ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

南鳥島と「文献調査」

 先月の衆院選で自民党が300をはるかに超える議席を獲得し、参議院で法案を否決されても再可決できる歴史的な大勝利を収めた後、ネット上に「高市鬱」なる語が現れました。軽薄で脱線好きな小生でも、TVで高市首相の作り笑いを見ていると、不快というか、嫌悪というか、そうした「症状」をもよおす感覚が何となくわかります。ふつうは「病因」がわかれば「処方箋」もあるのでしょうが、これは自分の力ではいかんともしがたい。おまけに、連日アメリカとイスラエルという「悪の枢軸」とイランの戦争の惨禍を繰り返し見せられ、気分転換においしい料理やWBCでもどうぞと言われても、気持ちが晴れるはずもありません。「パンとサーカス」の日替わりメニューの裏で見過ごされていることを想像すると、また「症状」に響きそうです。

 今月に入って、国(経済産業省資源エネルギー庁)は、「核のごみ」(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場の選定に至る第1段階の「文献調査」を南鳥島で実施したいと小笠原村に申し入れをしたとのことです(「打診」はひと月前にあったようです)。小笠原が東京都なので、夕方関東地方のローカルニュースを見ていたら、この件が報道されていました。
「核のごみ」最終処分地 南鳥島で文献調査 東京・小笠原村に経産省が申し入れ | NHK
経産省、核のごみ処分場選定へ動き加速 南鳥島での文献調査申し入れ | 毎日新聞

 南鳥島は日本の最も東の端にあたり、面積は約1.5平方km。全島が国有地で、海上自衛隊や気象庁の職員が常駐しますが、一般の住民はいません。プレート境界の外側に位置することから、地震の影響を受ける可能性も低いとされているので、素人目には何となく「よさげ」な感じがしてしまいますが、昨日付で原子力資料情報室が以下のような声明を出しています。引用します。
【原子力資料情報室声明】南鳥島での文献調査申し入れに際し、私たちが考えるべきこと | 原子力資料情報室(CNIC)

 2026年3月3日、経済産業省は高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定をめぐり、第一段階の調査である文献調査を南鳥島で実施するために、東京都小笠原村に申し入れを行った。確かに南鳥島はプレート境界から十分遠く離れた太平洋プレートの上に存在するため、日本国内で、地震や火山による影響を最も受けにくい地域と推測される。複数の専門家が、地質学的な安全性の観点から、南鳥島を地層処分の最も有力な候補地としてあげていることも事実だ。ただし南鳥島の地質に関する文献はほとんど存在しない。
 また地震や火山の影響以外にも、地層処分を安全に実施するうえで留意すべき事項はたくさんある。3月14日と15日に小笠原村の父島と母島で経産省と処分事業者である原子力発電環境整備機構(NUMO)による説明会が行われる予定だ。文献調査実施の是非が判断される前に、南鳥島での地層処分について考慮すべき論点をいくつか提示したい。

 1.地上施設建設の困難さ
 南鳥島は面積が約1.5㎢だ。処分場の地上施設は1~2㎢を要する。掘削した土を安全に保管できる十分なスペースはあるのか。また高レベル放射性廃棄物を搬入する専用港を建設する条件は整っているのか。コンクリートに必要な真水や砂利も南鳥島では自前で調達することは難しい。さらに南鳥島は海抜が低い。高潮などでの施設浸水リスクもある。このような悪条件の中で、これら地上施設を塩害や台風被害にも耐えられるように作るには困難が伴う。

 2.地下施設建設の困難さ
 地下施設は6~10㎢を要する。南鳥島は海底火山の上にサンゴ礁が形成されてできた島だ。地下浅部の岩盤は石灰岩であり、多孔性で遮水性が低い。海水を含んだ大量の地下水の流入が起これば、掘削の安全性や坑道の健全性を確保することは困難になる。そもそも島の周囲は水深が深いので、地下施設を作れる十分なスペースがあるのか疑問が残る。

 3.長距離輸送の安全性
 南鳥島は処分されるガラス固化体が製造される日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県)から約2,200km離れている。長距離輸送は事故や台風、津波被害の発生を高める。国際原子力機関(IAEA)の放射性物質に関する安全な輸送に関する規則には、「被ばくは社会的、経済的に合理的に達成可能な限り低く抑えなければならない」という放射線防護の原則を定めている。ここには日常的な輸送作業に伴う「通常被ばく」、事故や操作ミスの確率を考慮する「潜在被ばく」が含まれる。気象・海象条件が厳しい地域を含む長距離輸送と輸送回数の多さは、この放射性防護の原則に合致しない。

 4.代替の処分方法の検討
 現在の地下300~500mに処分する方法が困難になれば、ディープ・ボアホールと呼ばれる、数km∼10km地下に埋め捨てる超深度掘削坑処分も選択肢になりうる。しかし現在の法律で規定されているのは地層処分のみであり、この手法を採用するなら法律を変える必要がある。また超深度掘削坑処分は研究開発段階の技術のため、実現可能性は保証されておらず、研究にも相当の時間を要することが予想される。

 5.海面上昇
 地球温暖化により、海面上昇は確実に発生する。気候変動政府間パネル(IPCC)によれば、21世紀末(2081~2100年の平均)、日本近海の海面は2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)では0.40 m(0.30~0.55 m)、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)では0.68 m(0.56~0.88 m)上昇すると予測される。さらに南極及びグリーンランド氷床の大規模な崩壊等が発生した場合、地球全体で2100年に2 mに、2150年には5 mに近づくような海面水位上昇の可能性を排除できないという。南鳥島は最高標高9m程度の平坦な小島であり、海面上昇した場合、水没することはなくとも、高潮などで浸水が発生するリスクはより高まる。

 6.予測不能な処分コスト
 以上のような悪条件は、すべて処分費用に跳ね返ってくる。NUMOの説明によると、処分費用はおおよそ4兆円を見込んでいるが、さらなるコストの増大は避けられないのではないか。

 国が責任を持って処分場選定を進める声が高まっていたことは事実だ。だが説明会資料を確認する限り、今回の国の文献調査申し入れでは、これらの論点について十分な情報提供が行われていない。
 住民の存在しない離島を選定することで、住民合意に抜け穴を見出そうとする国の進め方は、高レベル放射性廃棄物問題への国民の関心を低下させる。最終処分場選定においては、海外返還ガラス固化体の2045年青森県外搬出という課題が差し迫る。現時点で実施に大きなハードルが想定される南鳥島案を推進することで、根本的な問題解決はさらに先送りされることになりかねない。 以上

 やはり問題はいろいろとあるようです。「内地」で最終処分の話がなかなか進まない中、国の誰かが思いついたのでしょうけれど、原子力発電所の立地と同じで、根本に「なるべく遠くに」という発想があるのは否定できない感じで、それも不快です。原発にしろ、基地にしろ、ごみ処分場にしろ、地元の理解と承認が必要不可欠なのはもちろんでしょうけれど、逆に、地元で多数となればいいとばかりに、金や力にものを言わせ、住民が分断されてもおかまいなしに設置を強行して不幸を招いてきた事例が過去に数多くあります。
 小笠原村の一人の議員の発言を聞いていて、これを実質小笠原村の人々にだけ委ねていい問題なのだろうかと思いました(動画の3分30秒過ぎあたりから)。
- YouTube

 これも高市政権の施策の一つ。「鬱」な感じはなかなか消えません。



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