ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

バッハの耳は…ロバの耳?

 むかしギリシア神話が大好きな生徒がいた。成績はあまり冴えなかったが、ギリシア神話は「得意」だと自負していた。本を読んでいてギリシア神話がらみで意味がとれない文章に出くわしたとき、この子に話を聞いたら「氷解」したこともある。その熱意、ぜひ他の勉強にも回してくれるとよいのに、などと思うのは、「職業病」というものか…。
 
 イソップの寓話に「王様の耳はロバの耳」というのがあるが、元の話はこのギリシア神話らしい。音楽神アポロンが別の神様と音楽の演奏を競い合ったとき、審判の1人に選ばれたミダス王は、他の審判が全員、アポロンの勝ちとしたのに、一人だけそれに同調しなかったため、アポロンの怒りを買い、耳をロバの耳に変えられてしまう。ミダス王は人前では帽子をかぶるなど、自分の耳を隠しとおそうとする。この秘め事を唯一知る理髪師はずっと口を閉ざしてきたが、ある日、どうしても耐えられなくなり、地面に穴を掘って(他にも、井戸とか、洞窟とか、いくつかヴァリエーションがある)「王様の耳は……」と叫んだ。すると、生えてきた葦が風に揺れるたびに「王様の耳はロバの耳」とささやくようになり、王様の秘密は国中に知れ渡ることになった、という。不都合な真実もいずれはわかってしまうということか。

 5月12日、IOCが理事会後に開いたオンライン記者会見で、突然男性が東京オリンピックの中止を訴え始めた。映像はすぐに打ち切られ、会見していた広報係が苦笑しながら釈明するというニュース映像を見た。

 これを伝えた5月13日付の毎日新聞の記事が以下。

IOC理事会後会見で「NO OLYMPICS」 反対の男性“乱入” | 毎日新聞

 ヤフーの記者として紹介され、会見の最後に質問の機会を得た男性は「NO OLYMPICS in TOKYO 2020」と書かれた黒い布を掲げながら、「オリンピックはいらない。オリンピックを望んでいない。ロサンゼルスにも、東京にも」などと放送禁止用語を交えて一方的に声を上げ、質問を一切しなかった。トーマス・バッハ会長は会見に出席しておらず、対応したマーク・アダムス広報部長は男性の映像をすぐに打ち切った。
 理事会では新型コロナウイルスの感染拡大により、国内外で懐疑論が高まる東京五輪の準備状況などが報告され、全面的に開催を支持する方針が確認された。会見でアダムス氏は、日本国内が緊急事態宣言下でも開催できるかを問われると、「我々は大会の計画を続けている」と答えた。
 また、世論調査で開催中止を求める意見が多いことについて、「五輪開催都市に選ばれた8年前は国民に人気があった。開催できれば、世界が一つになる歴史的な瞬間となり、世論は五輪を支持すると確信している」と語った。今月中旬の予定を延期したバッハ会長の来日については、「緊急事態宣言が解除された後に協議できれば」とし、6月以降の日程で再調整する見通しを示した。

<以下略>

 東京オリンピックをめぐる内外の「包囲網」はどんどん狭められている印象だ。

 勤務医の労働組合「全国医師ユニオン」は昨日(13日)、内閣府厚労省東京五輪パラリンピックの中止を求めた。
医師ユニオンが五輪中止を要請「新たな変異株生む恐れ」 - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル

 日本記者クラブのオンライン記者会見に臨んだ河野克俊・前統合幕僚長は5月12日、コロナ・ワクチン接種をめぐる政府の対応について、「もっと早めに手を打つべきだった。危機管理として失敗している」と異例の批判をした。
前統幕長「危機管理として失敗」 ワクチン対応を批判:朝日新聞デジタル

 5月17日の来日予定をキャンセルしたバッハ会長が、再び来日の運びとなって、一団を引き連れ、改めて日本に来た時、いったいどんな状況になっているだろうか。先回の「帰れ!コール」で切れまくっていたバッハの耳には、「ぼったくり男爵」以上の罵詈雑言が入ってくることは間違いない。日本側は、戒厳令のような厳重警備をしき、バッハ一行に「見たいもの」だけを見せ、日本の一般の人々の声には一切触れさせない。一方、そこらじゅうで、先の寓話の葦ではないが、「バッハの耳は……」「バッハの耳は……」の叫び声がこだまする。こんな憎悪渦巻く異様な光景は、もはや誰もが祝福する「平和の祭典」からはかけ離れているのではないか。

 ギリシア神話では、「ロバの耳」のミダス王の話には前段があって、ディオニュソスの神から1つだけ望みをかなえてもらえることになった王は、触れるものがすべて黄金に変る力が欲しいと願い、望み通りの力を授けられる。喜んで宮殿に帰った王だったが、体に触れた飲食物までたちまち黄金になってしまって食べるものがなくなり、困り果てて、ついにディオニュソスに頼んでこのやっかいな力を取除いてもらったという。これはいい気になってぼったくる!守銭奴に対する懲罰をも意味しているだろう。
 バッハ会長も、歴史に決定的な汚点を残す前に、人として長として、当然の決断をされることを望む。




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