ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「丸川は旧姓ですよね?」

 橋本聖子五輪担当大臣の後任となった丸川珠代は「男女共同参画担当大臣」も兼任する。氏はオリンピックの帰趨と同時にこの国のジェンダー問題にも取り組む立場にある。「男女共同参画」なる語はお役所言葉で普通の人はあまり使わない(「ジェンダー」も理解のある人以外は使わない)が、その目指すところは「男性も女性も、意欲に応じて、あらゆる分野で活躍できる社会」とされている。「男女(ジェンダー)平等社会の実現」でよいところを、敢えて「男女共同参画」なる語の使用にこだわるのは、「参画」ならぬ “画策” ごとでもあるのかと訝しく思う(内閣府では「男女共同参画」の英語表記を "gender equality" =「ジェンダー平等」としている)。

 その「男女共同参画社会基本法」の第4条にはこう書いてある。

<第4条> 男女共同参画社会の形成に当たっては、社会における制度又は慣行が、性別による固定的な役割分担等を反映して、男女の社会における活動の選択に対して中立でない影響を及ぼすことにより、男女共同参画社会の形成を阻害する要因となるおそれがあることにかんがみ、社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。

「中立」という語が二度も出てきて引っかかるが、この条文に照らし合わせると
 ①自民党の一部が執拗に反対している「選択的夫婦別姓」は「男女共同参画社会」の形成に「中立」でない影響=阻害 を及ぼすことになるのだろうか?
あるいは、
 ➁「男女共同参画担当大臣」が「選択的夫婦別姓」に反対するよう呼びかけている場合、その影響は「中立」なものなのだろうか? もし、「中立」なものでないとすると、上の第4条に抵触するのではないだろうか?


 ①について、夫婦同姓のしばりが改姓する側に不利益を与えるのは容易に想像がつく。個人のアイデンティティーの問題はもちろんのこと、実生活の上でも、運転免許証、保険の名義変更、クレジットカード、銀行口座、パスポート、印鑑?、会社への届け出の氏名変更、等々、この手続きの煩雑さ(時間、労力の浪費)を、この国では、現状95%以上は、女性が強いられている。また、結婚していることを特に知られたくもない人に、敢えて自己情報を「開示」することにもなるし、離婚・再婚で子どもの姓も変わるとすれば、子どもにも同じことが付いて回ることになる。
 「選択的夫婦別姓」はこれらの問題や煩雑さを解消ないし軽減するのだから、ジェンダー(男女)平等の方向に沿っていると思われるが、「男女共同参画社会」という用語を使うと、これが阻害的作用を及ぼすことになるとでも言うのだろうか?


 ➁について、丸川珠代大臣は、大臣就任前に自民党国会議員有志と連名で、自民党所属の県議会議長に宛てて、「選択的夫婦別姓」制度の導入に賛同する意見書を採択しないよう求める文書を送っていたというから、大臣は「選択的夫婦別姓」には反対なのだと解釈できる。どうして反対なのだろうか、また、これに反対の立場の人が「男女共同参画」(を推進する)担当大臣の任務を引き受けることに問題はないのか。3月3日に国会で氏は何度も質されたが、ほとんど回答を拒否し、やっとのことで次のように述べた。

「丸川は旧姓ですよね?」選択的夫婦別姓に反対の丸川大臣、国会追及に語った理由とは

<前略>
 福島社民党党首):かつて菅総理も上川大臣も夫婦別姓に賛成ということで答弁されています。答えているじゃないですか。丸川さんだけ、なぜ反対ですかってことに答えないのはおかしいじゃないですか。表明されているのだから、なぜ反対か、教えてください。
 丸川:私は私なりに職員のみなさまがた、これまでの議論を踏まえて、私の大臣として反対したわけではないということを踏まえて、答弁をさせていただいております。
(中断)
 以前は、一議員としての意見を表明いたしました。大臣として反対したわけではございません。こうやっていうのならば、大臣として私が賛成反対を申し述べることによって、議論を誘導することはしたくありません。その思いをぜひ、ご理解いただければ幸いでございます。
(中断)
  福島:かつて反対した理由を教えてください。
 丸川:かつて私がもった意見というのは、あの、まあ家族の一体感について、議論があって、これは家族の根幹にかかわる議論なのだな、という認識を持ったからです。
 福島:丸川は旧姓ですよね。家族で姓が違いますよね。家族の一体感がないんですか?
 丸川:まさに「丸川」というのは私の通称名でございまして、選挙のときも、通称名を使っておられる方も大勢いられるかと思います。この通称と氏というのが別のことだということが、なかなか国民のみなさまの理解を得られていないところもございまして、私は、氏は「大塚」でございます。
  福島:国会議員は委員会や表示は通称使用が許されています。でも一般の人は、姓を変えたんだから戸籍名をちゃんと使えと圧力がかかったりします。一般の人の苦労をご存知ですか?
 丸川:大臣に就任して驚いたことがありました。法律が仕上がったときに、閣議でサインをします。福島先生もサインもされたのではないかと思いますが、あの閣議でやるサインは、本名でした。「大塚珠代」でした。
 私は自分は旧姓、通称名で選挙をしていますので、非常に違和感がございまして、内閣総務官室に、これはおかしいのではないかというお願いをしました。数年かかりましたけれども、そこは丸川珠代で書かせていただけるようになりまして、やはり通称使用の拡大はこれからも取り組みが必要だろうと思います。

 要するに、丸川氏にとっては
 1)「夫婦姓」に特に強いこだわりはない。けれども、自民党国会議員同士の議論というより人付き合い?から、「選択的夫婦別姓」制度の導入に賛同しないよう求める文書に署名した。その方が得策?と当時(1月30日)は判断していたから。
 2)結婚後も「丸川」(=旧姓)を使用しているのは、姓を変えないままの方が実利的だから。でも、これは「通称」!使用であって、「別姓」ではない??
 3)担当大臣が立場上「選択的夫婦別姓」に反対するのがよろしくないことくらいは理解している。以前のこと(と言っても今年の1月末の話)を持ち出して整合性を問題にしないでほしい。大臣の顔(立場)と一自民党議員の(33日前の)顔(立場)は別である?(わきまえている? 都合よく……)
 ……ということかと思う(ほとんど推測だが、意味は不明)。

 しかし、このような答弁をする(というか、ふつうの受け答えをしない)人を大臣ポストにつけるのは、どんなものかと思う。さらに、他の部署ならいざ知らず(!?)、よりによってこの担当大臣は丸川氏には不向きだろう。任命する方も任命する方だが、受ける方も受ける方である。できることなら「男女……担当大臣」だけでも兼務を解かれることを望む。

 また、「中立」という語に、さも「公正」な響きを持たせているが、何かの意思表示をしたら、それが「中立」侵害になるのであれば、何もできなくなる。そもそも「男女共同参画社会」を実現しようとすること自体、一定の価値観に立っているのだから、これは “自己矛盾 ” であろう。結局、決めたい側の思い通りに事を進めるための口封じ(あるいは、だんまり)の道具(方便)がこの「(政治的)中立」ということにならないか。男女共同参画の担当大臣が「選択的夫婦別姓」の考え方を問われて何か答えると議論を誘導する=「中立」を侵害することになって都合が悪いというのなら、どういう人の発言なら「中立」を侵害しないとお考えなのか、是非お尋ねしたいものだ。「選択的夫婦別姓」の賛否やその理由を尋ねることなんぞ、大臣としての資質を確認するための当然の質問のひとつではないか。


 なお、3月8日の「国際女性デー」を前に、3月4日付の江刺昭子氏の文章が勉強になったので、下に付す。丸川大臣も、是非お立場上、こういう経緯を熟知し、知識を共有されるよう願う。

「国際女性デー」に冷水浴びせた担当大臣 国連議決を無視し続けた政府 | 47NEWS
右翼と官憲に踏みにじられた初の女性デー 理想求め続けた女性に学べ | 47NEWS


 追記自民党は「選択的夫婦別姓」の導入を検討するプロジェクト・チームを新たに設け、議論を再開させる方針を固めたと今朝報道された。「選挙」が近くなければ、こんなポーズさえとらないことだろう。選挙では自民党公認候補(もぐりを含む)には一切入れない。それが「選択的夫婦別姓」の一番の近道である。



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