ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

トロント「未来都市」の挫折

 人工知能や自動運転車などを活用した未来都市「スーパーシティ」をつくる法案(国家戦略特区法改正案)が国会で審議中だが、今日27日の参議院で採決されるという話だ。
 この「スーパーシティ」なるもの、カタカナ語にしてわざと意味を曖昧にする欺瞞性のある語だが、要は、行政の手続きがオンラインでできるとか、どこでもキャッシュレスで決済ができるとか、リモート教育が可能とか………、といった内容の未来都市のことで、これを日本のどこかにつくろうということらしい。しかし、個人データやプライバシー、行政の情報収集や企業との共有のあり方などなど、現行の法律と齟齬をきたす部分が当然出てくるため、そういう“面倒”な部分は超法規的な「(国家戦略)特区」に指定するから実験的にやってみて、ということのようだ。「国家戦略特区」!?—聞き覚えのある語がまた出てきたが、竹中平蔵以下今回も“前”と同じメンバーがかかわっている話なので、だいたい想像がつく。
 こういう構想は日本だけでなく外国にもある話なので、比べてみるのがよいと思う。WIREDが2020年5月9日(土)付で「グーグルがトロントで夢見た『未来都市』の挫折が意味すること」という記事を見つけたので、参考までに以下に引用させていただく。

https://wired.jp/2020/05/23/epos-understanding-sound-experiences-report-ws/グーグルがトロントで夢見た「未来都市」の挫折が意味すること|WIRED.jp

 グーグルの親会社であるアルファベット傘下のSidewalk Labsが、カナダのトロントで進めてきた「未来都市」のプロジェクトから撤退することが決まった。先進的なコンセプトで注目された一方で、住民たちから収集したデータの扱いなどが議論を呼んできた今回の計画。その挫折によって、スマートシティの実現までに解決すべき多くの課題が改めて浮き彫りになった。
 Sidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)が、トロントウォーターフロント地区の一部を再開発するプロジェクトに5,000万ドル規模を投じると発表したのが2017年。もとは工業用地だった約48,560平方メートルの街に木造の高層ビル群を建築し、そこで生活と仕事ができるようになる──建物に使う木材は、低価格でよりサステナブルな建築資材を利用する。新しいタイプの光る敷石で舗装された街路は、瞬時にデザインを変えられる。家族連れで歩き回れる街は、時間帯などによって自律走行車のための道路に切り替えられる。ごみは地下のダストシュートを通って捨てられ、歩道には発熱の機能がある。数千世帯が暮らすことになるアパートメントのうち40パーセントは、低所得者と中所得者に優先的に割り当てられる予定だった。そして都市生活を最適化するために、サイドウォーク・ラボが街中でデータを集めるはずだった。
 これらの夢は、すべて5月7日(米国時間)に終わりを告げた。サイドウォーク・ラボの最高経営責任者(CEO)のダン・ドクトロフが、同社が開発への参画をとりやめることを発表したのだ。元ニューヨーク副市長のドクトロフは、新型コロナウイルスパンデミック(世界的大流行)を原因のひとつに挙げているが、実際のところ、サイドウォーク・ラボのヴィジョンはパンデミックが発生するずっと前からトラブル続きだった。プロジェクトが始まった当初から、アルファベットがどのようにデータを集めて保護するのか、誰がそのデータを保有するのかを懸念する進歩的な活動家の批判に晒されてきた。
 他方、地元オンタリオ州の首相で保守派のダグ・フォードは、納税者がプロジェクトの予算に見合った恩恵を受けられるのか疑問に感じていた。ニューヨークに本社を置くサイドウォーク・ラボは、プロジェクトの知的財産の所有権や資金調達を巡り、現地のパートナーであるウォーターフロント地区の再開発当局を相手に交渉を続けていた。なかでも資金調達が最も重大な問題だった。
 事業者側はトロント市の予測不可能な政治に当惑することもあったようだ。こうしてプロジェクトは何度も遅延を繰り返した。
 一連のパートナーシップは昨年の夏、サイドウォーク・ラボがもっと野心的で派手なマスタープランを発表したことで、さらに大きな壁に阻まれることになった。マスタープランは州政府の想定をはるかに上回る1,524ページもの内容で、同社は完成までに最大13億ドルを投じると謳っていたのだ。
 そもそも再開発当局は、サイドウォーク・ラボによるデータ収集や地区の管理についての提案の一部が「合法であるかどうか」すら怪しいのではないかと考えていた。こうしたなか、同社は再開発地区への公共交通機関の乗り入れを実現するために、州政府に数百万ドルの投入を求める提案を出していた。そこに当局は拒否反応を示すと同時に、同社が単独でプロジェクトを完成させることは不可能であると改めて認識したのである。
<………以下略>

 トロントの「スーパーシティ(未来都市)」構想でも、個人データの保護管理に対する懸念は払しょくされず反対の動きがあったようだが、それ以前に費用対効果の問題をもっと詰めるべきと感じた。莫大な公金支出に見合うような成果があがるのか。結局、事業者に公金を垂れ流すだけで、事後、行政も地域住民もその負担にずっと苦しめられることにならないか(事業者は撤退して終わりになるが、自治体はそうはいかない)。もはや建物だけで誰も住んでいない都市が聳立し、その周りに税負担だけで何ら行政サービスを受けられない人々が住む、などという将来世界にならないか。財政破綻した自治体の姿に加え、どこぞやの獣医学部新設の話が重なって見えてしまう。



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