「政策通」という語があります。文字通り、各種の政策に通じていること。得意分野、不得意分野は誰しもあると思いますが、たとえ「不得意分野」の政策であっても、大枠を知っていて、それなりの見識をもって語れる人。相応の知識量が必要なのはもちろんですが、それだけでなく、どういう人脈をもち、側近にどんなブレイン(知恵袋)がいるかも重要でしょう。互いにある種の利害関係があるかもしれませんが、何か聞けば教えてもらえるという安心と信頼なしに、この一種の「社会関係資本」は維持できないでしょう。要は、政治家本人に「人徳」がないと人も集まらないということだと思います。
他方、「政策オンチ」という語もあります。もちろん「政策通」の対義語でしょうけれど、当人の知識が不足している場合はもちろんのこと、周りにいくら該博で優秀な人を集めたとしても、当人が耳を貸さず、的外れなことを言う(する)のも結局同じことになるでしょうから、究極的には、個人的な資質や思考力を越えて、当人の人間性や人格の問題に行き着く可能性もあります。あくまで個人的な語感と印象にすぎませんが。
高市首相のことを、自民党の総裁選の最中から「政策通」と称する人やメディアをたびたび目にし、強烈な違和感を覚えました。もちろん、こうした形容はお飾りですから、真に受ける必要はないのでしょうが、今朝の新聞記事を見ていると、高市周辺の側近の中にも、当人の姿勢や発想に違和感をもっている者が少なからずいるような感じをもちます。彼らもおそらく、高市のことを「政策通」だと言う人がいたら、眉を顰めたくなるのではないか。
たとえば、政府の経済財政諮問会議の民間議員を務める第一生命経済研究所の永浜利広氏は、最近たびたびTVでお見かけしますが、ある時などは「日本の財政は改善傾向にある」と発言していて驚いたことがあります。その彼が、高市自民党の言う食料品の消費税引き下げに、経済合理性はなく「政治的」との懸念を示しています。つまり、これは合理的な政策判断ではなく、選挙目当ての人気取りだと評しているわけです。
政府諮問会議の永浜利広氏、消費減税「多くのハードル」と懸念 | 毎日新聞
永浜氏の懸念を伝える記事の上にある「市場 衝撃」という記事は、内容的にもっと衝撃的です。
衆院選2026:日本は行き過ぎた緊縮財政 市場、衝撃 歳出拡大の一途 G7最悪の借金なのに | 毎日新聞
高市早苗政権の財政拡張路線に懸念が強まっている。高市氏が衆院解散を表明した(1月)19日の記者会見は「消費減税発言」に注目しがちだが、市場関係者に衝撃を与えた別の発言があった。日本は「行き過ぎた緊縮財政」であり、その「大転換」を主張したことだ。数十年にわたって借金が増え続けた先進国最悪の日本の財政状態を、高市氏は本気で緊縮と認識しているのだろうか。
「これまでの経済・財政政策を大きく転換する。行き過ぎた緊縮志向、未来への投資不足。この流れを終わらせる」。19日の会見で高市氏は、これまで財政政策が「行き過ぎた緊縮財政の呪縛」に影響を受けたと指摘。持論とする「責任ある積極財政」に転換することが改革の本丸だと強調した。
だが、大きな疑問が残る。日本は本当に緊縮財政だったのか。多くの市場関係者の答えは「NO」だ。歳出増の要因の一つは高齢化に伴う社会保障費の増加だ。さらに防衛費増額や子育て支援の強化に加え、金利上昇に伴う利払い費の膨張ものしかかる。老朽インフラの修繕費などもかさみ、「緊縮どころか拡大の一途をたどっている」(経済官庁幹部)のが実態だ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストも「市場関係者で、これまでの財政政策を緊縮財政だと思っている人はいるのだろうか」と疑問視する。「仮に、これまでの財政が高市氏の目から見て『行き過ぎた緊縮』だとすると、高市氏が考える財政はかなり反対側にあるのかと思ってしまう」……
……財務省内でも「『緊縮』なら、こんな借金だらけの財政になっていない。首相は国民受けが良いから『責任ある積極財政』と言っているだけで、発言内容は無責任なものばかりだ」(幹部)との声が漏れる。……高市氏の会見翌日の20日、東京債券市場では日本国債が売られ、国債の利回りが急上昇した。財政悪化リスクを反映しやすい40年物国債の利回りは07年の発行開始以来、初めて4%の大台を突破。長期金利の指標となる10年物国債の利回りは一時2.380%と27年ぶりの高水準になった。……
……メガバンク幹部は「高市首相は『円安とインフレは関係ない』『長期金利が上がったのは(放漫財政ではなく)日銀が利上げしたせい』と思い込んでいる節があるのでは」と嘆く。日銀幹部も「高市氏は極めて基本的な市場の原理すら分かっていない恐れがある。誰かレクチャーする側近はいないのか」と危機感をあらわにしている。……
「高市氏は極めて基本的な市場の原理すら分かっていない恐れがある」との日銀幹部の発言は驚異です。日本を取り巻く環境と条件は、2013年頃とは明らかに別物となっているのに(周囲の声に耳を貸さず)、なおアベノミクスと同様の「積極(放漫)財政」によって「日本経済を強くする」と言っているわけです。これはもう「信念」ではなく「信仰」でしょう。こういう人に選挙で安定多数のお墨付きを与えたら、どんな惨禍が待っているのか。昨日のブログで高市推しをすることに異議をはさみましたが、繰り返します。よく考えるべきだということを。
以下は付記です。
上の記事がある新聞紙面の見開いた反対側の紙面に自民党の選挙広告があったので、ついでにこれについても書いておきます。笑顔で握りこぶしをつくる高市の横には次のような文言が掲げられています。
どうしても実現したい 「日本」があります。
物価対策は、自民党の最優先課題です。
電気・ガス代支援、ガソリン・軽油の値下げ、そして子育て応援手当など、
年間約8万円(標準世帯あたり)を超える支援策が、既に始まっています。
力強い経済成長の実現と、外交・防衛力を抜本的に強化することによって
皆様の暮らしと平和を守り抜く。
「日本の未来は明るい」「日本にはチャンスがある」
誰もがそう実感できる社会を自民党はつくりたい。
皆様とともに、希望に満ちた日本の未来を、どうしても実現したい
日本列島を、強く豊かに。 自民党
高市というか自民党の認識では、日本の現状は「明るくない」し、「(何かの?)チャンス」をいかせていないようです。なぜ、そうなっている(と思う)のか。処方箋は原因分析とセットでないと、説得力がありません。冒頭の数行に掲げた「物価対策」はやけに具体的ですが、これらの多くはもともと野党が要求していたことで、自民党は少数与党がゆえにしかたなく飲んだ話です(つまり、もともとやる気のなかったことばかりです)。これらが、次の文の「力強い経済成長」と「外交・防衛力の抜本的強化」に結びつくとは思えないので、やや飛躍があります。おそらくここには「積極財政」についての文言を入れてつなぐべきところなのでしょう。けれども、ここに挟むとよろしくないという、選挙に得か損かの心理がたぶん働いたのだと想像します。
もちろん選挙広告はスローガンの羅列でよい、論理的な作文など必要としないという言い方もできます。しかし、冒頭の物価対策の文言が、他の(抽象的な)文言と比べて具体性が際立っているので、ギャップが顕在化してしまうのです(ひょっとしたら冒頭の部分は一番最後に挿入したのかもしれません)。短期間でつくったこともあるんでしょうが、決して褒められた作文ではないなと思います。高市人気にあやかって高市語録を前面に並べることを優先した結果がこの広告でしょう。元が元だけに、申し訳ないけど、空疎な感じがします。「日本列島」よりも、そこに住んでいる人一人ひとりでしょう。
孤独の現場から:スキマバイトとネカフェでその日暮らし 見えないホームレス、実態は | 毎日新聞
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