ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「偉い人が見るためだけのオリンピック」

Bach,You are liar!…

確かにそう聞こえた。
小池都知事との会談のため東京都庁を訪れたIOCバッハ会長らが記念撮影に並んで、しばらくすると男性の声が響いた。

Bach,You are liar! Airport is dangerous! Bubble is broken!

小池都知事から笑顔は消えたが、バッハは平静を装っているように見えた。

バッハ会長に「お前はウソつきだ!」と罵声。小池都知事との記念撮影でハプニング | ハフポスト

東京オリンピック開幕まで一週間。甘く杜撰な感染対策があちこちで露呈し、感染爆発はもとより、大会中に悲惨な事故が誘発されるような嫌な予感もある。自分たちのオリンピックだ、何とか成功させようとみんなの意気が上がれば、不測のことでも何とかなるかもしれないが、負のスパイラルにある今、ちょっとしたことでも「おおごと(致命傷)」になりかねない。

五輪貴族(オリンピックファミリー?)と呼ばれる人びとは、こうしたムード(空気)を肌身に感じることはないのだろうか。作家の日野百草(ひの・ひゃくそう)が、五輪貴族とおぼしき外国人をよく乗せているというタクシーの運転手に話を聞いている。7月14日付、NEWSポストセブンの記事より引用する。

オリンピックファミリーをよく乗せるタクシー運転手「勝手にやってろ、ですよ」|NEWSポストセブン

 4度目の緊急事態宣言が決まった雨の東京、神田駅近く、個人タクシーを拾いしばし雑談。初老の運転手がオリンピックファミリーを何度も乗せたと語る。
「昨日の夜は外人さんを2人、六本木ですね。あと銀座に1人」
 オリンピックファミリー、こうして聞くとなんだかマフィアとか秘密結社みたいだが、そもそも自分たちで名乗ったのだから凄い。
「コロナの前は(インバウンドで)外人さんなんて珍しくもなかったけど、最近は外人さん珍しいんで、ああオリンピックが始まるんだなという感じです」
……
「どこの国の人かわかりませんが、恰幅のいい人でした。選手ですかね」
 さすがに選手ではないと思うし、彼らはむやみに都内を徘徊してはいないだろう(と信じたい)。乗せたのはオリンピックファミリーの中でも大会関係者、もしくは来日したスポンサー企業の関係者かもしれない。IOCは役員、選手や大会関係者で構成されるオリンピックファミリーにスポンサーも入ると明言している。

「あと先週は東京駅から豊洲の公園にも乗せましたよ。外人さんなんで選手村かと思ったらスルーでした」
 豊洲ぐるり公園は以前から穴場で酒が飲めた。選手村とは豊洲大橋を挟んですぐの場所だ。
「羨ましいですね、日本人なら怒られるんでしょうね」

 人間というのは基本、個々人それぞれの事情のみで動いている。当たり前の話だが、疫禍はその個々人を衝突させる。オリンピックをしたい政府、自治体、選手、そして金の絡む関係者のオリンピックファミリーと、そうではない企業や一般国民――前者は「別枠」で特別待遇、後者にはコロナ禍だから我慢しろ、それどころかお前たちのせいで蔓延しているくらいの勢いで責任を転嫁している。
「正直に言えば怖いですけどね、だって日本よりコロナ凄い国もいっぱいあるでしょう。私も1回目のワクチンは打ってますけど、本当に安心かなんてわかりませんからね」

 オリンピックファミリーは3日間の待機期間という「別枠」で自由に移動できる。IOCのコーツ調整委員長もバッハ会長も特例で来日した。一応、行動計画の提出というエクスキューズはあるが、その他オリンピックファミリーやスポンサーに関してはホテルで14日間の待機期間中となっていても、レストランやコンビニへは行っても構わないとなっている。レストランは個室が条件だが、そんなもの誰がチェックするというのか。選手村すら複数人での会食と感染を防げなかったのに。
「意味ないですよね。私もたくさん乗せましたけど、タクシー使えばあちこち行けるし、タクシーで繁華街のコンビニ行ったっていいんですから」
 まったくそのとおりで遊ぶ言い訳の「ちょっと遠くのコンビニまで」だって可能だ。衆目を気にしなければならないバッハ会長のような有名人はともかく、来日スポンサー企業の民間人など、オリンピックで来日した待機期間中の外国人とは誰もわからない。在日外国人との区別なんかつかない。それなのに、本来なら待機期間であるはずの来日外国人がオリンピックファミリーだからという「別枠」で街中に繰り出している。大会中はもっと増える。

「オリンピックファミリーじゃなきゃ外出るなって、面白いですよね」
面白いという言葉とは裏腹に、運転手さんの機嫌が悪くなっているのが声色でわかる。この「オリンピックファミリー」はIOC委員など3千人余、各国オリンピック委員会の関係者1万4800人余を指すが、IOCによって実質的にスポンサー企業や代理店とその関係者も「ファミリー」に迎えられた。1都3県は完全無観客となるが、彼らオリンピックファミリーは一般観客を締め出したスタジアムでゆったりと、文字通りのVIP待遇で観戦する。
「勝手にやってろ、ですよ。あ、これ書いちゃっていいですからね」
 意気投合したのかすっかりぶっちゃけてくれた。「勝手にやってろ」これほどまでに一般国民興ざめのオリンピックがあっただろうか。確かに関係ないのだから勝手にやればいいとなる。
「どうせオリンピックファミリーじゃないし」
 これ、日本中の一般国民の気持ちを代弁してくれたような気がする。「どうせオリンピックファミリーじゃないし」いい言葉だ。以前、吉祥寺で取材した飲食店の店主は「他人のメダルなんてどうでもいいよ」と言っていた。これまた力のあるいい言葉だ。感動、興奮、メダル何個と大騒ぎ、国威発揚オリンピック大好きの日本人だったはずなのに。一般国民は自国開催なのに観客席には入れてもらえないどころか「オリンピックファミリー」にも入れてもらえない。つまりオリンピックにとって日本の一般国民なんて赤の他人だったということか。
……

なんだか偉い人が見るためだけのオリンピックになっちゃいましたね
 無観客でオリンピックファミリーだけが観戦するのだから、そういうことになるのだろう。来日しても別枠で待機期間もなし崩し、好き放題のオリンピックファミリーを尻目に日本の一般国民はひたすら我慢の日々である。封建時代の小作人はこんな気持ちだったのか。コロナが収まらないのも緊急事態宣言も一般国民のせい、ウガンダが撒き散らしても一般国民のせい、フランス、エジプト、スリランカ、ガーナ、セルビアと陽性患者が来日しても一般国民のせい、これからもオリンピックファミリーがコロナを撒き散らしても全部一般国民のせいになるだろう。オリンピックファミリーを特別扱いした一般国民に対するエクストリーム責任転嫁が続くだろう。エビデンスはなくともオリンピック様は「別枠」なのだ。
 いつの間にか一般国民のせいになった「一億総懺悔」、この令和にも健在である。

 太字は当方が施した。

「一億総懺悔」とは「一億総無責任」、つまりは、誰も責任をとらないことの裏返しだ。しかし、東京五輪の開催に、スガやバッハと一般国民が、同等な責任を負っているはずもない。「一億総懺悔」とはスガやバッハなど、「偉い人」の責任を不問にするためのスローガンだ。「偉い人」にはしかるべき責任をとらせないといけない。



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