「経世済民」――経済の語源とされますが、「世を經(治)め、民を濟(救)う」という元の意味からすると、今の「経済」よりも少し広く、「政治経済」の意味に近いと思われます。近世、近代、現代と、意味内容(の重点)は時代によって若干変化してきているかもしれませんが、国政の基本はまずこれだと考えてもよいのではないか。今日も国会の参院で、新年度予算案の審議が行われています。予算をどのように配分し、国民生活の維持・向上につなげるかは、毎年のことながら政治の大きなテーマだと言われて、だいたいの人は同意するのではないかと思います。
ところが、むかしハンナ・アーレントの本を読んでいたら、それだと予算の分捕り合戦になるのがオチで、本来の政治がやるべきことはそういうことではないのだというようなことが書いてあって(今、典拠を特定できませんが)えっ!?と思ったことがあります。彼女に言わせると、現代世界で政治の本来の姿が残るのは、今やもう外交の場くらいなのだと。それが「正しい」とすれば、日本で政治家とみなされている人の中に、外交の表舞台で活躍している、これという人物が、残念ながら小生には見出せないのです(裏世界というか縁の下で支えている人たちのことはわかりません)。日本の政治家は(アーレントの言う意味での)「政治をする人」ではないのか。
今朝の新聞に先の日米首脳会談時のエピソード記事がありました。「首相 エアマイク披露」と題した記事には、高市首相が夕食会の会場で、自分の「持ち歌(好きな曲)」が演奏されると、マイクを握って歌うようなしぐさをした写真(他12枚)が、首相官邸のX(ツイッター)に上げられていると書かれています。新聞記事とweb記事では掲載されている写真が異なり、「夕食会で持ち歌の演奏にノリノリの姿を見せる高市早苗首相」とキャプションが入ったweb記事の方の写真には、以前トランプのわきで高市がピョンピョン跳ねていた姿を想起させられて、げんなりしました。
mainichi.jp
その新聞記事の左斜め下には、40代の男性の投書が掲載されていて、先の日米首脳会談で高市首相がトランプ大統領を「世界中に平和と繁栄をもたらす」と持ち上げた一件への違和感が吐露されています。同感です。引用させてもらうと。
みんなの広場:考慮すべき首相の発言の重さ=会社員・山口健志・40 | 毎日新聞
「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだと思っています」
日米首脳会談での高市早苗首相の発言には違和感を覚えた。ただ、あの言葉を首相の本心と受け取るのも違うのだろうとも思う。コミュニケーションで重要なのは、価値観の異なる相手とどう向き合い、どう言葉を選ぶかだ。外交の場では、相手を刺激せず関係を保ちながら、こちらの立場や懸念をどう伝えるかが問われるのだろう。とりわけ首脳同士の会談では、その難しさが際立つ。
とはいえ、首相が公の場で発した言葉には重みがあり、記録に残る。イランへの攻撃を始めた張本人に対し、外交上とはいえ、歯が浮くような言葉で持ち上げる姿勢は、日本のトップとして首をかしげざるを得ない。子どもを含め多くの犠牲者が出ているのが現実なのだ。
「日米首脳会談は成功した」との認識が広がる中、よく考えなければならないと思う。
先の「エアマイク披露」の記事の末尾には、外務省幹部のコメントもあります(下線 は当方)。
……外務省幹部は、難航が想定された首脳会談が一定の成功を収めた理由について、「エネルギー安定化策など両国の関係強化に資するタマ(具体的な政策)も不可欠だったが、首相の圧倒的コミュ力も大きかった」と評価した。
日本は米国との関係はもちろんですが、イランとの関係も悪くはありません。イスラエルとさえ敵対する関係にはない。米国寄りと見られると、中立的に動きづらい面がなくはないにしても、まったく仲介や交渉に乗り出せない立場ではないはずです。今回の「イラン戦争」では、和平交渉に向けて周辺諸国(パキスタンなど)の一部首脳が動いているようですが、こういうケースで日本の政治家が動いた例を見たことがないのは、本当に残念です。「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」などと立派なフレーズを唱えるなら、これこそ出番と思えますが、高市首相の資質や能力云々はさておいても、日本では一般に首相にしろ外相にしろ、外務省でさえ、国際舞台で紛争の調停役を引き受けたり、和平交渉をリードしようとする気は微塵もないわけです。そんなことしたって、選挙で投票してもらえるわけではないしさぁ――この国の少なくない政治家諸氏の本音が聞こえてきそうです。
お寒い話ですが、この国は、スポーツで活躍する人材は育てられても、国際政治で活躍する人材を育てるようなシステムになっていない。あるいは、自国の「経世済民」がきちんとできない者が、国際政治のリーダーになんぞなれるわけがない式の内向きの「理屈」に絡めとられて、可能性の芽が摘み取られてしまう。それでも、先例となる「モデル」があれば、後の人たちが続かないこともないのでは、とも思います。こういうことが高望みではなく、普通の感覚と受け止められる国、そうした政治リーダーが現れるには、あとどれくらいかかるのだろうかと考えていたところ――「首相の圧倒的コミュ力(コミュニケーション能力?)により日米首脳会談は大成功だった」などと報道されているのを見て、(筋力が弱ってきたせいか)階段で転びそうになりました。
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