ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

晩秋の神田神保町・古本祭りを思う

 10月の末になり日が短くなると神田の古本祭りを思い出す。残念ながら今年はコロナのために中止となったようだが、ひところは毎年よく通ったものだった。小生のような地方の田舎者には電車を乗り継ぎ東京都心に出ていくのはけっこう大変なのだが、江戸川を渡ったあたりからだんだんと胸がときめいてきて、JR御茶ノ水駅を下りて改札を抜けると、そこはいつも青空が広がっているような感覚があった(曇りや雨の日だってあったはずだが……)。今はもう、長いこと電車にさえ乗っていないが、早くありし日のような「身軽さ」を取り戻せないものかと、重くなる一方の身体を感じながら頭の中だけは「身軽」に装っている。

 きっと今では風景が一変していると思うが、2020年の神田古本祭りに行ったつもりになって、頭の中で地図を片手に古書店街を歩いてみよう。

http://jimbou.info/news/images/huruhonfesu/huruhonfesu2020_kosyotenmap_pdf_a.png


 いつもは御茶ノ水駅の西口を出るのだが、今日はニコライ堂が見たくなって東口から出てみた。晩秋の午前のニコライ堂はしっとりした空気に包まれ、ここだけが異国のような佇まいをしている。せっかく来たから写真を一枚と思って、通りからカメラを向けると、背後に高層ビルが見えて、やっぱり都心の一角だったことを思い知る。
 日大の病院の脇を通って明治通りへ出ると、リバティータワーが聳えたつ。明治大学と言えば、昔は立て看板が並び、狭い歩道を人が雑然と交差していたものだが、今やすっかり空間が開けてきれいになってしまった。学生さんたちも何となくおしゃれな感じがする。

 駿河台の坂を下っていくと、いつも最初に訪れる小さな書店がある。文庫ばかりの川村書店だ。絶版となった文庫もけっこうおいてあったりする。学生当時に入手が難しかったゲルツェンの『ロシアにおける革命思想の発達』を見つけたときには、思わず「あった!」と声を出してしまった。今ならネットですぐ手に入るのに……。
 時刻は11:30前。少し早めに昼飯を食べることにする。隣にカレー店もあるが、戻って裏通りを行くと、博文社の隣にとんかつ駿河という店がある。とんかつとエビフライ(季節によってはカキフライ)くらいしかメニューがない店。でも、キャベツとご飯大盛、ナポリタンにシジミの味噌汁もついて700円くらいで、学生さんにはありがたいお店だ。今は建て替えられて店員さんも替わり、別のお店になってしまったが……。

 腹くちくなったところで午後のスタート。目の前に大書店・三省堂がある。お金に余裕があれば入ってエスカレーターで上がっていくが、今日は脇を抜けてすずらん通りに出る。右前方にあるのが東京堂書店。裏通りのせいか、それほど混んでないのでゆっくり本が見られる。たまに古本かと見まがうほどの年代物があったり、階段の踊り場に各種新聞の書評などが掲示されていたり、本屋としての姿勢が感じられておもしろい。時節柄カフェも併設されるようになった。
 何冊か新刊本を買ったら、また表の靖国通りへ戻る。東陽堂書店や玉英堂をのぞきながら、村山書店へ。ここにおいている古本はわりと趣向が合うので、お宝に出会えないかと本棚を凝視する。確かコルバンの『においの歴史』や『資料 フランス革命』はここで手に入れたような……。
 続いて小宮山書店へ。ここも奥に好みの本がけっこうおいてある。チェルヌイシェフスキーの『「J.S.ミル経済学原理」への評解』はここで見つけたのではなかったか……。

 最初は一軒一軒のぞきながら進んだが、もう今では回るところはだいたい決まっていて、小宮山書店を出ると、白山通りを渡って、岩波書店まで一直線。岩波ホールで映画を見ることもあったが、たいがい上映時間が合わないので、映画の看板を見るだけ。2016年に岩波のブックセンターが閉店になったのは、何とも残念な話。代わってオープンしたという新装の「神保町ブックセンター」はどんな感じなのだろうか?
 神田古書センターのビルも、狭い階段を上がり下がりして一軒一軒のぞいてみることもあったが、今日はスルーして南海堂書店へ。ここは古本祭りの期間中はいつも割引してくれる。ロシア史関係の絶版本を見つけて買ったこともあったな。

 時間に余裕があればこの先へ進むが、古本祭りをやっているので、岩波ホール脇まで戻って青空市をのぞく。コロナがなければすごい人込みになっていただろう。白山通りを渡って裏手に入り、すずらん通りに戻ると、古本祭りの最中はここでも露店が並び、焼きそばだったり、コーヒーだったり、いろいろな軽食屋が出ている。本の在庫セールもあり、晶文社のブースで鶴見俊輔さんの『期待と回想』を買って、帰りの電車の中でずっと読んでいた。……

 本好きにはこんなにも満たされた一日を過ごせるはずの古本祭りが、今年は開けないとは本当に残念でならない。関係者の方々にとっても中止の決断は痛恨だったと推察する。1週間にわたって開催すれば当然本の大敵“雨の日”に当たるし、来客の安全とか、催し物とか、いろいろと神経をつかうのに、今回は加えてコロナの感染対策が十全にできるかどうか、議論があったことだろう。
 こんなお気楽な回想は失礼と承知しつつも、いつの日かまたあの賑わいを取り戻してくれることを願って駄文を連ねた。小生もそこに加われることを心底願っている。




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