ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

東京都知事の止められない悪戯

 “三密”にしろ、「五つの“小”」にしろ、話題になれば何でもいいという感じの東京都知事(それにしても、今回の「五つの“小”」は出来が悪すぎる。本人はもとより周りの“政策ブレイン”も集まっていったい何をやってるのか!)。今度はコロナの「重症者」を“過少計上”していた疑いが出てきた。これは言葉遊びで失笑するレベルの話ではない。

 以下、日刊ゲンダイ11月21日付記事より引用する。

【小池百合子】小池知事「コロナ重症者数」過少申告の姑息 196人を39人と|日刊ゲンダイDIGITAL

〈#小池百合子に殺される〉――。こんな物騒なワードがツイッターでトレンド入りしている。20日、新型コロナウイルス感染者が522人となり、2日連続で500人超だった東京都。都民はウカウカしていると、本当に“殺される”ことになるかもしれない。小池都知事が、コロナ患者のうち「重症者」を“過少申告”した疑いが浮上しているのだ。
1日当たりの感染者が過去最多の534人だった19日、小池知事は会見で「5つの小(こ)」と記されたフリップを掲げ、小人数、小声などと会食時の注意点を“ドヤ顔”で紹介。疑われているのは報道陣との質疑応答での発言だ。
 飲食店に営業時間短縮を要請する要件について問われた小池知事は、「一番重要なのは重症者の数」「重症者数は増えていない」と回答。“重症者が少ないから踏み込んだ対策は不要”と言わんばかりだった。確かに都が“広報”している18日時点の重症者は「39人」、前週比1人増と大きい数字には見えない。

実はこれにはカラクリがあるのだ。重症者のカウント方法が国とはまるで別物なのだ。“国の基準”でカウントすると、都内の重症者数は5倍の「196人」となる。
 厚労省は①人工呼吸器装着②人工心肺装置(ECMO)の使用③集中治療室(ICU)などに入室――のいずれかに当てはまる患者を「重症者」としてカウントし、報告するよう各自治体に求めている。都にも4月下旬、通知している。
 ところが、都は③を除外し、①と②だけを重症者としてカウントしている。つまり、小池知事は会見の場で重症者数を実際の5分の1に過少報告したというわけだ。19日時点で重症者が76人だった大阪府は①~③全てを重症者とカウントしている。

〇資料には小さく「196人」と
 なぜ都は、国の指導に従わず、③ICUなどに入室――を重症者から外しているのか。
「週1回のモニタリング会議を経て、国には①~③全てに当てはまる患者を重症者として報告している。資料にも記載があります。ただ、都としては『ICU入室=重症者』とは捉えていない。そのような考えに基づき、知事は発言している」(感染症対策部)
 確かにHPに公表された会議資料をよく読むと、小さく「196人」という記載があった。要するに、国や会議資料には基準に従った人数を報告し載せているが、会見では別の人数を発表しているということ。これはダブルスタンダードではないのか。会見を聞いた都民が、「重症者は39人か」と思ったのは間違いない。まさか、日々の生活に追われる都民に、細かく資料を精査しろというのか。

 都議の上田令子氏はこう言う。
「都が独自の基準を持つのは結構ですが、会見では都と国、双方の基準に基づいた数字をそれぞれ公表すべきです。都民だけでなく、全国民が注視しているのですから当然です。『196人』を公表せず、『39人』だけを強調するのは重症者数を小さく見せかけたいからではないか。先日、来夏の東京五輪を巡り、国際オリンピック委員会の幹部が東京に来ました。そのようなタイミングで感染状況の悪化が顕在化すれば、開催に水を差すことになりかねない。だから、小さい数字のみを強調したのではないでしょうか」
<以下略>


 これはゴマカシの常套手段である。会計の裏帳簿をもっているようなものだ。

 コロナ「第三波」の渦中に対策の基軸を担うべき首都の行政トップが、こんな姑息かつでたらめなことをして、それが許容されるとしたら、何を基に対策を立てるのか。それでは対策自体の信用性がなくなってしまう。まさか、それを狙っているというのでは……(「姑息」と言えば、この都知事、給与を半額カットする一方、一期目の退職金は8月に満額しっかり受け取っていたとのこと)。

 品行方正でなくとも最低限きちんと実務を担える人物を選ばないツケだとはいえ、これは度が過ぎている。東京都に限った話ではなく、こんなのを許容してきてしまったのがここ数年のこの国だった。これからもっともっと笑えない事態が待っている感じだ。三連休が明けて1,2週間後、12月に入るとどんなことになっているのか。



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福岡8区 大島九州男氏立つ

 れいわ新撰組が、来るべき衆議院議員選挙の小選挙区・福岡8区に元参議院議員大島九州男(くすお)を擁立することを決め、昨日11月20日夜にJR博多駅前で山本太郎代表と大島氏本人が挨拶し、気勢をあげた。福岡8区は麻生太郎副総理・財務大臣の選出区。大島氏は森友改ざんの責任追及、特に亡くなった近畿財務局の赤木俊夫さんが残したといわれる通称「赤木ファイル」を、財務省に「開示させる」ことを明言している。

以下、Yahooニュースより、11月21日付大阪日日新聞相澤冬樹記者の記事から引用する。

麻生財務相にれいわが刺客擁立 公約は改ざんの真相記した「赤木ファイル」の開示(相澤冬樹) - 個人 - Yahoo!ニュース

<前略>
九州男が九州で立つ
 大島九州男さんは、その名の通り九州は福岡県直方市出身。麻生財務大臣のお膝元だ。直方市議を3期務め、民主党(当時)から福岡8区で2回立候補したがいずれも麻生大臣に敗れた。その後、参院選比例代表で当選し、2期12年参議院議員を務めた。その時、参議院内閣委員会で委員長を務め、委員だった山本太郎さんとご縁があったという。
 れいわ新選組から立候補するいきさつについて、大島九州男さんは次のように語った。
「太郎さんが全国、北海道から沖縄までこうやって回る。それを支えるスタッフの皆さん、ボランティアの皆さん、そしてずっとお話を聞いて下さる皆さんの姿を見させて頂いて、ビラ配りもさせて頂きながら、やっぱりこの政治家じゃなきゃ(この国は)変えられないな、そのことを確信させて頂きました」

「おめえ、しぶてえな」
 麻生財務大臣との関わりについても語った。
「太郎は太郎でも麻生太郎に3度目の挑戦をさせて頂きます。2回私は麻生さんと戦って負けました。参議院で12年仕事をさせて頂く中で麻生さんに言われたことがあります。
『おめえ、しぶてえな』
(前回の)参院選で落選して、今回またこうやってれいわ新選組から出た時に、今度は何て言われるだろうかと、まあそれを楽しみにしております」
「コロナ禍で財政出動するしかない。その権限があるのが財務大臣です。麻生太郎さんですよ。その麻生さんに、本当に国民のための政治をやってくれと。もう自分たちのグループの政治はやめてくれということを、私はこの選挙を通して言いたい」

公文書改ざんで申し訳ない思い
 続けて大島九州男さんは森友の公文書改ざんについて後悔の念を述べた。
「私は国会議員として本当に申し訳ないと思うことが一つだけあります。何かと言いますと、財務省の改ざんの問題。私は国会で一生懸命答弁している佐川局長(佐川宣寿財務省理財局長・当時)を見て、『ああ、彼は麻生さんたちに言われて、上から言われて嘘八百の答弁を毎日毎日させられてるんだな』と思ったから、目の前にいた佐川さんに『あなたね、上から言われて言いたくもない嘘を言っている、その気持ちは俺はわかるから頑張れよ』と言ったんです」
 ここから涙声になる。
「しかしね、私はそのことが間違いだったことを本当に反省しました。それはなぜかと言えば、あの改ざんをさせられた、本当に真面目な財務省の一人の職員が、『絶対そういうことは公務員としてやってはいけない』と最後の最後まで抵抗して、そしてそれを佐川局長や本省の職員から、そしてまた近畿財務局の上司から、無理矢理それを強いられて、最後の最後は一人に責任を負いかぶされるというようなそういう状況に追い込まれて亡くなった。あの赤木(俊夫)さんに私はそういう声をかけるべきだったと。それを自分は目の前にいる佐川さんに声をかけてしまった。本当の本質がわかっていない自分だった」

謝るべきは麻生財務大臣
 そして冒頭に紹介した公約が登場する。
「私は今回この選挙を通じて、あの国民の財産である公文書を改ざんさせて、そして大切な命を奪わせた、そういう財務省の責任をしっかりと問うていきたい。そして謝るべきは安倍総理(当時)だけではなくて、その(財務省の)トップである麻生太郎財務大臣なんじゃないかと、そのことをしっかりと訴えていきたい。
 実は先日あるご縁で、奥さん(俊夫さんの妻、赤木雅子さん)が一番願っているのは裁判とかじゃなくて、真実を知って、責任者である麻生太郎さんにお墓参りに行ってもらいたいんだ、というお話をある人から聞きました。そうだよな。自分の愛する人、その家族が何で亡くなったのか、その真相を知りたいと思うのは当たり前じゃないですか」

麻生大臣が明言しない「赤木ファイル」を開示させると明言
 改ざんを巡っては、改ざんをさせられた赤木俊夫さんの上司、池田靖さんが赤木雅子さんに語った音声データが先日公開された。その中で、俊夫さんが改ざんについて誰がどのように指示してどのように改ざんしたかが一目でわかる詳細なファイルを作っていたことを明かしている。国と佐川氏を相手に裁判を起こしている赤木雅子さんの弁護団は、これを「赤木ファイル」と名付け、開示するよう国に求めている。
 しかし財務省はファイルがあるかないかも答えようとしない。「ない」と言わないのは「ある」と言っているようなものだ。麻生財務大臣も11月18日、国会で追及され、「存否も含め答えは控える。訴訟されている当事者であり、今のような答えしかない」と逃げた。大島さんはこの麻生大臣の答弁もやり玉に挙げた。
「この間、国会答弁で(赤木)ファイルがあるんじゃないかと言われた。そのファイルも出さない。真実をしっかり残したその記録、命の記録ですよ。その記録を開示させて、そのようなことが二度と起こらないような政治を作る」
「私は福岡8区、麻生太郎さんと戦うその選挙の中で、そのことをしっかりと訴えて、麻生さんが本当に赤木さんのお墓参りに行って、本当に申し訳なかったと、その一言を言って頂ける、そんな当たり前の政治に、人の心に寄り添う政治を、山本太郎代表と作って参ります。この九州から九州男(きゅうしゅうおとこ)が皆さんと一緒に頑張ります」

麻生さんと真っ向勝負「勝てるはずない」を変えるには…
 ここで再び山本太郎さんが壇上に立つ。
「福岡8区、麻生さんと真っ向勝負、ということで、大島九州男(くすお)、立候補予定者でございました」
 そして大島九州男さんの演説を振り返った。
「公文書に関して、日本の財産であるはずの財務省の職員が命を落とすことになったことについて、非常に悲しい思い、悔しい思いを心からされてるんだなっていうことを感じました」
 続けて選挙戦に向けて有権者に奮起を促した。
「勝てるはずないだろ、あの麻生太郎になんて。なんで勝てないのかって、みんなが本気にならないからですよ。本気になったら変えられるんですよ。間違った政治、変えられるんですよ。あなたが本気になるかどうか、力貸してほしい。間違った政治を進めてきた者は、こうやって入れ替えることができるんだっていう民主主義のルールをしっかりと前に進める。みんなで確認できるような形で大島九州男を応援して頂きたいと思います」

 「赤木ファイル」の開示、公文書改ざんの真相解明が衆院選の争点の一つになるなら、かなり面白い展開になるのではなかろうか?

 麻生太郎は現行の小選挙区制時代の前の中選挙区制の時代に一度選挙で落選している人だ。福岡8区の有権者のみなさん方、もう一度彼に泡を吹かせてはくれまいか。ついでに山口4区の方々も。みなさんが日本の民主主義の行方を左右していると言っても過言ではないのだから。



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オバマ回顧録の誤訳 鴻巣友季子さんの解説

 バラク・オバマアメリカ大統領の回顧録 A Promised Land が出版されたが、鳩山由紀夫・元首相について述べた一節の日本語訳をめぐって、誤訳ではないかと異論が出ていた。
 翻訳家で文芸評論家の鴻巣友季子さんがこの問題を詳しく解説している。

 鴻巣さんは自身のtwitterでもこれに触れていて、

 翻訳が一種の「解釈」である以上そこには主観性や批評性が介在するし、なにかを読んで個人的に独創的な解釈をもつのも自由なんだけど、言いたいのは、翻訳する時には、
 〇翻訳に託して自分の意見を主張すべきではない。
 〇原文の構文、無視しないでやー。
この二つです。翻訳は本質的に橋渡し業務。

https://twitter.com/yukikonosu/status/1329629116325191680

 深く納得。以下、Yahooニュース11月19日付記事より鴻巣さんの解説を引用する。

オバマ氏は鳩山氏を「感じ良いが厄介な同僚」と思ってた? 回顧録報道の和訳に疑問(鴻巣友季子) - 個人 - Yahoo!ニュース

歴史の大きな岐路に翻訳の”暗躍”がある
 小さく見える語句の訳し方ひとつで、過去に戦争が起きたこともあれば、爆弾が投下されたこともある。逆に人びとが救われたこともある。
 先日、オバマ前大統領の回顧録 A Promised Landが出版されたことで、日本でも意外な翻訳問題が持ち上がっている。回顧録に関する報道記事のなかに、誤訳があったというのである。
 オバマ氏は2009年に訪日した際にスピーチを行い、当時の首相鳩山由紀夫氏と会談した。回顧録には、そのときのことを短く綴ったページがある。

鳩山氏をほめてる、けなしてる?
 問題となっている箇所は主に二つ。太字部分をよく見てほしい。

【ワシントン共同】オバマ米大統領は17日に出版した回顧録「約束の地」で、2009年の大統領就任後、初めて訪日した際に会談した鳩山由紀夫元首相について「感じは良いが、やりにくい」と振り返った。「3年未満で4人目の首相だった。硬直化し、目的を失って漂流した政治の症状」と指摘した。共同通信

【ワシントン時事】オバマ米大統領は17日発売の回顧録で、2009年11月に鳩山由紀夫首相(当時)と初会談したことに関し、「感じは良いが厄介な同僚だった」と指摘した。その上で、「3年弱で4人目の首相であり、日本を苦しめてきた硬直化し、目標の定まらない政治の症状だ」と酷評した。時事通信

NHK NEWS】アメリカのオバマ前大統領が回顧録を出版し、就任後に初めて会談した当時の鳩山総理大臣について、「硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ」と記すなど、当時の日本政治に厳しい評価を下しています。

 まずは、問題となっている箇所の前後をも含めて引用し、訳をつけてみよう(鴻巣訳)。

IT HAD BEEN more than twenty years since I’d traveled to Asia.
わたしにとって、20余年ぶりのアジア訪問だった。

Our seven-day tour started in Tokyo, where I delivered a speech on the future of the U.S.-Japan alliance
7日間の旅程は東京からスタートし、わたしはそこで日米同盟の未来についてのスピーチを行った。

and met with Prime Minister Yukio Hatoyama to discuss the economic crisis, North Korea, and the proposed relocation of the U.S. Marine base in Okinawa.
それから、鳩山由紀夫首相と会い、経済危機、北朝鮮問題、沖縄の米海兵隊飛行場の移設案について話しあった。

A pleasant if awkward fellow, Hatoyama was Japan’s fourth prime minister in less than three years and the second since I’d taken office ー a symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of the decade. He’d be gone seven months later.
鳩山氏はやりにくい面はあるものの感じの良いおかただが、当時の日本は三年のうちに首相が何度も交替し、鳩山氏で四人目、わたしが就任してからも二人目という状況だった――それまでの十年間、硬直し迷走してきた日本の政治が、その状況にはよく顕れていた。

*Obama, Barack. A Promised Land (p.477). Crown. Kindle 版.

 さて、共同通信時事通信の「感じは良いが、やりにくい」と「感じは良いが厄介な同僚だった」の部分を考える。
 原文該当箇所はA pleasant if awkward fellow,だ。わたしが訳す際には、先行するメディアの翻訳となるべく同じ語を使うようにした。その方が違いがわかりやすいからだ。

重点の違いで意味は大きく変わる
 「感じは良いがやりにくい」または「感じは良いが厄介な同僚」(同僚は誤訳。「人」という意味)とするか、わたしの訳文のように「やりにくい面はあるものの感じの良い」とするかで、印象はまったく変わってくるだろう。文章の重点がどこにあるかの違いだ。
 ポイントは、「形容詞A+if+形容詞B」という英語の定型的フレーズを正確につかめるかどうか。このifは「もし~なら」ではなく、「~であっても」という譲歩の意味を表す。学校のどこかで習いましたよね、「譲歩のif」。あれです。
 「~であっても」なので、意味の重点は、BではなくAに置かれる。awkwardなのは玉に瑕だけど、基本、pleasant だと言っているのだ。ところが、先行メディアの翻訳はほぼすべて、これを「形容詞A+but+形容詞B」のように訳している。「AだけれどB」というふうにBに重点が来ているのだ。
 ものすごく些細なことに見えるかもしれないが、このように意味を反転させる英語のフレーズは慎重に訳す必要がある。A+if+Bなのか、A+but+Bなのか、あるいはその語順によって、ニュアンスや意図がかなり変わってくる。

<中略>

オバマ氏の文章でいえば、「ちょっとやりにくい人だが、感じよく接してくれた」と、ポジティブな表現に着地している。そこはきっちり訳してもらわないと困る。「当たりはいいけど厄介な人」と、ニュアンスを逆転させるのは"誤訳"と言えるだろう。

 今回はネット界隈が「誤訳ではないか?」と騒いだため、それが鳩山氏近辺にも伝わり、英語のできる本人が原文を確かめ、「いや、酷評していないでしょう」という声明をtwitterで出したからよかったものの、こうした小さな外交的すれ違いで、国同士の悪感情というのは醸成され得る。

 だから、翻訳は怖いのだ。

<略>

だれを「厳しく評価」しているのか?
 さて、問題の一文は鳩山さんに対するポジティブ評価に着地したが、言い換えや逆接や反語を使って、文章のトーンが二転三転していくことが英文ではよくある(日本語にもある)。
 以下の太字の箇所は、NHKの翻訳だと「主語」を取り違えているように見えて危険だ(*その後、NHK朝日新聞の取材に対して「ネット上に様々なご意見があることは承知しております。今後とも正確で分かりやすい表現に努めてまいります」と答えた)。

原文と訳文を再掲すると――
A pleasant if awkward fellow, Hatoyama was Japan’s fourth prime minister in less than three years and the second since I’d taken office ーa symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of the decade. He’d be gone seven months later.
 就任後に初めて会談した当時の鳩山総理大臣について、「硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ」と記すなど、当時の日本政治に厳しい評価を下しています

 「硬直化し迷走した日本政治」と、たしかに厳しい文言があるが、その批判を鳩山首相ひとりにかぶせてはいない。ダーシの後の a symptomは「徴候」「症状」「顕現」といった意味だが、その「主語」は鳩山氏ではなく、「3年間に何人も首相が交替するようなまとまらない日本の政治状況」全体だ。
 おそらくこの翻訳をした人は「鳩山こそが」と解釈して主語をたててしまったため、symptomの訳語に困って、「徴候」となんとなく似ている「象徴」(symbol)にむりやり日本語をスライドさせて、「帳尻を合わせた」のだろう。これ、翻訳者が陥りやすい落とし穴なのだ。自分も注意したい。

「不器用なやつですから(高倉健風)は褒め言葉か?
 最後に、ちょっと細かいが、awkwardの訳について。
<略>

翻訳者は言外の意味を盛らない
 翻訳というのは、「字面を訳すだけでなく、原文を深く読みこみ、深い意図を訳出することである」という一般認識がある。間違ってはいないのだけど、ひとつだけ注意してほしいことがある。深く読み、筆者の意図や言外のニュアンスを汲みとるのは重要だが、その筆者が言っていないことまで訳文に盛り込むのは、ご法度であるとわたしは考える。
 今回も、オバマ氏の回顧録をもう少し読み、さらに当時の日米間の問題にも鑑みれば、鳩山氏と当時の日本政治にオバマ氏が不満や不信を抱いていたことはうかがえる。しかしだからといって、原文に書いていないのに、「オバマ氏は鳩山氏を酷評した」と訳したり、「鳩山氏を(感じは良いが)やっかいな相手と思っていた」とニュアンスをすり替えたりするのは、翻訳の倫理にもとることである。
 そう、実際、翻訳者は原文を密かにねじ曲げることはできてしまうのだ。だからこそ、つねに中立を心がける必要がある。オバマ氏の文章にそこはかとない皮肉が漂っているなら、それは「そこはかとない」トーンに留めるべきだ。わたしも今回、少し試みた。

<以下略>

<11月21日 追記>
日刊スポーツの20日付「政界地獄耳」がこの件を伝えていたので、以下に付記する。

翻訳超えたイメージ訳、オバマ鳩山会談/政界地獄耳 - 政界地獄耳 - 社会コラム : 日刊スポーツ

★おさまらないのは鳩山だ。18日、ツイッターで「メディアのみなさん、オバマ大統領の回顧録を原文でお読みになったのですか? ひょっとして政府から渡された解釈をそのまま信じてお載せになったのではありませんか。ご批判は有り難くお受けいたしますが、どうかまず原文をお読みになってから私をご批判ください」「痛烈な批判はなかった。メディアはなぜ今でも私を叩くのか」と記した。ここまでくるともう翻訳や意訳を超えてイメージ訳としか言いようがない。無論、どこからも訂正や謝罪はないという。(K)※敬称略



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