ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

中教審の答申について

 昨日8月27日、中教審は公立学校の教員確保に向けた提言(答申)を正式に文科大臣に手渡しました。内容の骨格は以前から報道されていたとおりですが、教職調整額(調整手当)を現行の4%から10%以上に引き上げることが目玉になっていて、文科省も調整手当を13%に増額するなど、次年度の概算要求をまとめ、今後財務省と折衝するそうです。
 普通に考えたら、給与の1割アップなど驚くべきことですが、財務省がこれに満額回答する見込みはほとんどありません。おそらくは、あいだをとって〇%くらいで手を打ちしましょうという話になる感じがしますし、教育現場からすると、少しでも給料が上がるのはいいとしても、これで個々の職員が現在抱え込んでいる過重な負担が軽減されるのか、と。今後に向けて明るい展望が開けたとか、これを歓迎するような声はあまり(ほとんど)聞こえてきません。そもそも労働に見合った給料を払うべきだというのは付随的な希望であって、多くの職員にとっては普通の労働者に見合った待遇(労働条件・時間・環境)にしてほしいというのが切実な思いであり、問題の核心はお金の問題ではないからです。的外れな答申を出されて、「定額働かせ放題」が強化されるだけなのでは……。教職現場に失望感が広がっていると思います。
 答申の処遇改善策では、教職員の残業時間の目標値を「全教員が月45時間以内」と明記し、将来的に月20時間程度を目指す、となっているようです。この数字が意味するところは、仮に土日には学校で一切仕事をしないとして(実際、そんなことはあり得ない教職員がけっこう多いのですが)平均すれば、一日の残業は最長2時間ちょっとまでを目標とし、将来的には最長1時間程度を目指すということです。つまり、具体的には、毎日夜7時を過ぎたら先生方は職員室を出て家路につくのが当面の目標だと言ってるわけです(裏を返せば、夜8時、9時まで残って仕事をしている職員が、現状ではけっこう多いということでしょう。小生が勤めていた頃には、大昔の話ですが、学校に泊まっている人もいました)。
 個々の学校の事情や校種によって働き方にちがいがあることは、私的にある程度理解しているつもりですが、中教審ではこうした職員の勤務の現状を本当に議論の俎上にのせたのかどうか。さすがに委員の方々には、労働基準法って法律があるの、ご存じですよね、と問いたくもなります。もちろんいきなり残業時間をゼロにはできないので、漸次減らしていくということなのでしょうが、今まで個々の職員の善意に頼ってほとんど環境改善をしてこなかったツケが露わになり、方々で怒りと失望が広がり、学校で働く職員のモチベーションをいちじるしく下げていることを、もっとシビアに認識するべきだと思います。

教員確保:教員給与上乗せ10%以上 現場は「給料より仕事減・増員」 中教審答申 | 毎日新聞
現職教員が批判 「教職調整額の増加では残業を減らせない」

 言うまでもなく、教職員には家庭があり、配偶者や子どもがいるし、親もいます(もちろん独り身の人もいます)。誰かが病気なら看病しなければならないし、親が高齢になれば介護もしないと……と思うでしょう。自身が病気になったら、仕事にも行けません。朝早くから出勤して、毎日2時間くらいの残業が当たり前では、自宅と学校を往復するので精一杯です(実際には帰宅してから自宅で「残業」している人も数多いのです)。子どもたちに豊かな人生を送るためには、という話をする側が余裕のないキツキツの生活をしていて、どんな説得力のある話ができるでしょうか。

 今回の中教審の答申は、5月の会合でまとめられた「処遇改善策」をほぼそのまま踏襲していて、「教育新聞」が行ったアンケートでは、この「(5月の)審議のまとめ」に対して、期待した内容(「期待以上」・「期待通り」)だと答えた人は1,190票中の27票で、ほとんどの票(97%)は「期待以下」でした。コメント欄にも批判的な声があふれています。いくつか引用させてください。

【教員×投票】中教審特別部会の「審議のまとめ」 期待した内容?

 〇教員:人件費などのコスト削減しながら、よりよい教育を!とか、ボロボロの設備や校舎で、子供の安全を!とかよく言えるなと思う。全部現場の教員の犠牲の上に成り立ってるじゃないですか。人を集めるなら給与アップ、労働環境改善、人増やす、仕事減らす、待遇改善する、は基本の基です。

 〇教員:教員にも労働基準法は適用されているはずです。労基署の管轄外にあるだけで。法律を守って下さい。

 〇教員:「どこまでが職務であるかの切り分けが難しい」のは教材研究を指す言葉であって、部活動や校務分掌、生徒への配慮と要望への対応、これらは切り分けて貰わないと困る。結局、採用試験の倍率が上がりさえすれば良くて、教員の命や心、健康や家庭生活については意識の外にある。

 〇元教員:現場の先生が強く願っているのは超過勤務時間の減少と正規教員の大幅増です。学校の先生が足りないのです。正規教員が増えることで担任業務等に余裕ができ,超勤時間短縮になります。現状の時間講師等配置のまやかしでは、日本の教育がつぶれてしまいます。

 〇教員:中教審に現場教員代表みたいな人達を全然呼ばないで、現場知らないお偉いさん達が馬鹿みたいに自分達の理想ばかりを決めるシステム、どうにかしないと、現場ジェノサイドが止まりません。

 〇hope:子供が春から小学校教諭になりましたが、持ち帰り残業の日々ですよ。どの業種も人手不足でしょうが、教育は国力の支えなのでなんとかできないのでしょうか。

 〇中学校教員:人を大切にしようとする考え方を持てることが、教育にとって、日本の社会にとって何よりも大切です。

 〇先生:管理職の労務管理ができないのなら、定数大幅に増やして管理職副校長も3人くらいにして、分担して労務管理したら?労務管理できてないのにそもそもインターバルなんて無理に決まってるでしょ。コストかけないでどうにかできると思ってる見通しの甘さ、いい加減にしてほしい。

 〇教員:調整額10%にしたら、亡きものにされてる休憩や空きコマが確保できるんですか?定額働かせ放題が改善されて人が増えるんですか? ……

 この件では、岐阜県の高校に勤める西村さんがずっと現役教員の声を上げ続けています。文科省について「現場のために頑張ろうとしていると受け止めており、文科省の努力を腐したくはない」と、軽薄な小生などとちがって、敬意を示しているところが立派だと思います(これは仮に形式的、「戦略」的であったとしても、それ以上に大切なことです)。
 このままでは、現役の教職員の処遇はおろか、教職の不人気も、到底改善は見込めませんが、単に失望しているだけでは、ますます事態が動かなくなるので、諦め悪く(?)、「腐らず」に、今後も出来うる発言を続けていこうと思います。


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