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日常と世相の記

大川原冤罪事件と向き合った元警察官

 警視庁公安部による大川原化工機の冤罪事件の裁判では、3名の現職警察官が法廷に立ち、異例とも言える捜査批判をしました。このうちの一人は、事件当時公安部外事1課に所属、でっち上げるような捜査に当初から反対し、法廷で証言する前にも、公益通報により不適切な捜査であることを告発していましたが、警視庁は取り合わず、法廷での証言についても「壮大な虚構」と切り捨てました。
 この警察官(元警部補)はこの春退職したそうです。事件捜査に関わった警察官で自ら辞職したのはこの方だけです。毎日新聞の取材に応じた彼は、「警察組織の反省の仕方に納得できない」と、今の思いを次のように語っています。
「公益通報」を問う:警察編 大川原冤罪(その2止) 不誠実な検証に失望 元警部補、貫いた「正義」 | 毎日新聞

……東京高裁は25年5月の判決で、公安部の独自解釈を「合理性を欠く」と断じ、捜査が根本から間違っていたと認定した。その内容は、元警部補の公益通報や法廷での証言に沿ったものだった。
 元警部補が実名で公益通報し、公開の法廷に出てまで捜査を批判したのはなぜか。その理由について、こう語った。
 子どもが大きくなって、この事件を知った時、「なぜ父さんは何もしなかったの?」と言われたくなかった。無実の大川原化工機の人たちを立件する捜査に加わり、途中で投げ出した悔いもある。それでも子どもに誇れる警察官でありたかった――。
 元警部補は退職するまで上司や同僚から嫌がらせを受けたことはなかった。
 ただ、どうしても看過できないことがあった。高裁判決確定後、警視庁が公表した検証報告書だ。
 検証報告書では、冤罪を生んだ原因を「捜査指揮の不存在」と総括した。公安部長らの捜査指揮が不十分で、現場の暴走を止められなかったというものだ。報告書を作るにあたり、検証チームから3時間にわたって事情を聴かれた。ところが、自分の話したことが反映されていないと感じた。
 「警察庁は裁判で私たちに『お前らはうそつきだ』と一方的に言ったうえ、公益通報から5年以上たってから話を聞きに来る。私が話した『出世のために事件を作り上げた』という部分は報告書に一切なく、捜査幹部らの都合のいい話だけが記されていた。『壮大な虚構』という表現を警視庁は撤回したが、私の言い分は今でも虚構として扱われている」
 独自の法令解釈を補強するため大学教授ら4人の虚偽の聴取報告書を作成した疑惑や、不都合な温度実験データを隠蔽した疑いに触れられていないことにも失望した。
 事件を巡っては、逮捕された相嶋静夫さん(享年72)が勾留中、胃がんが見つかったのに満足な治療を受けられず、命を落とした。「事件の真相を明らかにすることが、相嶋さんのご遺族に対するせめてもの償いではないのか」
 不誠実な報告書にゴーサインを出した警視総監らの下では働くことはできないと思い、退職を決意した。
 退職することを同僚に伝えると、階級によって反応が分かれた。
 警部補以下は「なんで辞めないといけないのか。辞めるのは、事件をでっち上げた方だ」と怒りをあらわにした。これに対し、警部以上は「組織としてはあの報告書で限界だ。しょうがない」とあきらめを口にした。
 警察は厳しい階級社会で知られる。ある幹部が「山登り」に例えて「頑張れば足が遅いやつでも登れる。上からの景色はいい」と言ったことがあるという。偉くならなかった先輩は「上に行くと遠くまで見えても、裾野は見えなくなる」と言った。
 元警部補には、今回の冤罪に対する警視庁上層部の判断が理解できなかった。起訴取り消しの時点で、なぜ大川原化工機に謝罪しなかったのか。手元には大川原川の主張の正しさを裏付ける証拠があるのに、国賠訴訟の1審敗訴後に、なぜ控訴したのか。
 「上の人は『自分たちが見えているものは、お前には見えていない』と言うのでしょう。でも、あなた方は、必死に働いている現場の捜査員や都民一人一人の顔が見えていない。この山の上の空気は薄そうなので、私は3合目まで登って景色を眺め、下りるくらいでちょうどいい」
 自身の正義を貫き、山を下りた元警部補。4月からは、警察に頼らずに自力で見つけた新たな職場で第二の人生を歩みだしている。

 昨日の参院本会議で可決された「国家情報会議」設置法案に合わせて、この記事を紙面に載せたことには含意があるでしょう。
 通信傍受法に基づく「司法傍受」には裁判所の令状が必要ですが、政府の判断で行う「行政傍受」は令状なしで行えることになっています。言ってみれば、現状では(まだ?)何ら「歯止め」がないわけで、違法な情報収集を「違法」とする根拠がなければ、やりたい放題になりかねない。もっと言えば、「隠蔽」という概念さえ消失しかねません(だって、「隠蔽」なんかする必要がないのですから)。そして、その「国家情報会議」の議長は、何とあの総理大臣だというのですから――お上りさんは「山頂」に立って「いい景色」だとご満悦のようですが、「裾野」など見る気はないでしょう。



 
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