昨年10月、Twitterへの投稿内容が名誉毀損にあたるとして、自民党の世耕弘成氏(当時経産大臣 現在参院幹事長)が、青山学院大学教授の中野昌宏氏に損害賠償と謝罪文の掲載などを求めて東京地裁に提訴した。これに対し、中野氏は先月9月25日、世耕氏の提訴はスラップ訴訟(恫喝訴訟) に当たるとして、対抗訴訟(反訴)を起こした。
東京新聞9月25日付 「嫌がらせ目的のスラップ訴訟だ」 自民・世耕議員の提訴に青学大・中野昌宏教授が反訴:東京新聞 TOKYO Web
中野氏は昨年2月と今年7月、世耕氏について「原理研究会(統一教会)出身だそうですね」などと投稿した。これに対し、世耕氏は「所属したことはなく、投稿内容は虚偽だ」としている。事実無根なら中野氏の投稿は「虚偽」ということで終わりそうだが、話はそれほど単純とも言えない。中野氏側の主張のポイントは、
① 世耕氏が中野氏に対し事前の否定や反論、削除要請もなく、いきなり提訴したことは威圧・恫喝=スラップ訴訟に当たる。
➁ 伝聞や推論に基づく主観的な投稿とはいえ、このレベルで名誉棄損になったら政治家に対する批判的言説ができなくなる。
その他、世耕氏側は、類似した投稿に対して逐一反論しないという姿勢を示すなか、なぜ中野氏が「選ばれた」のかという問題もあるが、これは中野氏が大学教授という立場にあり、また実名投稿していて、「標的」にしやすく、その「効果」も大きいと世耕氏側が判断したからだと解釈しておく。
中野氏側が公開している「訴状」はこちら。
https://socioanalysis.net/slapp/wp-content/uploads/2020/09/nakano_slapp_20200925_counterclaim.pdf
これは見過ごせない内容を含んでいる。小生も、連日、政治や政治家にかかわる言説を綴っている。中野氏の場合、「政治風刺」ではないものの、この程度の「嫌味」で政治家の損害賠償請求が認められるとしたら、小生のような小市民及びその他大勢は、スガアベ両総理大臣様から何回賠償請求されるかわからない。それは、賠償問題にとどまらず、社会を萎縮させ、自由な言論を封じ込めることにもつながる。この点、日本学術会議の任命拒否問題と通底する話だ。中野氏を支援しなければいけないし、中野氏にしても単に自身のためだけに訴訟をおこしたのではないと思う。
他方、瞬時に第一報が拡散するインターネット社会の実情も考えあわせると、この問題はより複雑に見える。フジテレビの平井解説委員のデマ解説や自民党の甘利・税制調査会長のデマ(日本学術会議が中国の「千人計画」に協力という虚偽)はのちに訂正・修正されているが、先に拡散したデマに訂正が追い付いていかない。つまり、ネット社会では情報は「先に言ったもの勝ち」の傾向が強い。「世耕・中野訴訟」の場合、「(世耕氏が)原理研究会(統一教会)と関係がある」という情報が先に蔓延しているとしたら、後からこれらを逐一否定・反論するのは難しい(だから、中野氏を代表に見立ててた訴訟によってデマの一掃を企図した)という世耕氏側の主張も、あながち無理筋とまでは言えない。両者とも、多分に世論への効果を意識しているところがあり、裁判所はどういう判断をするのだろうか。
日々ネット社会に踊らされる中、そのスピードには、寛容とか度量といった価値観はそぐわないのかもしれないと感じる。これは、政治家の狭量さの問題だけではないように思う。
↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。