ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「医療崩壊」と書くな 報道関係者の声

 さながら21世紀の「大本営発表」の観を呈している今の日本のマスコミ、ジャーナリズム。現下のコロナ禍でも取材や報道にさまざまな「障害」があるようだ。だいたい察しはつくが、しかし、「障害」を「障害」にしているものを問うのがジャーナリズムだし、そもそも人々(国民)にその気がなければこの「障害」は取り除けない。むかし「この程度の国民に、この程度の政治家」みたいなことを言った政治家がいたが、ジャーナリズムも同じだと思う。

 4月21日付で日本マスコミ文化情報労組会議新聞労連民放労連出版労連、全印総連、映演労連、 映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)が発表した「報道関係者への『報道の危機』アンケート結果」に、報道関係者200余名のさまざまな回答が寄せられている。

www.union-net.or.jp/mic/pdf/2020_04_21PressRelease報道関係者への「報道の危機」アンケート.pdf

 いくつか拾ってみると、
1)新型コロナウイルス関連
〇布マスクはウィルスを防げないのに、「手作りマスク 500 枚を寄付」みたいな記事を紙面に載せる。(全国紙の新聞社社員)
〇記者勉強会で政府側から「医療崩壊と書かないでほしい」という要請が行われている。医療現場から 様々な悲鳴が聞こえてきているので、報道が止まるところまではいっていないが、「感染防止」を理由に対面取材も難しくなっており、当局の発信に報道が流されていく恐れがある。(新聞社・通信社社員)
コロナウイルスの報じ方について危うさを感じている。医療崩壊という言葉についても、政府や自治体の長が、ギリギリ持ちこたえていると表現すると、それをそのまま検証もせずに垂れ流してしまっている。 実際の現場の声よりも、政治家の声を優先して伝えてしまっていることに危機感を持っている。お上のお墨付きがないと、今がどういう状態なのか、判断できない。(全国紙の新聞社社員)
〇コロナとの関連で会見がかなり制限され、入ることさえできなくなったものもある。不都合な質問を受けて、できるだけ答えを出したくないという意図も感じる。(ブロック紙の新聞社社員)
〇テレワーク推進後、現場に入る記者が減り発表原稿が増えた。またコロナとバッシングの怖さから現場を見ていなくてもやむを得ない雰囲気がある。(ブロック紙の新聞社社員)
〇感染防止対策で一定協力するのは必要だが権力側が他の重要事案をケムに巻いていないか。そちら を追及しようとすれば世論からも「今なのか」と批判にも晒される。その批判が権力の暴走を許しかねないのに、目先を追うことに精一杯になっている。(新聞社社員)
〇災害取材などで毎度そうであるが、今回のコロナでも死者が出たならば、その映像取材でなどで報道側の自主規制が始まるだろう。現段階で、他国では報道されているコロナ治療の最前線の医療現場さえ、 日本では報道されていないことに危機感を覚える。(通信社社員)
〇海外のように現政権寄りにメディア操作・情報操作が頻発していると現場でも感じている。「TVしか情報 リソースを持たない層」は完全にマスコミに操られて、買い占め騒動を引き起こしたと確信している。さらに 医療崩壊については、現場関係者への取材でも明らかな通り、「完全なる人災=安倍内閣の史上最大の失態」と感じる。全てにおいて対応が遅すぎる。(インターネットメディアの社員)

2)政治報道について
〇ニュースソースが官邸や政権であること。その結果、番組内容が官邸や政権寄りにしかならない。彼らを批判し正していく姿勢が全くない。というか、たとえあったとしても幹部が握られているので放送されな い。(放送局社員)
〇現政権に対する忖度の蔓延。政権からクレームが来ることを恐れて批判精神がなくなり、過度にバランスを取ろうという姿勢が余りに強くなっている。政権の広報記事しか書かない記者は優遇され、森友問題に斬り込んだ記者は左遷された。事実をそのまま報道出来ないのが今の NHK ニュースであり、報道局内の空気だ。(放送局社員)
〇現政権に都合のよいニュースや、ただ表面的な事実だけを伝える報道。政治家が答弁原稿を読むだけ。予定調和の記者会見。本来すべき権力への批判も監視もなく、そのことに視聴者が気づき、メディアへの不信が固定化している。多くの市民が、既存メディア(特に大手)の存在意義はないと感じているのではないか。(放送局社員)
〇国会論戦を放送しなかったり、あるいはやっても短い。官邸記者が政権に都合の悪いニュースを潰したり、番組にクレームをつける。これは日常茶飯事。官邸記者が政権のインナーになっている。(東京の民間放送局社員=番組勤務)
〇最近だと国会答弁の首相の答弁など都合の悪い情報を恣意的にカットしてニュース放送している様子が散見される。そもそも組織体制も報道現場の幹部職員はほぼ政治部出身で記者クラブや官邸との距離が近いことは簡単に想像できる。そのほか経営委員会の任命権を首相が持つなどの人事権を握られている中で不偏不党や公共を掲げることに無理があるシステムなのかもしれないと感じる。(放送局社員)
〇権力の監視が出来ていないこと。(放送局社員)
〇権力者をチェックしていない。(九州の放送局の関連会社・取引のある制作会社社員)
〇 政権をはじめ、政治家、ひいては局内で権力を持つ者に対する忖度の連鎖で、報道機関としての役割 や信頼を自ら損なう振る舞いが常態化している。幹部達は現場が取材した映像や証言をお蔵入りにしてでも、政権を刺激しないことを優先。政権に不利な内容や対立する意見は必ず「バランスを取る」と称して政権側の反論を加えて放送する。政権の言い分は吟味せず垂れ流すので偽りの不偏不党であり、視聴者には見抜かれているのに改めようとしない。……。現場には政治に関わる報道や政権の課題・問題点の指摘・検証を尻込みする空気が生まれている。報道機関にとっては自殺行為。幹部達は視野狭窄で組織を守っているつもりで組織を損ない、結局自らの保身にしかなっていない。(放送局社員)
〇政治ニュースで政権からクレームが来ないかだけを考え、少しもでも何か来そうだと誰か幹部が指摘すると、本来問題点を指摘することをやらなくてはいけないのに、放送をやめる。或いは表現をオブラートに包んで、何が問題かが分からなくする。それが繰り返されることで、段々面倒なものはやらないとなり、或いは幹部に言っても放送しないだろうと考え、やらないのが当たり前になり、思考停止状態。おかしなことがおかしいと言えないどころか、気づかなくなり、あげくのはてには、問題にすることがおかしいと、ただの政権の方針を垂れ流す広報機関になり下がる、そんな事態が目の前で起きている。(東京の民間放送局社員=報道局)
〇報道番組のディレクターですが、理事や報道局長からの介入が酷い。報道局長とその部下の女性記者に官邸からホットラインがあり、政府、安倍総理の広報原稿を読むだけになっている。日曜討論に与党しか出ない、総理会見の質問を打ち切り、女性記者が総理の代弁をする。全てホットラインのせいであり、 部長や編集長級は転勤をちらつかされて言いなりです。(放送局社員)
〇E特「従軍慰安婦」問題で徹底抗戦しなかったツケです。クロ現潰しで報道局の翼賛化は加速し、政権の広報を垂れ流す独裁国家の国営メディアと何ら変わりません。問題の根本は、予算が国会審議されることなどを理由に政治部記者を厚遇し、与党政治家や閣僚に取り入ることを是としてきた組織風土です。(放送局社員=ディレクター)

 その他、「 政権・公権力の姿勢について 」、「報道機関幹部の意識について 」、「中間管理職の萎縮、現場の意識について 」、「不安定な雇用形態について 」、「人員体制について 」、「メデイア環境の変化について 」、「メディアの連帯について 」などの項目が続くが、自由記述らしく、重複も多い。<省略>

 ざっと目を通してみて、政権忖度の実態や構造など予想通りなところは多々あったが、その一方、外部からはよく見えなかった面もそれなりにあると感じた。特にコロナ取材時の各記者たちの安全対策が不十分であったり杜撰だったりという記述がかなり多く、関係者の苦労が垣間見えた。
 しかし、問題やその構造は明らかなのに、憤懣だけがたまっていく感じ。たまりにたまって……、「決壊」するのだろうか? わからない。