ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

見切られるか、虚勢の核武装論

 最近の円安を見ていてると、その筋に「見切り」をつけられたように思うのですが、とにかく底なしで、歯止めがきかない感じです。為替相場は1月・2月はだいたい1ドル115円前後で動いていましたが、3月中旬以降116円台に入ると、ほぼ一本調子で下がり始め、今や130円台突入は時間の問題といった様相です。投機筋からすれば、日銀が金利引き上げに一切言及せず(封じ手にして)、何とかの一つ覚えみたいに国債の「指し値オペ」を続けてくれるのですから、こんな楽な儲け話はないのかもしれません。「口先介入」はさておき、日銀は何か別の手を打てるのでしょうか。
円買い介入、可能性薄く 市場は警戒、国際協調困難か | 毎日新聞

 軍事アナリストの小川和久さんの「虚勢に過ぎぬ核武装論」を読んでいて、上の円安「見切り」と似たものを感じたのですが、とりわけ最近各地の講演で気勢(虚勢)を上げるプーチンの元大親友(自称?)の言う日本の安全保障論(核武装論)は、専門家に言わせれば、「つまみ食い」が過ぎて話にならないのかもしれません。小生も、日米安保を堅持して日本を核武装するというのは、矛盾というか、無理なんじゃないかと漠とした疑念をもっていましたが、小川さんの話によれば、肝心な部分を全く詰めて考えておらず、実務的にはまるで絵空事です。こんなレベルの話を大っぴらにされ続けたら、小川さんが最後に述べているように「諸外国に対して日本の安全保障面のレベルの低さをさらすこと」になりかねません。それは歯止めない円安に現れている「日本売り」「日本は安パイ」という評価と同様の事態を招くのではないか、いや、もう分かっている人には周知のことかもしれませんが…。

 以下、4月21日付毎日新聞の記事より引用させてください。

日本が核抑止力を備える条件はあるか 虚勢に過ぎぬ核武装論 | | 小川和久 | 毎日新聞「政治プレミア」

 これまで叫ばれてきた日本の核武装論は、戦略的視点、軍事的合理性、実現可能性を無視した机上の空論に終始してきた。
 特に大前提となる戦略的視点について、日本の安全保障上の選択肢が ①日米同盟の徹底活用 ②武装中立のいずれかしかないこと、そして、日本の軍事力(自衛隊)が同じ敗戦国のドイツとともに自立できない構造に規制されている現状、を視野に入れていない。
 そのような日本が本格的に核武装するには、日本の軍事的自立を否定している米国との同盟関係を解消し、武装中立の道を歩む必要がある。
 武装中立の道に踏み出し、現在と同レベルの安全を独力で実現することを目指すには、防衛費は防衛大学校武田康裕、武藤功両教授が著書「コストを試算! 日米同盟解体」(毎日新聞社)で提示している年間23兆~25兆円になることは覚悟しなければならない。

 著しくバランスを欠いている自衛隊の戦力構造も抜本的に変えなければならない。現状は、海上自衛隊の対潜水艦戦(ASW)能力と航空自衛隊の防空能力が世界有数のレベルに突出している一方、その部分に多額の支出を要する結果、残る軍事的能力は平均的な水準にあればまだしも、最初から備えることを諦めているものも少なくない。

米国との役割分担
 これは日米安保体制の中で、海上自衛隊はASWとシーレーン防衛、航空自衛隊は米国の戦略的根拠地である日本列島の防空、陸上自衛隊は84カ所の米軍基地を置く日本の国土を守るという役割分担を引き受けた結果である。これを質量ともバランスのとれた軍事力に改め、通常戦力で核兵器を守る形にしなければ、核抑止力を機能させることはできない。
 また、日米同盟を解消した瞬間に米国の核抑止力が失われ、日本は危険にさらされることになる。ただちに軍事攻撃が行われることはなくとも、日本列島の地政学的な重要性から、ロシア、中国の干渉は避けがたいものになるだろう。そうなると、場合によっては米国がロシア、中国を排除し、再び日本列島を軍事占領してでも戦略的根拠地を確保しようとする可能性すら出てくる。武装中立に踏み出した段階では、日本には大国の干渉を退ける外交的・軍事的能力は備わっていない。

高いハードルと国民生活への影響
 日本の核開発能力にも高いハードルがある。技術先進国の日本なら、3年もあれば核兵器保有は可能との研究もあるようだが、これは核開発のノウハウを持たない日本の研究開発の実情を知らず、外国の干渉や妨害、予算などの制約を無視した机上の議論である。米国、中国、ロシアが日本列島の争奪を企てる国際環境のもとで、秘密裏かつ迅速に核開発を推進できると考える方がどうかしている。
 核武装は国民生活にも影響を与える。核武装に踏み切れば、日本は日米原子力協定を破棄せざるをえず、ウランを輸入できなくなる。供給済みウランは返却することが義務づけられている。プルトニウムを使ってプルサーマル発電用のMOX燃料を作ることもままならない。いずれは太陽光や風力で発電量の過半をまかなうにせよ、核燃料の国内備蓄が3年分ほどしかない日本は、その過程で原子力発電を断念せざるを得ず、リニア新幹線などへの打撃は避けられない。

妄想のようなもの
 NATOの5カ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)が米国の核兵器の国内展開を米軍の監督下で認められてきた「ニュークリアシェアリング」についても、整理すべき課題を残している。賛成論者は「日本が核報復能力を持つことで敵国の先制核攻撃を防ぐことができる」と主張するが、これは核抑止に関する一般論に過ぎない。
 ニュークリアシェアリングは、もともとヨーロッパの大平原を侵攻してくるワルシャワ条約機構軍の地上部隊や航空機の大群を撃破するための小型の戦術核兵器(核爆弾、核弾頭型地対地ミサイル、地対空ミサイル)に関するものだ。目的はワルシャワ条約機構軍の阻止に限られており、ソ連に対する戦略的な報復核戦力は米国が担ってきたことを忘れてはならない。

 理屈だけを言えば、北朝鮮、中国、ロシアと海を隔てて対峙(たいじ)する日本が保有を検討すべきは、米国が既に廃棄した準中距離弾道ミサイル・パーシングⅡ(射程1770キロ、5~50キロトン核弾頭)や核弾頭型トマホーク巡航ミサイル(同2500キロ、200キロトン核弾頭)のような準戦略核兵器のレベルである。この場合、核巡航ミサイル北朝鮮領海から遠くない海中を遊よくする潜水艦からの発射となる。しかし、いずれも日本の軍事的自立を前提とする話で、日米同盟を選択する限り、米国が保有を認めることはあり得ない。

 以上を見れば、日本の核武装論の実態はリアリズムとは対極にある妄想のようなものと言わざるを得ない。
……近年、「自分の国は自分で守る」との声が高まり、呼応するかのように核武装論が浮上した印象があるが、リアリズムに基づくステップを踏まなければ、いかに気勢を上げたところで、虚勢を張る域を出るものではない。
 これは、とりもなおさず諸外国に対して日本の安全保障面のレベルの低さをさらすことでもある。
……

 昨日のブログでも書きましたが、日本の核武装自体に反対なので、くどくどとこんなことは書く必要はないのですが、しかし、あまりにレベルの低い人間が背伸びをして、国内はおろか外国でも「日本国元首相」の肩書きで日本(や東アジアの)の安全保障について講釈を垂れるとなると、これは「国益」にかかわるという話です。だいたい円安の原因をつくった張本人は、この方ではないのでしょうか。



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