ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

あるコメンテイターへ

 いつの頃からか、テレビのワイドショーに「コメンテイター」と呼ばれる役どころが現れた。最初のうちは事件・事故について立ち入った解説ができる法律家や研究者などの「専門家」がゲストとして招かれていたように思うが、最近はゲストの専門家とは別に、芸能関係者や引退したアスリートなどがレギュラーとして登場するのが常態化している。レギュラー陣の方は、その中のひとりが述べていたことだが、「庶民」の代表・代弁者としての役回りを期待されているのだという。この「庶民」というのは、専門的知識をもたない=「素人」という意味が濃厚だが、芸能関係者や引退アスリートはそもそも「庶民」とは言えない人が多いし、彼らが「庶民の代表・代弁」のつもりで発した「コメント」も“電波”にのってお茶の間に届くときには専門家のコメントと大差なくなる。その良し悪しが識別できる視聴者ばかりでもないだろうから、影響力は看過できないように思う。

 今「検察庁法改正」の件でも彼らはコメントを求められている。Twitterなどで多くの著名人が抗議の意思を明らかにする中、お前の立場はどっちだという「圧力」を肌で感じながらコメントをしているかも知れない。自由に自分の意見を言いたいのはやまやまだが、せっかく順調に仕事が入ってくるようになったのに、旗幟を明確にしたばかりにすべておじゃんになったら……。今まで長い間苦労させてきた家族のことを思うと……。いろいろと頭をよぎることがあるかも知れないし、それはそれで相応の「政治的な振る舞い方」が必要なのだろう。そのことを擁護も非難もできない。

 しかし、某局のワイドショー番組に出演しているA氏にはちょっと考えさせられた。A氏は「辛口」の批評が人気だということだが、かつて番組内で「私は自民党は嫌いだけれど、野党はもっと嫌いだから……。」と発言したことがある。当時の状況は忘れてしまったが、この発言が、昨日某局のワイドショーでのA氏の発言を知り、再び思い起こされた。
 A氏は現在“ツイッターデモ”として注目されている「#検察庁法改正に抗議します」について次のように発言しているとのこと。箇条書きで並べてみる。

・「(投稿の急増は)感情抜きで精査する必要がある。(自分は)どっちの立場でもないです」。
・「(抗議に同調するかどうかは)結構ナーバスな問題」。
・「『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』というような感じ」。
・「私も一緒にタグ付けて乗っかろうと思ったところをグッとこらえた」。
・「その(抗議したい)気持ちはすごくよく分かる」けど、「今乗っかるのはちょっと、という思いも私の中で両方ある」。
・「私はこれがいいのか悪いのか判断つかないです」。
・「(法案は)パッと見は危険な感じがします。今この時期に、これを進めていいのか」と。「ただ気を付けなきゃいけないのは、みんな“印象”だけで、芸能人の方なんか…これどんどん広がっていく…」。
・「すべてとは言わないですよ、ちゃんと考えている人もいるけれども」、「コロナのことで政権はもの凄く攻撃を受けてますから、これに乗っかってみんな一気に攻撃しようという気持ちになるのは分かるんだけれども。攻撃する時は、これいけないと思うのだったら、ちゃんと法案を読んで、これどういうことなのかちゃんと理解してから乗っかって行かないと取り返しのつかないことになる」。
・「(政権に対して)ずるいなというイメージはあるんです。凄くせこいな、と。このどさくさに」「ただ芸能人が、みんなワーッと乗っかることにちょっと危惧している。いろんな人の話を聞いてから私は結論を出していこうと思います」。

 (出所は省く)

 コメンテイターは自分の都合だけでコメントしているわけではなく、“期待される”コメントを返さなければ存在意義がない。“空気”を読めないと、次から呼んでもらえなくなるかもしれない。だから、上のコメントはA氏の“期待像”の具現化でもある。しかし、そこにA氏の意思がないとは言えない。では、A氏の意思とは何か? それは「自民党は嫌いだが、野党はもっと嫌い」という回りくどい擁護に端的に現れているように思う。さすがに「検察庁法改正」には反対だが、「#検察庁法改正に抗議します」にはもっと反対、とは言えなかったと見えて、そこは態度を留保している。しかし、今日明日にでも委員会を通るのではという緊迫した情勢下に、「いろんな人の話を聞いてから結論を出していこうと思います」はないのではないか。これでは、石橋を叩こうかどうしようか考えているうちに橋が落ちてしまう。
 彼が明日以降この件でコメントするかどうかはわからないが、どういう「結論」を出すか、注視はしないが、留意はするつもりだ。

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