ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「昭和100年」の歴史観

 先日昭和100年を記念する式典というのがありました。別に何かを「期待」していたわけではありませんが、メディアをつかって大々的に「しかけて」くるのではと漠然と予想(というか警戒)して見ていたので、実際の報道には(個人の感想にすぎませんが)正直なところ「案外」だったというか、「拍子抜け」した感もあります(失望したわけではありませんので、念のため 笑)。

 1968年には政府主催の明治100年の「記念式典」があったそうですが、記憶上はゼロに等しく、あとから識者のコメントを知ったくらいです。WIKIで安直に調べると、明治時代は日本が封建制度から脱却し、近代国家への方向を確立した時代なので、その偉業を改めて評価しようとするもの、と「意義」らしきことが書かれています。
 明治100年を祝うのであれば、次は「大正100年」ですが、2011年にそのような「祝賀行事」があった記憶はありません(震災のせいだと考えるのは「好意的」すぎるかもしれません)。でも、ある人は、大正時代は、「明治や昭和のような大戦争を起こさず、自由主義的な空気の中で夏目漱石や芥川龍之介ら現在に生きる文化が花開き、女性運動や労働運動が盛り上がり、普通選挙(男性限定だが)が実現した時代」なのに、特に「騒がれずに過ぎ去った」とブログに書いています。もちろん、こういうケースで、祝賀の「マイナス」になる事項をあげつらう必要はありませんし、お祝いしても不思議はないのに、実際にはやらなかった(はず)。
「大正100年」どこいった | 道新聞スクラップノート

 そして、今度は昭和100年です。不快でしたけど、高市首相の式辞全文をざっと読んでみました。
昭和100年記念式典 高市首相の式辞全文「70年前の昭和の日本には希望があった」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

 高市は他人に書かせたものを「音読」するのを好まないらしいので、話には本人の「昭和認識」が反映されているのでしょう。それにしても、「日本人の底力」とか(ほんと好きですね、こういうの)、「今日より明日はよくなる」とか「未来は明るい」とか、「日本列島を、強く豊かに」……等々、こうした「定型フレーズ」の隙間に見える高市の「昭和観」は、一言でいえば高度成長期への郷愁でしょう。これは昭和100年を祝おうとする他の人たちの「記憶」にも共通・共振すると思われますし、世代交代はしましたが、おそらくは明治100年の際の「明治時代」の評価とも通脈しているでしょう(連綿と)。
 彼らの歴史観に見合う日本国の過去とは、近代国家の建設に成功し、高度経済成長を遂げて、欧米と並ぶ国際的地位を獲得した「名誉」ある姿ということになります。しかし、そこには「欠落」しているもの、彼らの見たくないものがあります。それが何かを想像すれば、この国の「危うさ」が見えてくる感じがします。

 彼らが自画自賛する日本の近代国家建設と高度経済成長。間にある敗戦の記憶が軽くなっている点は、長くなるので、今日は措きますが、一点だけ重大な「欠陥」を指摘すれば、自分たちの努力(高市が言う「日本と日本人の底力」)によって近代国家なり経済成長なりが成し遂げられたという抜きがたい認識です。彼ら彼女らの言う日本の近代国家建設には(あえて沖縄を含めますが)台湾、朝鮮半島、中国ほか、アジア周辺諸国との関係がほとんど視野に入っていません。改めて言うまでもなく、植民地の存在なくして日本の近代はあり得なかったはずですし、高度成長も同様で、海外市場の存在を無視して日本人が「歯を食いしばって」努力した結果、経済成長したと言い張るのは無理があります。今、日本の社会が外国人労働によって支えられているのを見ずに、排斥を言うのとよく似た、独善的で都合のよい認識と言ってよいと思います(高度成長というコインの裏面に、今も「未解決」の水俣病を見ることもできるでしょうけれど、それもここでは割愛します)。

 平成100年は2089年ですが、これはどうするのか。もうその頃には生きているはずもないので、どうでもよろしいのですが、昭和天皇の誕生日を、あれこれ名称を変えながら祝祭日から外さなかった一方、平成天皇(という言い方は変で、明仁上皇のことです)の誕生日は代替わりを機に祝日から外したところからすると、どうなるのかは想像できます。けれど、昭和天皇の誕生日を「昭和の日」と称し、他とのバランスなり、一貫性なりに疑問や違和感をもたない(というより、そうした当然の疑問を突っぱねる)のですから、政府の意図(意志)は単に「昭和」への思い入れが強いというだけでは済まないでしょう。明仁上皇にも失礼な話です。




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