ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「政治的中立」と国策

 3月半ばに沖縄・辺野古沖で修学旅行中の高校生が乗った船が転覆し、船長と生徒の2人が亡くなってから2か月余。この間、いろいろと思うことはあったのですが、遺族のこと、学校の教員のこと、移設工事に抗議を続けている人々のこと等々、正確な事実を知りもせずに、この件で何かを書く心境になかなかなれずにいました。今もそんなに大きく変わったわけではないのですが、土曜の新聞記事を見ていたら、おかしな方向に進みそうで、心配になってきました。

 文科省が先週の金曜(22日)に、この件を政治活動を禁じた教育基本法に反すると断じたことで、今後の教育活動に影響を与えるのは不可避となりました。しかし、同時に文科省はこの国の主権者教育も「推進」しているわけで、教育における政治的活動の禁止や政治的中立性の保持と、主権者教育との整合性を明確にしなければ、教育現場を萎縮させるおそれがあります。

 文科省側は、同志社国際高校が辺野古への基地移設に賛成する人々や政府の主張を取り上げたかどうか、確認できなかったことから、今回の件は、バランスを欠き、教育内容に偏りが生じていたと判断したとのことですが、高校側は年間を通じて平和学習全体として政治的中立性を確保していたと説明したようです。
沖縄・辺野古沖の海難事故:沖縄・辺野古学習「教育基本法違反」 文科省「考え方に偏り」 同志社国際高事故 | 毎日新聞
クローズアップ:「政治的中立性欠いた」 沖縄・辺野古転覆事故 文科省の学校法人調査 | 毎日新聞

 新聞を見たら、元文科省官僚の寺脇研氏のコメントがあって、こんなことが述べられています(下線  は引用者が施したもの)。
ミニ論点:「政治的中立性欠いた」 沖縄・辺野古転覆事故 文科省の学校法人調査 寺脇研氏、山口剛史氏の話 | 毎日新聞

 同志社国際高校の学習内容は、辺野古移設工事への抗議活動について船長が学習初日の全体のあいさつで説明したり、過去の修学旅行のしおりで抗議の座り込みを呼び掛けたりしており、偏っていたと言わざるを得ない。一方的な主張の現場に学校側が生徒を連れて行くのは、政治的中立の観点から見れば問題だ。
 生徒自身が主体的に学ぶ内容であれば、国や都道府県は一切、関与できない学校側から十分な説明を受けたうえで、生徒たちが辺野古での体験を自ら選んでいたとしたら、問題視されなかっただろう
……

 「学校側から十分な説明」があったかどうかについては、おそらく「不十分」だっただろうと考えざるを得ません。しかし、これは(全生徒ではなく)希望した生徒のみが参加する「体験学習」でした。亡くなった生徒の家族が綴るNoteによれば、当人は移設工事にはあまり関心はなく、きれいな海が見られそうだから、くらいのつもりでこの「体験学習」に参加し、船に乗ったとされていますが、他の生徒とともに、このプランを選んだことは確かです。元文科省の官僚だった寺脇氏の話がイコール文科省の立場ではないにしても、この言に従えば、もし、教員から事前に「十分な(バランスのとれた)説明」を受けた上で、生徒たちがこの「体験プラン」を選んでいたら、「国は一切、関与できない」ということになります。本当にそうなのでしょうか。国(文科省)にそんな矜持というか、自己抑制的、理性的な態度があるようにはとても思えないのです。

 問題は国策が絡んだ場合の「政治的中立」です。教科書なども(国から)政治的中立性や客観性が求められる典型ですが、文科省が政治的中立や客観性にどこまで忠実なのかはかなり怪しいところがあります。特に、国策をめぐる教科書の記述をめぐっては、教科書会社に陰に陽に「指示・指導」が入ります。たとえば領土紛争などは、両国の主張をふまえないと「政治的中立」にはなりえませんが、こと日本が関係する領土紛争は、両論併記などあり得ず、「日本固有の領土」という記述しかほぼ許されません。
 竹島は韓国では「独島」と呼ばれ韓国の領土とされていますが、そんな「言い分」は論外です。これでは、政治的中立も相互理解もありえないでしょう。同志社国際高校の平和学習と同じように教育の「政治的中立」を重視するのならば、日本の紛争相手国の主張をふまえてバランスをとらなければならないはずですが、そんな配慮は最初から不要と決めつけられているわけです(誤解する方はいないと思いますが、これは、竹島を独島と呼ぶべきだとか、韓国の領土だとかいう趣旨では全然ありませんので、念のため)。
 つまりは、国策に関してはだいたいが結論ありきなのです。教科書記述が国策への忠実性(=忠誠)を求められるのに、国策がらみの平和学習で同じことが求められないわけがない。今回も政治的中立を問題にしていますが、それは表向きの話で、本音というか意図は別ではないでしょうか。そして、最大の問題は、国策追従と主権者教育は合致せず、矛盾することがままあるということです。

 子どもが事故で亡くなる不幸に関係者の過失や配慮不足があるとやるせない気持ちになります。それだけに、学校はじめ関係諸機関の安全管理には万全を期してほしいとたびたび思いますが、しかし、この件は、安全管理上の不備と政治的中立という本来別個に考えるべき問題を一緒くたにして、沖縄の平和学習を貶め、辺野古基地建設(国策)に反対する人々の意志を挫こうとするもののように見えるのです。

 なお、高市首相や文科大臣が、この件で政治的中立を云々する資格などないことを、宮武嶺さんが「喝破」していますので、こちらもご覧ください。最新の記事とともに並べておきます。
現役自衛官が自民党大会で君が代を歌っても政治的には中立だと強弁する高市政権が、高校生に辺野古新基地建設現場を見せたら教育基本法違反だという、このご都合主義。 - Everyone says I love you !
辺野古での転覆事故を利用して平和教育を圧殺しようとする高市政権の行為は、教育基本法が禁止する「不当な支配」(16条1項)にあたり、教育の自由を侵害して違憲・違法だ。 - Everyone says I love you !



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