トランプ米新(再)大統領就任まであと10日となって、周囲が戦々恐々とするのを楽しむかのように、当人は傲慢な姿勢を露わにしています。曰く、「世界中の国家安全保障と自由のために、アメリカ合衆国がグリーンランドを所有し、管理することは絶対的に必要だ」/「カナダの多くの人々は(米国の)51番目の州になることを望んでいる」(翌日にはカナダを米国に取り込むため、「経済力」の行使も辞さないとSNSに投稿)/「(パナマ運河は)中国によって運営されている。(1999年に米国がパナマに管理権を返還したのは)大きな間違いだった」、等々。
トランプ氏がパナマ運河の管理主張、軍事・経済圧力の可能性も排除せず…メキシコ湾の「アメリカ湾」改称も : 読売新聞
これだとメキシコ湾を「アメリカ湾」に改称したいなどという彼の発言が霞んでしまいそうですが、ハードルを高くして、大きくふっかけて、相手の様子を見る。決して主導権は渡さない――これがよく言われる彼流のビジネス・テクなのでしょうか。小生には、(口ほどにない)自身を大きく見せたいだけの虚栄かはったりに思えますが、まるで「西部開拓」の時代にでもいるかのような時代錯誤をした大統領の再登板とその物言いには、わかっていたこととはいえ、少なからず驚き、不快な気持ちにさせられます。
今朝の新聞のインタヴュー記事で寺島実郎さんは、トランプ新大統領は1期目よりも劣化し、操り人形になる恐れがあると述べていました。
……(アイゼンハワー大統領は退任時に米国の「産軍複合体」化に警告を発したが)米国は今、「デジタル金融複合体」に変わりつつあります。現にハイテク産業の集積地、シリコンバレーを総本山とする「デジタル金融資本主義」、金融の中心地、ウォールストリートを総本山とする「金融資本主義」の二つが米国をけん引しています。
大統領に就くトランプ自身が不動産業の業界人です。その右腕となる新政権の財務長官には、ヘッジファンド出身のスコット・ベッセント氏を指名しています。
象徴的なのがイーロン・マスク氏。電気自動車(EV)のテスラで台頭し、「ツイッター(現X)」を買収したうえ、仮想通貨(暗号資産)をビジネスの柱の一つにしようとしています。
マスク氏は昨年7月、突然トランプ氏支持を表明し、180億円超もの大金を献金しました。まるでカネでポストを買うかのように、新政権では歳出削減や規制緩和を推進する「政府効率化省」のトップになる予定です。
そんな陣容を見ても、トランプ氏は1期目よりも劣化が進んでいると私は見ています。
――劣化とはどういうことですか。
トランプ氏は彼を奉り、ちやほやする人たちを率いて専制君主になるかのように捉えられていますが、現実はその逆です。さまざまな思惑を持った人たちがトランプ氏に絡みつき、トランプ氏をもり立てるふりをしながら、操り人形のように都合良く利用し、米国政治の中枢であるワシントンを動かしていくという危うさを感じます。
――マスク氏らの狙いは何でしょう。
ブラジルの最高裁が2024年8月、Xの国内利用を禁じる命令を出しました(後にX側が一定の対応をして利用再開)。また、オーストラリアでは11月、世界で初めて、16歳未満の子どもがインスタグラムやXなどのネット交流サービス(SNS)を利用することを禁じる法律ができました。さらに欧州ではIT企業への「デジタル課税」の導入が広がりつつあります。
世界ではビッグテック(巨大IT企業)に対する規制を強める動きが活発になってきています。こうした動きに対し、「一民間企業だけで戦うのは難しい。だから米国という国家と一体となって立ち向かおう」――。マスク氏らがそんな戦略を立てているのではないかと考えられます。
大統領選後にトランプ氏がゼレンスキー・ウクライナ大統領と電話協議した際、マスク氏も同席しました。ウクライナの通信環境は今、マスク氏が創業したスペースX社の衛星通信サービス「スターリンク」で成り立っています。ここに、トランプ氏が描いているウクライナ戦争の停戦への方法論が垣間見えます。
「デジタル金融複合体」としての米国がどうなっていくのか。第2期トランプ政権の本質を見抜かなければいけません。<以下略>
論点:2025年の指針 トランプ政権と日本 インタビュー 寺島実郎・日本総合研究所会長 | 毎日新聞
昨日の新聞には、メタのザッカーバーグCEOが7日にファクトチェック機能を廃止すると発表し、SNS上のデマやヘイト対策を後退させると、懸念や批判の声が上がっているという記事がありましたが、「商売上手」というか、トランプ政権に迎合しているように見せておいて「実」をとるというか、上の寺島さんの見方を裏づけている感じをもちました。
「危険な領域に」 米メタのファクトチェック廃止、デマ対策は後退か | 毎日新聞
他方で、トランプ政権の意向にかかわらず、国際社会とともに問題に向きあおうとしている米国の人々もいます。温暖化対策に後ろ向きなトランプ政権は、発足後パリ協定から離脱するのではと危惧されていますが、昨年11月バクーで開かれたCOP29(国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議)について、小西雅子さんは次のようにレポートしています。
……COP29には5万人が参加した。なぜこんなに多いのかというと、ルール交渉にあたる政府関係者だけでなく、いまやCOPは脱炭素にかかわる企業や団体の大見本市と化しているからだ。企業、中でも機関投資家、そして往々にして国よりも積極的な温暖化対策を実施している都市や自治体の連盟、研究者、若者団体、先住民族、市民団体など、政府以外の主体「非国家アクター」が、会場のいたるところで熱気あふれる活動を繰り広げていた。
アメリカ大統領選の結果、温暖化対策と国際協調に消極的なトランプ政権の誕生を前にして、世界の温暖化対策の後退を心配する声も聞かれるが、ひるむことなく前向きな姿勢を見せたのもこれら非国家アクターたちだ。
中でもアメリカの非国家アクターが5000以上も参加する連合「AMERICA IS ALL IN(アメリカはみんなパリ協定にいる)」は、11月14日から三日間、数々のイベントを開催し、連邦政府の方針にかかわらず、揺るぎなく温暖化対策を進めることを印象づけた。……アメリカでは州政府の権限が強く、連邦政府の方針にかかわらず、様々な温暖化対策を進めることができるため、AMERICA IS ALL INのブースは多くのメディアでにぎわい、会議参加者全体を勇気づけていた。
中でも印象的だったのは、アメリカ大手食品企業MARSのチーフ・サステナビリティ・オフィサーのバリー・パーキンス氏のスピーチで、「我々は、自らネットゼロ(引用註:CO2など温室効果ガスの排出量が森林などによる吸収量・除去量を差し引いてゼロになった状態)を掲げ、移行計画を進めている。ネットゼロ達成の2050年までにアメリカ政権は何度も変わるだろうが、政権にかかわらず、我々は自らの約束を粛々と果たしていく」と力強く述べたことである。……
(小西「気候変動と国際協議の現段階 COP29会議報告」『地平』30-31頁)
当たり前ですが、トランプに擦り寄るのも米国人ですが、そうでない米国人がいるのも確かです。彼らの活動からは元気をもらえます。