだ。………しかし、世の中には同じ言葉から別のニュアンスを引き出す人間もいる。
 「みんなが耐えているこの時に、自分だけ抜け駆けしてサーフィンなんかにうつつをぬかしている若いヤツらがいるらしいじゃないか」
 「みんなが少しずつ苦しみを分かち合っているいまこの時に、子供と公園でキャッキャしながら笑っている親がいる。そんな教育で良いのか」
 「みんなが家の中にとじこもってクサクサしているこの時に、わざわざチューリップを見にやってきて、写真を撮ってはしゃいでいるカップルがいる」
 と、こういう見方をしている人たちは「感染リスク」や「三密」をいましめるよりは、「抜け駆け」「娯楽」「解放感」を敵視する戦時中の「隣組」マインドに近いリアクションとして、逸脱者を摘発しようとしている。追い詰められた日本人は、なぜなのか相互監視モードに突入する。これは、民族的な伝統と申し上げてもよい。
 で、「給料が減っていないのに給付金を受け取る人間」を吊し上げて糾弾する旨のツイートを発信して、常民良民の嫉妬心を煽り立てて、それを政治活動の燃料にしようとたくらんでいたりする。
 こうした人々の発言を眺めていて思うのは、「みんなで我慢しましょう」という、一見ごもっともなスローガンが、いつしか「欲しがりません勝つまでは」という強制に変貌し、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」「ガソリンの一滴は血の一滴」「進め1億火の玉だ」「聖戦だオノレ殺して国生かせ」「ぜいたくは敵だ」式の、国民相互監視の隣組地獄に至るまでの距離はそんなに長くないということだ。
 この展開は、現段階から、強く強く警戒してかからないといけない。でないと、ある朝気がついたら警察国家で目を覚ましていることになる。

 

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