ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

新聞を読んで

 むかしNHKラジオに「新聞を読んで」という番組があり、わりと楽しみにしていた記憶があります。調べてみると、1953年から始まり、東日本大震災が起こった2011年3月末まで、半世紀以上も続いていたようです(震災と番組終了は無関係です)。今でも装いを変えて、識者のこうしたコメントは続いていると思いますが、最近のTVのワイドショーなどを見ていると、コメントする人たちの中に、およそ専門知識や裏付けもないのに、思いつきでペラペラしゃべる人がいて、ほんとうに有害だと感じます。NHKも民放も良識ある番組作りの枠がどんどん狭められ、関係者は大変だと思うのですが、灯火を絶やすことがないようにと願います。

 さて、今朝新聞を読んでいて、心に引っかかる記事が複数ありました。こういうときに識者の意見が聞けて、さらに深掘りができるといいのになあと思いつつ、まず、今朝の毎日新聞1面左上の「麻生派裏金 17年以前も 元議員「誰も違法と思わず」」という見出しのついた記事。これは昨日の一面の記事の続報でもありますが、安倍派、二階派、岸田派と来て、麻生派(だけ)は裏金づくりとは一切無関係ですからと言い張られても、もはや誰が信用するでしょうか。自民党が組織ぐるみで違法行為に手を染めていたことは間違いありません。そう感じるのは、たとえば、5面の「自民党総裁選」の記事を見ると、こんなふうに書かれているからです。
自民党総裁選:自民総裁選 裏金争点、逆風の安倍派 | 毎日新聞

……「あの発言はひどくないですか」
 安倍派の西村明宏国対委員長代行のもとに、同派議員から不安の声が寄せられた。「あの発言」とは、石破茂元幹事長が8月24日の出馬記者会見で発した言葉を指す。石破氏は裏金に関与した議員の選挙での公認について「自民党として公認するにふさわしいかどうか、選挙対策委員会で徹底的に議論されるべきだ」と言及していた。公認の有無は議員生命を左右するだけに、派内の動揺が一気に広がった。
 「裏金事件」を巡る対応は、総裁選の大きな争点になりつつある。石破氏に続いて出馬会見した河野太郎デジタル相は、政治資金収支報告書への不記載があった議員に対し、不記載相当額を国庫返納させる考えを示した。野田聖子総務相も裏金事件に関わった議員は「無所属で出馬すべきだ」との認識を示した。
 早速、反発したのが安倍派の最高顧問を務めた衛藤征士郎衆院副議長だった。毎日新聞の取材に、公認に関する石破氏らの発言について「公認は総務会で了承される。独裁的な考え方だ」と批判した。……

 日本語の問題として「独的」ではなくて「独的」の間違いじゃないかと思えますが、それにしても、衛藤征士郎(あえて敬称はつけません)と言えば、今年の2月に自民党の裏金問題をめぐって、政倫審に「求められれば(該当者は全員)出席するのがいい」と言っておきながら、その後実際に政倫審招致が求められると「党としてのけじめはもう終わってますから。……以上」とぬかした恥知らずな大嘘つきです。
衛藤征士郎に有言実行を求む 以上! - ペンは剣よりも強く

 まだ党内の実力者然としてコメントしているところが哀れですが、違法行為をした議員を党が公認するということは、違法行為を党として認めるということになります。こうしたケースでは、普通に考えたら、違法行為に関与した議員は党として一人として公認できないと宣言しなかったらおかしいわけですから、それを「おかしい」と言えないとすれば、裏金は組織ぐるみ(みんな)でやっていたということを自ら証明することになるでしょう。

 続いて、2面の「自民改憲案「自衛隊明記」 論点整理「文民統制」追加も」という見出しの記事。
改憲:自民改憲案「自衛隊明記」 論点整理「文民統制」追加も | 毎日新聞

 自民党は2日、憲法改正実現本部の会合を開き、憲法9条への自衛隊明記などに関する論点整理をまとめた。「自衛隊の保持」を盛り込んだ2018年案を踏襲しつつ、文民統制シビリアンコントロール)の規定を追加することも「選択肢の一つ」と明記した。党総裁選での改憲議論を活性化させる狙いがあるが、野党との溝は深く実現の可能性は見通せない。
 会合には岸田文雄首相(党総裁)が出席。「自衛隊明記を含めた複数のテーマについて一括して国民投票にかけるべく議論を加速していく」と意義を強調した。ただ、首相は既に退陣を表明しており、「新しい総裁にも引き継いでもらえるよう、しっかり申し送りをする」と語った。……

 「味噌も〇も一緒」という表現がありますが、私的に言って、ここに「味噌」はないですね。でも、自民党にとっての「味噌」は「一括」ということころでしょうか。一つひとつに賛否が分かれる問題の条文を、何と「一括」して(一気に)ケリをつけようというのですから、末恐ろしい話です。
 違法行為に手を染めて反省しない政党、法を遵守する気もない政党が躍起になって法律を変える(こともあろうに憲法を、です!)と言っているわけで、こういうことは、まず法律を守れるようになってからおやりくださいというべきでしょう。衛藤征士郎の「独裁(独善)的な考え方だ」という批判は、むしろこちらに向けた方が妥当です。

 最後に、4面の「「人質解放」を30万人デモ イスラエル ガザ交渉手痛いに不満」という見出しの記事の、とりわけ「6遺体に米衝撃」という部分について。
イスラエル・パレスチナ:「人質解放を」30万人デモ イスラエル ガザ交渉停滞に不満 | 毎日新聞

 パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、イスラエル国内で1日、イスラム組織ハマスとの停戦合意や拉致された人質の解放を求める大規模デモがあった。8月31日にガザで人質6人が遺体で見つかり、イスラエル国内ではネタニヤフ首相の停戦交渉の進め方に不満が高まっている。
 イスラエル最大の労働組合のトップは2日、ストライキを呼びかけ、反発は大きなうねりとなっている。
 「戦争をやめろ」「(救えなかった)私たちを許してほしい」。1日、商都テルアビブの中心部には約30万人が集まり、人質の早期解放を求めた。
 夫が人質で、自身もハマスに一時拘束されたアビバ・シーゲルさん(63)は「ネタニヤフ氏が人質を見殺しにした」。ITエンジニアのオル・セラさん(46)は「最も大切なのは人質の生還だ。ネタニヤフ氏は選挙で負けることを恐れて戦争を続けている」と非難した。
 今回、遺体で見つかったのは、20~40代の男女6人。イスラエル軍が発見する直前に殺害されたとみられる。イスラエル紙ハーレツによると、6人のうち3人は、今回、停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった。
……

6遺体、米に衝撃
 ガザ地区での人質6人の遺体発見は、イスラエルと関係が深い米国でも衝撃が広がっている。
 「6人は直前まで生きていた。明らかに停戦を進めないネタニヤフ政権の失態だ」。ネタニヤフ首相に対して人質の解放を最優先に取り組むよう求めてきた在米団体の代表で、イスラエル出身のオフィル・グテルゾンさん(48)は取材にこう指摘した。
 グテルゾンさんの団体は米国各地でネタニヤフ氏に対する抗議デモを行うなどしてきた。1日にも西部カリフォルニア州でデモを行い、在米のイスラエル人を中心に約200人が参加。グテルゾンさんは「今こそネタニヤフ氏に最大限の圧力をかける時だ」と訴える。
 今回遺体で見つかった一人は米国とイスラエル二重国籍のハーシュ・ゴールドバーグポリンさん(23)。昨年10月7日に野外音楽イベントを訪れた際、ハマスに拉致され、片腕を失っていた。ハーシュさんの両親はメディアに頻繁に登場していたほか、8月21日には民主党の全国大会でも登壇し、人質の解放や即時停戦を訴えていた。
 バイデン米大統領は8月31日の声明で「私は打ちのめされ、憤慨している。ハマスの指導者は代償を支払うことになる。残りの人質を解放させる合意に向けて取り組む」と述べた。

 イスラエルであろうが、ハマスであろうが、人の死は同じです。だとしても、ガザ地区の死者は毎日、毎日……それこそ、ほんとうに毎日、毎日増え続け、4万人を超えています。「6遺体に米衝撃」という見出しには率直に違和感を抱きます。あえて絡むのですが、バイデン大統領は、ガザ地区パレスチナ人の死者数には「打ちのめされ」るのか、されないのか。

 今年の4月に開催されたというオンライン・トークイベント「パレスチナ連続講座」で早尾貴紀さんはこう言っています。世に言われるドイツの大哲学者ユルゲン・ハーバーマスハイデッガーと比べる下りには、個人的に「打ちのめされる」思いがします(これは必ずしも早尾さん自身の考えではありませんが)。ハーバーマスは現在95歳です。公共哲学をテーマに20世紀から長く世論をリードしてきた「大御所」が、95歳まで長生きして、今これか!という気持ちがします。
イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの? 早尾貴紀——前編|じんぶん堂

ドイツの良心的知識人がイスラエルを支持する理由
 ドイツがイスラエルのガザ攻撃を支持していることに関して、「ホロコーストの加害に向き合ってきたドイツがなぜジェノサイドを容認するのか」という疑問や、逆に「ホロコーストの罪悪感からイスラエルを支持せざるを得ないのだ」という解釈を耳にします。ダバシ(引用者註:イラン出身の在米の研究者ハミッド・ダバシ)はそのいずれでもないことを2024年1月18日に発表した論考「ガザのおかげでヨーロッパ哲学の倫理的破綻が露呈した」で述べています。
 23年11月、ドイツを代表する哲学者のユルゲン・ハーバーマスは「イスラエルのガザ攻撃は正当な反撃であり、ヨーロッパはイスラエルと連帯すべき」という声明を連名で発表しました。ハーバーマスは、ヨーロッパの民主主義、合理主義、ヨーロッパ的理性を擁護する政治哲学者として非常に有名な人です。
 このことについてダバシは、第二次大戦中に大哲学者であるマルティン・ハイデガーがナチズムに加担したことと同様に、大哲学者にしてつまずいたのではなく、ヨーロッパ近代合理主義の哲学者が持つ限界であり、ヨーロッパ中心主義、レイシズムイスラーム嫌悪をハーバーマスが持っているからだと指摘しています。
 ヨーロッパは、アジア、アフリカに対してヨーロッパ中心主義とレイシズムを持ち、それを植民地主義帝国主義というかたちで実践してきたことを反省していません。ハーバーマスは、民主主義を成立させる理性を議論しますが、その理性はヨーロッパ人しか持っていない、アラブ人にはそんなものはないという思想を持っています。だから、ドイツの良心的知識人は一貫してイスラエルを支持しているのです。
 日本はパレスチナに対する責任はない、ということもよく聞きますが、歴史を振り返るとそうではないことがわかります。大日本帝国はアジアでヨーロッパ諸国と利害を競合する関係でしたが、日本は対ロシア戦に集中するために、1902年に「日英同盟」を結びました。これによって日本は朝鮮に対する単独の植民地支配を実現しました。そして、第一次大戦後にオスマン帝国が解体されてイギリスがパレスチナ委任統治という名目で手に入れたとき、日本はドイツ帝国の植民地だった南洋群島委任統治国際連盟に認めさせました。つまり、イギリスのパレスチナ委任統治と、日本の南洋群島委任統治は相互承認だったわけです。
 第二次大戦敗戦後も日本は一貫してヨーロッパ植民地主義的の枠組みの中にあり、現在日本政府はイスラエルを擁護しています。ガザで起きていることは、私たちと無縁ではありません。

 「関空 浮沈の30年」の「空港島 かさ上げ」も怖ろしい話ですが、長くなりそうなのでここまでにします。
検証:関空、浮沈の30年 浮…LCC注力、訪日客つかむ/沈…空港島かさ上げ、防災難題 | 毎日新聞



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