ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

コバホークの「四苦八苦」

 自民党の総裁選は、先日選挙日程が発表され、小林鷹之氏に続いて立候補を宣言する人が相次ぐのかと思いきや、事前に名前の上がった者が10人もいるわりには、あとが続きません。先に手を挙げると小林氏のようにメディアにいろいろとあら探しをされて、痛くもない腹まで探られたんではたまらんということで、この際だから、みんなで歩調を合わせ、複数で「横断歩道を渡ろう」ということでしょうか。あるいは、キャストが出そろうまでじっくり時間をかけて、徐々に「祭り」を盛り上げていこうという(電通直伝の)作戦でもあるのでしょうか。そういう意味では、先陣を切った(切らされた)小林氏は今「前座」の務めを果たしていることになります。

 いち早く立候補会見をした小林氏は、知名度を上げるためもあってか、急に「露出」が増えましたが、顔は売れても好感度が上がっているかというと、必ずしもそうではないようです。まだ出そろったわけでもない自民党の総裁選に関して、特定個人をネタにするのはあまり本意ではありませんが、一説によれば、小林氏が決選投票に残るかも知れないという予想もあるので、この数日メディアを眺めていて、どんな政治家なのか、感じたことを少々述べてみます。

 まず、小林氏については、千葉県選出の衆院議員でありながら、小生もあまり存じ上げない人だったのですが、この間の話を聞いていると、あまり「新進気鋭」な感じはしません。「自民党は生まれ変わる」と宣言していますが、生まれ変わる前と後のちがいがよく見えないのです。そもそも現在の自民党が国民から厳しい視線を向けられているのは、組織的に脱法的な裏金を貯め込んでおきながら、つまり「犯罪」に手を染めたのにもかかわらず、ほとんどの議員が無罪放免で、税金も払わず、辞職もせずに議員に居座って、知らん顔をしてほとぼりが冷めるのを待っているからで、これは普通の社会、つまり会社や組織だったらまずあり得ない話なわけです。「自民党は生まれ変わる」と言うのなら、当然まずはこの裏金問題にきっちりとけじめと落とし前をつけなければならないところです。
 しかし、立候補会見を見た感じでは、小林氏にはこの件で「落とし前」をつける気概はほぼないようです。裏金事件の実態解明については、検察の調べが終わっている、とか、「党の調査には限界がある」と言っていますし、さらに、今後は安倍派の裏金議員の役職起用(復権)もあり得ることまで言及しています。これでは「生まれ変わる」のではなく「元に戻る」ことを望んでいるような印象です。
 それから、統一教会との関係を問われたときの返答も「旧態依然」としたものでした。統一教会の関係者に選挙を手伝ってもらってたんでしょ(ぼく知ってますよ)、という鈴木エイト氏の念押しの質問には、「一人ひとりの思想信条を聞くことには限界がある」と答えていました(これ、前に誰かが言ってたような答弁です)。それから、3年前、地元選挙区で開かれた旧統一教会関係団体のイベントで「公明党さんが勉強されている教えより、みなさんの勉強されている教えのほうが上ですよ」と発言したことの真偽(確認)を問われた小林氏は、「指摘いただいたような発言をした記憶はいっさいない」と答えました。通常「記憶」がない出来事は普通の人にとっては「なかった」ことです。それを「いっさいない」ではなく、わざわざ「記憶はいっさいない」と(伝統的お家芸のように)答えるのですから、これは疚しいことがあると白状しているようなものです。後で証拠を突きつけられてどうにも逃げられなくなったら、同党の先輩の誰かさんみたいに、ようやく「記憶がよみがえって参りました」などと言うんでしょうか。
小林鷹之氏と旧統一教会のズブズブ…総裁選出馬会見で突っ込まれ“逃げ”のトーンダウン|日刊ゲンダイDIGITAL
「自民党は生まれ変わる」小林鷹之氏の立候補表明にあふれる嘲笑「お前で何人めだよ」…岸田も小泉も麻生もみ〜んな “バカの一つ覚え” | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌]

 小林氏は一昨日の昼、テレ朝のワイドスクランブルにも出演していて(これは小生もたまたま見ていました)、あれこれ質問に答えていましたが、吉永みち子氏の選択的夫婦別姓に関する質問の答えもまた「旧態依然」の「人マネ」でした。これは日刊スポーツの記事から引用させてください。
「小林さん、それ、違う」選択的夫婦別姓めぐる小林鷹之氏の持論主張に吉永みち子氏が異論 - 社会 : 日刊スポーツ

……吉永氏は「国民がいちばん関心があること」として選択的夫婦別姓に言及。「自民党政権ではまったく進まない。即、進める気持ちはありますか」と問われると、小林氏は「いろんな考えがあると思う。進めたい方も、そうでない方もいらっしゃる」と応じた。「婚姻で姓が変わることで、不便を感じているニーズがあるのは認識している。現実的な選択肢として、旧姓の通称使用や併記は制度的に手当てされている。現実的に、スピーディーにニーズを解消していくことを考えると、制度改正は国民のみなさんにまだ周知されてない部分があるので、ニーズを解消していくことが1つのアプローチ」と述べると、吉永氏は「それ、小林さん、違う」と反論。「国民の方はかなり周知していて、賛成が6割、反対が2割から3割くらい。経団連も勧告をしている。周知が足りていないのはむしろ自民党の方」と、チクリ指摘した。

「女性が活躍する1歩を、なぜここでふさぐのかという問題がある。全員別姓にしろ、というのではなくて、選択制。道を広げることすらできないのは…」と、吉永氏から続けて疑問を呈された小林氏は「多様性は大切なので、いろんな議論をすればいいと思う。社会の中でいろんな意見がありますから、そこはしっかり国民的議論をした上で、1つ1つ、必要なら進めればいい。もっと国民的議論が大切」と述べたが、吉永氏は「もう、ずっと議論して長いですよ」とピシャリ。「もし本当に新しい時代を築こうとするなら、早急に決断するくらいの勢いで臨んでいただきたい。反対をしているのは何か?っていう。そこですよね」と、小林氏の主張に納得がいかない様子だった。

 小林氏は「選択的夫婦別姓」はなおも国民的議論が必要だと言って(言い張って)導入に反対していますが、他方、憲法改正について、自衛隊の9条明記と緊急事態条項創設には大賛成で、これは大いに進めたいと言っていました。しかし、今年5月のNHKの世論調査によると、憲法改正について「必要がある」と答えた人は36%、9条の改正については31%でした。緊急事態条項の創設も、各紙で数字の違いはありますが、多くとも50%がやっとくらいです。しかも、緊急事態宣言中は国政選挙をやらなくともよく、国会議員が任期に関係なく議員の座に居座れるという中身が国民に周知されたら、賛成者は激減するでしょう。
NHK世論調査 憲法改正「必要」は36%「必要ない」は19% | NHK | 憲法
憲法に「緊急事態条項」創設に「賛成」45%、機運高まらず 全国世論調査 | 毎日新聞

 一方、「選択的夫婦別姓」について、NHKの5月の調査では、賛成は62%、反対は27%でした。若い世代の賛成は7~8割で、高齢世代ほど反対が多いようです。ということは、小林氏は世論調査で36%の賛成しかないことを推し進めようとし、62%の賛成があることは「国民的議論が必要」(だから反対、もしくは時期尚早)だと言っているわけです。これはご都合主義というものです。国民からすれば時期尚早(「必要なら進めればいい」)なのは一体どっちなんだ、ということでしょう。

 こんな「矛盾」というかアベコベなことを言ってしまえる理由は、小林氏を「壺ホーク」と揶揄する人があるように、氏が旧統一教会との利害関係を濃厚に背負っていることと、立候補会見に多くの裏金議員が参列したように、旧安倍派復権の期待を背負っているからではないかと思われます。小泉進次郎氏とともに、今回の党総裁選の若手中堅議員の代表の片割れを担う小林氏は49歳――「若さ」を「売り」にするとしても(総裁選というよりその後に控える総選挙の方が眼目でしょうが)、発言の中身にはほとんど「若さ」が感じられません。今回の総裁選でライバルになるかも知れない小泉氏の父・純一郎氏は、かつて「自民党をぶっ壊す」と放言して総裁選を勝ち抜き、党内の反対派を「抵抗勢力」と称して偽装改革を推し進めましたが、そういうムードづくりの冴えもないようです。

 先陣を切ったことだけは評価しますが、そもそも小林氏はなぜ総裁選に立候補したのか。それは党の総裁になることよりも日本国の総理大臣になりたいということなのでしょうが、いったい首相として何をしたいんですかという疑問が付いてまわります(これは岸田首相にも言えることです)。
 今、米国でも11月の大統領選挙へ向けて選挙集会が開かれているので、その様子を見ると、ついつい比べてしまうのですが、政治家は国民が希望をもてる話をするべきで、そのためには自らの希望(願望)を語るだけでなく、(社会の)希望のありかを語らなければならないと思います。小林氏にもそういう姿を望みたいのですが、今のままでは閉塞感が増すばかりです。


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