ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

船橋二和病院のスト

 船橋二和病院の労組が7月10日にストライキを行ってから今日で10日になる。かれこれ20年近く前の話になるが、入院していた知人の見舞いで二度ほどこの病院を訪れたことがある。病院の名前を見て懐かしい感じもしたが、詳細を知るにつれ、事態の深刻さに気が重くなった。
 今回の“スト決行”を世間はどう受け止めるのだろうか。コロナ禍でみんなが苦しむ中、その“最前線”にいるのが病院関係者だ。減らされてもボーナスが出るだけまだマシ、という意見もあるが、実際は、同調や支援の声も多く寄せられているようだ。
 以下、7月15日付配信の「弁護士ドットコムニュース」より(引用部分での実名は当方の判断で伏せてある)。

 夏のボーナス削減、医師や看護師がストライキ「とにかく破れかぶれ」「全国の現場に伝えたい」 船橋二和病院 - 弁護士ドットコム

ストライキをおこなったのは、船橋二和病院労働組合。計9人(医師4人、看護師4人、理学療法士1人)が加入している小さな労働組合だ。この病院には、もう1つ別の組合があり、そちらのほうが加入者は多い。
労働組合によると、船橋二和病院では、昨年冬のボーナスが減ったこと(1.0カ月分)などが原因で、70人ほどの大量退職が起きていたという。
ことしに入って、新型コロナウイルスの対応による現場の混乱がつづく中、夏のボーナスがさらに減額されて、過去最低(0.9カ月分)となった。
こうした状況を受けて、労働組合側は7月7日、次のような5つの項目をかかげて、病院側と団体交渉をおこなった。
(1)正規・非正規に関わらず、夏のボーナス「1.5カ月分」を支払うこと
(2)退職金の減額案を白紙撤回すること
(3)4週8休提案(事実上の労働時間延長)を白紙撤回すること
(4)医療減免制度撤廃案を白紙撤回すること
(5)安全と労基法を守ることができるだけの人員配置(大幅増員)をすること
しかし、病院側がゆずらなかったため、予告通知したうえで、ボーナス支給日にあたる7月10日、この労働組合として初めてのストライキを決行することになった。
「ボーナスが出なくて当たり前になる」
労働組合の書記長で、医師のYさんは会見で「必死だった。ここでやるしかなかった。一日大変だった。とにかく破れかぶれで訴えた。これ以上、我慢していたら、ボーナスが出なくて当たり前になる」と話した。
医療機関だけでなく、すべての業界がマイナスになっている中で、ボーナスが出るだけましという声もある。だが、一生懸命医療していて、誇りをもっているが、少しずつ損なわれている」(Yさん)
ストライキは予想以上の反響となった。Yさんによると、ビラの受け取りも良く、駅前で15分だけの街宣行動もおこなったが、「同じ思いだ」と声をかけてくれる医療関係者もいたという。
医師のSさんも「当日の前に、職場の仲間から『がんばってほしい』とあった。当日は、ほかの医療機関の人から声をかけてくれるなど、病院以外の仲間、同じ思いの人と連帯できた」と振り返った。
「全国の医療現場に伝えたい」
実は、病院側は、古くなった病棟の建て替え計画でひっ迫する中で、とどめを刺すように新型コロナによる減収があったという。
労働組合側は、人件費削減などに強い不満はあるが、そうした状況に理解も示しており、最終的には、国が補償すべきだという考えだ。
だが、病院側からは、ストライキに対する反発があったという。
東京女子医大でもボーナス全額カットから大量退職が発生している。Yさんは、病院側と労働者が声を一つにして、国に訴えるチャンスだと捉えている。
「病院経営が非常に厳しくなっていく現状で、医療費を抑制しなければならないという中で、本来あるべき姿からねじまがっている。この状況を変えたい。1つのストでどうなるかわからないが、全国の医療現場に伝えたい」(Yさん)

7月15日夕方から行われた船橋二和病院労働組合の記者会見については、IWJの記事より、以下のとおり。

https://iwj.co.jp/wj/open/archives/478196

 船橋二和病院労働組合の7月10日ストライキのために起草された「ストライキ指示書」の中には、……とても重要な目的が記載されていた。それは、「このストライキで医療を社会保障として奪い返す」というものである。
 IWJ記者からの「コロナ禍で増幅された忙しさの中で、しかも専従の方がいらっしゃらないという環境の中で、どのようにして、このような志の高い活動のためのモチベーションを維持していたのか?」という質問に対して、回答は以下のようなものであった。
 「怒りですよね。やっぱりおかしいということ。私たちは、民主医療機関連合といって、共産党の大きな支持母体でもあるのですが、それが、コロナのときも何も言わないし、それ以前からなんですが、ずっと、ずっと、国会の中で議員を増やして、そこで頑張ってみたいなことで、実際に闘うってことがまったくない。(中略)
 労働組合というものが力強くなれば、ものすごい影響力を社会に持つのだけど、日本ではそれがどんどん奪われてきて、組合がダメなんだと、というか、機能してないという。(中略)すべての闘いは特殊な状況で始まる。一般的なものはない。『おかしい!』という人がいて、そこに声が上がる。それに多くの人が賛同し、大きな力になっていく。
 行政が医療を削ろうとしている。私たちが今回のストライキで付けたゼッケンの中には、『公立病院の統廃合絶対反対!』というものもあった。本質的に医療は、社会になくてはならないもの。だから、経営を気にしながらやらなきゃいけないことそのものが、どう考えてもおかしいと思う。医者として、『ベッドを埋めろ』と言われるが、私たちはそうではなく、ベッドにいる患者さんたちを退院させたい。
 利益のために、そのような病床のコントロールが「おかしい」ものだとは思わなくなっていく。若い医師たちは、そういうことをあまり感じていない。そして、むしろそれが当たり前と思っており、「医療で経営して行かなければいけないじゃん」ということに疑問も持たない状態になっている」

 知人にとある総合病院の院長がいるのだが、彼の話では、「現状では、コロナ患者を受け入れれば受け入れるほど病院経営は圧迫される」とのこと。だからかどうかわからないが、小生の姪っ子は熱が39度近くあってもコロナかどうかの検査は受けられなかった。しかし、現実に感染第二波のうねりがやって来ている状況で、病院が感染者を受け入れない、病院自体が存続しないとなったら、コロナ感染者はどうすればいいのか。
 やはり政府の金の割り振り方や優先順位がちがうのではないかと思う。病院がつぶれることは、自己責任だからしょうがないで済む問題ではない。医療は本来的に、教育や福祉と同じで、営利目的にそぐわない部分がある。
 この点で、船橋二和病院のストライキが提起している問題は、ボーナス減額をめぐる労使の対立だけに矮小化することはできない。Yさんが言うように、「医療は、社会になくてはならないもの」のはず。もし、経営(営利)のために医療をしたら、採算に合わないものは切り捨てられるに決まっている。そうした「逆立ち」を、私たちはどう受け止めるのだろうか。





社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村