ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

コロナ倒産の懸念

 東京商工リサーチの公式アカウントを見に行ったところ、「新型コロナウィルス」関連倒産状況が掲載されていた。4月17日17:00現在で、全国で66件となっている。ちなみに先月の3月は12件なので、半月ちょっとですでに前の月の5倍超。これは今後深刻な事態が危惧される。

 「新型コロナウイルス」関連倒産状況【4月17日17:00 現在】 : 東京商工リサーチ

 3月の段階で、負債額1,000万円以上の企業倒産は2019年9月から7カ月連続で前年同月を上回っている。前年9月は消費増税直前だから、かりに負債がなくても増税にともなう設備投資を断念し、廃業を決断した経営者も多かっただろうと思われる。業種別の倒産件数で注目すべきは、サービス業が3カ月連続で増加していること。これは宿泊業や飲食業がコロナの直撃を受けていることの証だろう。

 政府が発表した「経済対策」にはどれくらいの効果が見込めるのだろうか? 日経ビジネス電子版に「キャスター角谷暁子のカドが立つほど伺います」<中小企業に200万円支給「これで倒産を防げますか?」>が掲載されていた。テレ東の角谷アナと日経ビジネス編集委員の山川龍雄さんが、ゲストの東京商工リサーチ・松永伸也さんに話を聞いたものだ。以下にメモ書きを載せる。

 中小企業に200万円支給「これで倒産を防げますか?」:日経ビジネス電子版

 1)中小企業への200万円の支給
 角谷:…中小企業には最大200万円、フリーランス個人事業主には最大100万円の現金を支給するということですが、これで足りるのでしょうか。
 松永:企業の規模、コロナ問題で受ける影響の大きさによって、状況は異なりますが、足りないところが多いでしょう。200万円は1回だけなのか。状況によっては、また追加給付が行われるのか。それが明確になっていません。…この先、感染拡大が長引いた場合、改めて補助しますと言ってくれれば、頑張ろうという気持ちになれますが、これだと極端な話、「もらったら、やめよう」という人が出てくるかもしれません。
 角谷:やめる?
 松永:200万円をもらって、借金を返済し、従業員に生活費を渡して、会社を閉じるということです。108兆円という事業規模は、金額だけ聞けばすごいですが、それぞれの企業や個人にとっては、一体自分にはどれだけおカネが回ってくるかが全てです。もちろん200万円と聞いて、喜ぶ人がいるかもしれませんが、決して多い額とは言えません。
 2)中小企業支援のスピード
 角谷:どの支援策も、おカネが支給されるのは早くても5月以降というものばかり。なぜ、すぐに届かないのでしょう?
 山川:…今回の経済対策で比較的早く打ち出されたのが、公庫や自治体の無利子融資ですが、日本経済新聞の調べでは、4月10日時点で、申し込んだ人のうち、承諾されたのは6割程度。まだ入金されていないケースが多いようです。これに対して、ドイツは従業員5人以下の企業や個人事業主に最大で約106万円を支給することを決めたのですが、オンラインで申請すれば、早ければ翌日には承認されます。実際、ドイツ在住の日本人の個人事業主は、申請してから2日後には口座に振り込まれていて、驚いたそうです。スイスは、上限5,600万円まで政府が保証して無利子・無担保で融資を受けることができます。こちらも早ければ当日に振り込まれるそうです。なぜ、これほどのスピードの差が生まれるのでしょう。
 松永:1つは、日本ではIT(情報技術)の活用が進んでいないことが大きいと思います。日本の中小企業の場合、オンライン申請といっても、その仕組みを整えているところが少ない。今回の問題で、感染拡大の防止のために在宅勤務が奨励されていますが、東京商工リサーチのアンケート調査では、テレワークを実施している中小企業は全体の2割程度にすぎません。実行するだけの環境が整っていないのです。もう1つは、手続きを重視する文化が影響しています。日本の場合、きちんと審査しなければ、モラルハザード(倫理の欠如)につながるという考えが強い。実際、苦い経験があります。大災害や金融危機が起きたときは、過去にも政府が特別な保証を付けた融資を実施しています。ただ、そのたびに、不正受給や詐欺行為が横行するのが現実なのです。一部の資金は反社会勢力に流れてしまったという指摘もあります。そのため、どうしても審査や手続きを緩めるわけにはいかないという意識が働いてしまうのです。
 3)倒産が危惧される業種
 角谷:多くの企業が苦しんでいると思いますが、率直に言って倒産が心配されている業種はどこでしょうか。3月の倒産件数は740件。産業別の内訳を見ると、サービス業が30%を占めており、次が建設業の19%となっています。また、コロナ問題が原因となった倒産件数は、2月~4月10日までで51件。インバウンド需要が急減した宿泊業や飲食業が目立ちます。小売りやアパレルなどにも拡大しているようです。
 松永:そもそも日本の中小企業はコロナ問題が発生する前から、疲弊気味でした。自然災害や消費税の増税、暖冬などの影響があって、収益が低迷している企業が多かったのです。とりわけ小売りや飲食、サービスなど、日銭商売をしている企業の中に、資金繰りが悪化しているところが存在しました。そこにコロナ問題が追い打ちをかけたのです。しかもこうした業種は、現在、休業要請を受けているところが多い。資金繰りはさらに逼迫しています。建設業も厳しい。建設ラッシュは一服感があるのですが、地方に目を転じると、国土強靱化計画もあって、公共事業の需要は底堅い。ただ、人手不足に苦しんでいます。そこにコロナ問題が追い打ちをかけました。部材が調達できずに工事が中断してしまうケースが相次いでいます。この先は現場で感染者が出て中断してしまうケースも出てくるでしょう。(編集部注:4月13日に清水建設が現場従業員の感染・死亡、作業所の閉鎖を発表)
 角谷:部材は海外からの調達が難しくなっているわけですか。
 松永:そうです。サプライチェーンが途絶えて、在庫が枯渇しています。この先は、工期が遅れ、施主と違約金などを巡ってトラブルが起きる恐れもあります。
 山川:倒産件数は2019年9月から前年同月比で見ると、増加傾向にありました。ただ、現状では多くの企業は手元資金を取り崩して、何とか踏ん張っているようにも見えます。やはり心配なのはこの先ですね。松永氏:そうです。コロナ問題が日本で注目され始めたのは1月末からだと思いますが、当初は企業活動が休止するところまではいっていませんでした。3月になると収入は落ち込みますが、売掛金を回収できる段階でしたから、多くの企業は手元資金を取り崩すことで、しのぎました。しかし、4月以降は、入ってくるお金が急減しているはずです。
 山川:一方、4月下旬になると、家賃など出ていくものが増えます。 
 松永:そうです。だからこそ、4月中の資金支援が必要なのです。融資や助成金が入ってくれば一息つきます。終息の時期が見えないわけですから、自転車操業であることに変わりありませんが、それでも現金支給などを受けるまでのつなぎにはなります。
 山川:先が見えないと、余計に諦める経営者が増えてしまうのでは?
 松永:そうです。たとえ健全な経営をしてきた企業でも、目の前の資金が不足すれば、不幸にも倒産に至ってしまう。
 4)大企業への影響<省略>

 2)の「スピードの差」についての松永さんの解説には承服しかねるところもある。IT活用、審査の厳格化…ごもっともだとは思うが、肝心な点は、国民の生死にかかわる非常事態に政府はどっちを向いてるのか、ということである。政府の「経済対策」を“救済策”として真に受けられないのは、国民が疲弊しているこの状況で、国家公務員法検察庁法の定年規定を変えてしまおうという例の「悪だくみ」を強行しようとしているからだ。