ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

国旗損壊罪と公・私領域

 いわゆる「国旗損壊罪」法案の条文案が、おととい6月1日に自民党の部会で了承されました。法案自体が問題なのは言うまでもありませんが、タマタマも述べていたとおり、さすがにこのレベルの “堕した” 条文で「了承」ってことはあり得ないのでは、と驚かされます。自民党、堕ちまくりです。
国民民主・玉木雄一郎代表 自民党「国旗損壊罪」条文案の了承にクギ 2年以下の禁固刑20万円以下罰金「さすがにこれは立法論として荒過ぎる」 | 東スポWEB

 自民党が作成した条文案では、日本国旗(日の丸)を「人に著しく不快な方法で公然と傷つけた場合」を処罰の対象とし、「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科す」としています。
 「外国国章損壊罪」との釣り合いをとるというのなら(実際、立法の「根拠」として、外国の国旗に損壊罪があるのに、どうして自国の国旗の損壊罪がないんだ、と言っていたのですから)、外国の国旗損壊罪を規定した刑法92条の条文に合わせて「侮辱を加える目的で、(日本の)国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は……」という条文にそろえた方が国民の理解を得やすいはずです(刑罰の方をそろえておいて、なぜそうしないのか、何らかの「意図」が働いていると勘繰らざるを得ません)。しかるに、一方が、目的=侮辱、対象=行為を列挙して、なるべく抽象性や曖昧さがないような条文にしているのに対し、他方は「人に著しく不快な方法」「公然と傷つける」などと目的・対象はかなりアバウトな感じです。TVでも取り上げられていましたが、具体的にどういうケースがアウトかセーフかを、「専門家?」に聞かないとよくわからないのです。これでは刑法の「罪刑法定主義」の原則にもそぐわないでしょう。
【解説】「国旗損壊罪」自民党部会で法案を大筋了承…どんな行為が罪に?【イチから確認 高市政策】(2026年6月2日掲載)|日テレNEWS NNN

 そもそも「人に著しく不快」の「人」とは誰なのか。「人一般」を示すとしたらきわめて乱暴ですし、「(他の人は不快だと思わなくても)俺は不快に感じた」と誰かに(一人でも)言われ、それをもって罪にするということなら、公平性を欠くというか、特殊すぎるでしょう。それで拘禁刑や罰金を科すでは、国旗を尊敬する念を育むよりも、刑罰を怖れる萎縮効果の方が大です。
 さらにまた、「行為」というより「方法」を問題にするということですから、自民党の岩屋毅・前外相が指摘しているように、「『何をしたか』ではなく『何を伝えたか』を罰することは表現の自由に抵触する」おそれが十分あると思います。
国旗損壊罪つくりたいから…「結論ありき」「理由は後付け」「憲法に反する恐れ」 自民がそこまでする事情:東京新聞デジタル

 先週末、プロ野球・読売ジャイアンツの阿部監督が辞任した件を取り上げた新聞のコラムを読んでいて、上の国旗損壊罪法案とは関係ありませんが、「国家の名の付く法制度が歓迎される風潮も、私領域を明け渡すことに慣れすぎたせいだ」という最後の一文が目に留まりました。
 私領域にとどまっていた(はずの)私的な自己承認欲求を、SNSでもって公領域にさらしたことで、私領域と公的領域の垣根があいまいになり、その分(つまり公私の「相互参入」に慣れたせいで)、公権力(必ずしも国家権力だけにとどまらないと思います)が私領域(空間)に入り込みやすくなっているのだと思います。この国旗損壊罪にもそうした背景を感じます。

 以下、毎日新聞、5月30日(土)付、伊藤智永さんのコラム「土記」からの引用です。
土記:有名プロ野球監督の辞任=伊藤智永 | 毎日新聞

……児相(児童相談所)への通報がきっかけで有名プロ野球監督が辞任した。
 理由が家庭の事情なら分かるが、社会を騒がせた責任だ。釈然としない。
 騒ぎが拡大した経緯に、チャットGPT(愛称・チャッピー)と児相と警察と親会社が絡んでいるのが、いかにも今風である。
 困ったらチャッピーに聞くのは今や当たり前。児相はやるべきことをしただけ。警察には逮捕する理由があったのだろう。親会社の素早い法令順守対応も当然だ。
 それぞれ間違っていない。なのに誰も幸せになっていない。
 チャッピーは、お追従ばかりの無責任な浅知恵である。児相や警察は所詮、目先の狭い責任をこなすお役所で、全体の文脈や背景は問題にしない。親会社には他に守るべき大事な利益がある。
 つまり監督の家族のことは誰も本気で考えない問題処理のリレーの結果、大ごとになった。
 児相を取材した記者の話を聞くと陰鬱になる。人員難、勤務の過酷さ、仕事の特殊性は分かるが、知れば知るほど秘密主義と事なかれ主義の奥に権力体質がのぞく。「保護」の実態もひどい。
 だが、時に起きる凶悪事件のせいで、私たちの社会は児相にもっと頑張れ、やりすぎ批判に臆せず過剰対応を心掛けろとけしかける。政治家、法律家、マスコミ、ネット民による大合唱だ。
 家族は最も私的な領域である。一線は家族自身の知恵と覚悟で守るしかない。本当の愛憎は他人には分からないからだ。
 それではダメだ、と叫ぶ人々のもっともらしい正義が、私領域に公権力を安易に呼び込む社会を強めてきた面はないか。国家の名の付く法制度が歓迎される風潮も、私領域を明け渡すことに慣れすぎたせいだろう。




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