ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「右派雑誌」の言説

 哲学系ユーチューバーじゅんちゃんの動画に編集者・広告研究家の早川タダノリさんが出演し、安倍氏銃撃事件後の「右派雑誌」の記事(電車中吊り広告)や右派論壇について話をされていて、興味深かったです。この種の雑誌は見出しだけ、新聞の紙面広告で目にすることはあっても、買って読むことはないので、こういう解説は新鮮な感じがしました。

安倍晋三と右派雑誌(Hanada,WILL,正論など)のこれからと今後 ~早川タダノリ先生インタビュー~ - YouTube

 ここで言う「右派雑誌」とは「正論」、「WiLL」、「Hanada」の3誌です(昔だったら「諸君!」=2009年休刊 も入るかも知れません)。早川さんによると、3誌にまたがって書いている執筆者が幾人かいるようですが(代表格が櫻井よし子氏)、その内容たるや(同じ内容の繰り返しで)、ある程度予想はしていましたが、やっぱりという感じで、小生にはfanaticなものにしか思えません(「婉曲」のため英語にしておきます)。
 執筆者たちが、事件後、どういうことを述べているか、早川さんの引用に若干の補足をし、孫引きします。

<切々と故人(安倍晋三)との思い出を語り、賛辞を送る人々>
櫻井よし子(国家基本問題研究所理事長ほか)
 私の安倍さんとのお付き合いは十年程度でしたが、はっきり言えるのは、彼は政治家としてずば抜けて超一流、人としても実に優しくて思いやりがある配慮の人です。むしろ優しすぎました。
(『月刊Hanada』2022年9月特大号)
 たとえば、安倍氏は、超一流の家系に生まれました。幼少期から「リーダーとはいかにあるべきか」という帝王学を身につけていたのでしょう。だからこそ、揺るがない国家観をもっていました。これぞ「真のエリート」です。
(『WiLL』2022年10月号、門田隆将との対談)

門田隆将(作家、ジャーナリスト)
 「ああ、日本が終わった……」二〇二二年七月八日金曜午後、「安倍元首相銃撃」「心肺停止」の衝撃ニュースが流れた時、私の頭の中を一瞬で貫いたのは、そのことだった。
(『月刊Hanada』2022年9月特大号)

八木秀次(法学者、麗澤大学教授)
 ふと思う。安倍氏は天が遣わした救世主だったのかも知れない。罵詈雑言という石磔を投げつけられ、その延長線上で逆恨みされて命を奪われた。その中でも信念を貫き、実現し、世界からも求められるリーダーとなった。
(『正論』2022年9月号)

金美齢(台湾出身の評論家)
 いままで私は、総合点で日本は世界一だと思っていました。それは安倍さんがいたから。安倍さんがいなくなって、そう言えなくなった。だけど、嘆いていても仕方がない。日本がちゃんとしていないと、この地域の平和はあり得ない。だから、私たち一人一人は何をできるかを考えないといけない。
(『正論』2022年9月号)
 「安倍さんがいない日本」が、まだ私には想像がつかないし、実感も持てない。これから、誰を応援すればいいのか。私だけでなく、多くの人の心に大きな穴が空いてしまいましたし、日本はもちろん、世界にとっても埋めがたい損失であり、喪失です。
(『月刊Hanada』2022年9月特大号)

 現実世界をどういう切り口で見ると腑に落ちるかは、人それぞれです。「右派」にしろ「左派」にしろ、あるいはそのどちらでもなくても、個々人が「世の中はこうあるべき」と考えるときに、立場が分かれていくのでしょう。趣味や好き嫌いもあるとは思いますが、そのこと自体は論難できません。
 この3誌の執筆者たちについて言えば、彼らの頭の中では、日本国と安倍晋三はつながっていて、安倍賛辞は日本の賛辞(逆に、安倍批判は日本批判)になるようです。中には、その安倍賛辞や日本賛辞は、安倍信奉者である自分への賛辞や自己顕示にもつながっているような人も見受けられます。だからなのか、安倍氏に向けられた些細な疑問や批判に対して、時に烈火のごとく怒るのを目にします。しかし、時の権力者によりかかって自分を権威づけ、あげくに権威と自分を一体化させ、すごい、すごいと褒められることに生きがいを感じているとしたら、自分は某有名人と同郷だとか、知り合いだとか言ってご満悦な人と大差ないでしょう。それにしても、「超一流の家系」とか「天が遣わした救世主」とか……こうした物言いは何とかなりませんかね。

 まあ、それはさておき、この「右派」とみなされている論者のみなさんが、旧統一教会の「日本=エヴァ国家」論や、旧教会トップがこともあろうに北朝鮮と結び、日本の信者から巻き上げた金を密かに北朝鮮に送金していた件については、どんな所論をお持ちなのか(怒らないのか)。しかも、この人たちが心酔してやまない安倍氏は、その結節点に立つキーマンかも知れないのです。教会から寄付名目や霊感商法であり金をむしり取られて人生をねじ曲げられた大勢の信者と二世三世の被害に対する所見を含め、是非、3誌にそれぞれのお考えを発表していただきたいものです。

 伝聞情報によれば発刊部数がWiLLで8万部、Hanadaで6万部、正論が5万部だそうです(文春は約50万部)。早川さんが指摘しているとおり、現実の政治がこうしたemotionalな部分をバネにして動いているとすれば、この部数から推計される「固定層」や「岩盤層」の、あるいは、それらの層への影響力は、そうそう看過できないと改めて思います。



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