昨晩TVに速報のテロップが入りました。東京電力の柏崎刈羽原発が14年ぶりに再稼働したとの報せでした。2011年の福島第一原発事故の後、東京電力の原発が再稼働するのは初めてのことです。新潟県の花角知事がゴーサインを出したことで、こうなることは既定路線でしたが、原発推進・再稼働に執念を燃やしてきた「原子力ムラ」のお歴々にとっては、念願を果たしたというところでしょう。立憲民主党も公明党との新党「中道改革連合」の結成にあたり、再稼働容認へと方針転換しましたし、今後、全国の原発が次々と再稼働へ舵が切られていくことが危惧されます(先日データ改ざんのあった、あの浜岡原発でさえ例外ではないでしょう)。2011年の福島の事故から15年。私的にはわずか15年のようにも思えますが、事故の「後始末」はいまだ終わらず、その見通しさえも立たない中で、このような日を迎えることになった東電とこの国のあり方を深く憂慮します。流れに掉さすのは容易ではないと思いますが、原発に関して「中道」はないと思っているので、原発再稼働反対の立場を今後も堅持していくつもりです。
再稼働翌日の今朝、毎日新聞の記事をいくつか読みましたが、共感しつつも論評としては物足らない感じを強く持ちました。
不祥事相次ぐ、原子力業界…今なお残る「原子力村」特有の価値観とは | 毎日新聞
分断で苦労続いた新潟、無関心な消費地の首都圏 柏崎刈羽原発再稼働 | 毎日新聞
「原発再稼働により電気代が安くなる」という「つくり話」もマスメディアで次第に否定される傾向にあります。これに関しては、龍谷大学の大島堅一さんが雑誌『地平』のインタヴューに答えた話の内容が有益と思います。大島さんは、再稼働によって発電コストが浮くことはない、むしろ逆で、「原発がないほうが電気料金は安くなる」と述べています。さらに原発再稼働は通常の経営判断としてあり得ないし、東電はもはや通常の民間企業の体をなしていないとも言っています。長くなりますが、以下、引用します(逐語でなく「加工」を施してあります。なお、太字や下線 は当方が施したものです)。
まず指摘したいのは、この再稼働という方向性は、通常の企業の経営判断としてはあり得ないものであることです。そもそも東京電力という会社は、もはや自律的に経営判断ができるような通常の民間企業ではなくなっています。政府が設立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構は東電の過半数の株式を持っており、実質的に政府が資本を握る「国有民営」の状態になっています。今回の動きは、政治的な意図によって再稼働が進められている面が大きい。合理的に考えれば、福島原発事故の収束もしておらず、柏崎刈羽の安全対策にも莫大な投資が必要で、再稼働したとしても経済的に採算が取れることはありえません。普通の経営判断なら原発の運用自体をやめたほうがいいという結論になるはずです。
「再稼働によりコストが浮く」と言われるが、それは単純化された言い方で、これまでの莫大な投資を度外視して燃料費の差額だけ見て、単年度でプラスになると言っているのであって、本来の投資という観点からは意味を持ちません。柏崎刈羽にかかる追加安全対策費は、2019年時点で1兆1690億円とされていましたが、実際にはそれ以上に膨らんでいるでしょう。さらに毎年1000億円ほどの維持費がかかっていて、この巨額の投資額に対し、再稼働で得られる見返りはわずかです。
投資家は資本に対する利回りを考えるものです。しかし、東電は単年度の損益しか考えていない。東電やマスメディアは再稼働により「年間で1000億円程度のコストが浮く」と、まことしやかに言いますが、その根拠はあやふやです。
たとえば、電力を市場で買う場合と比較して300億円程度コストが安くなるという計算なら、現在の市場価格と東京電力の需要から理解できます。柏崎刈羽の原発を2基動かし、トラブルなく順調に稼働できたとすれば、年間の発電量は約158億㌔ワット時。これを市場調達した場合、今年の調達価格で掛け算すれば1913億円程度になります。再稼働すれば、維持費が約1000億円、核燃料費が約400億円で、合計1400億円強となり、その差額は300億円(超)にはなる。しかし、どこをどう見ても1000億円という話にはなりません。
かりに東電が言うように1000億円程度のコストが浮くとしても、安全対策だけで1兆2000億円、事故後の維持費だけで1兆円を超える額を投資し、それはさらに増える見込みですから、年間の利回りは微々たるものです。原発の稼働率を60%で見積もれば赤字です。いつ地震やトラブルで完全に停止してしまうかもしれない。事故を再び起こすようならば、東京電力という企業は今度こそ消えることになるでしょう。つまり、すでに柏崎刈羽原発は、通常の企業であれば「損切りして撤退すべき案件」であることは明らかで、経済的合理性で考えれば、これまでの巨額の投資をもっと別のものに振り向けておくべきだった。しかし、判断の主体が実質的には政府なので、政治的な理由で再稼働をしようとしているのです。これは経営ではなく、政策です。
柏崎刈羽原発の再稼働による電気料金の値下げは、2023年6月からすでに電気料金に織り込まれていたものなので、再稼働したからといって下がるわけではありません。これは東電も認めています。そもそも原発を廃炉にしたほうが、電気代は確実に安くなります。十数年にわたって電力を1㌔ワット時も生み出していない原発の維持費に年間1000億円をかけているわけですから、それが不要となれば、それだけ電気代が下がります。
いま電気代が高いのは「火力も原子力も両方やる」からです。どちらかを減らすとすれば、すぐに効果が出るのは原発をなくすことです。それなのに、「原発を再稼働するか、しないか」という選択肢だけにフレーミングしている。本来、東電にとっての本当の選択肢は「原発を持つか、持たないか」であるはずです。事故を起こした企業であり、事業の採算性も失われているのですから。それなのに初めから「持つ」ことを前提にした議論だけをするのはごまかしです。どの馬に賭けるかという議論だけにフレーミングして、そもそも賭け事はやめたほうがいい、という議論を見えなくさせています。
東電は2025年9月の中間決算で過去最大の7123億円の最終赤字を計上していますが、原発再稼働を見通せないことを理由に収支予想を未定としています。東電の会計方式は常識的に見てあり得ない構造になっていて、本来、原発の営業費用と事故処理費用は区分されて計上されるべきものなのに、原発事故の費用が区分会計になっていません。今回の7000億円を超える赤字額は、福島の事故処理費用を特別損失として計上したからですが、どこにどれだけの費用がかかっているのか、投資家も含めてわからないようになっています。そんな状態で「再稼働すれば得だ」と言われても信じられません。
企業としては、東電の経営は完全に行き詰まっています。普通に考えれば、原発はやめるしかない。原発をやめるだけで、維持費として使っている年間1000億円が浮きます。それなのに、再稼働に向けてさらに莫大なお金を投じている。常識的に考えれば「出血を止める」のが先でしょう。それをせずに血を流し続けながら、「動かせば黒字になる」と言う。真っ先に合理化の対象にすべき事業なのに、誰もそれをとがめず、新聞もテレビも東電や政府の言い分をそのまま流している。原発さえ再稼働できれば東電の経営が再生するかのように錯覚させようとしています。……
……本来であれば東電という会社は清算したほうがいいのです。電力自由化を本気で進めるならば、東電が損害賠償と事故処理を担いながら他企業と競争できるはずがありません。そのため、福島第一原発事故の賠償も、実際は国民負担となっています。廃炉費用も名目上は自社負担とされていますが、送電線の託送料金、つまり電気代の一部がそこに流れる仕組みになっています。そうやって「東京電力」という看板のもとに国民負担を隠しながら帳尻を合わせようとするので、複雑な仕組みになっているのです。
このままでは東京電力は必ず破綻します。福島第一原発に残されている放射性廃棄物は、原子力学会の2020年の報告によれば、通常の原発の1000倍から3000倍の量があると試算されています。その処分には100年、200年単位でコストがかかるでしょう。会計学的にはこれは負債にほかなりません。ですから、本来は試算をしたうえで負債として帳簿に載せて、投資家に情報開示しなければいけません。でも、東電は計算しようとしません。それをやれば、莫大な負債額が発生して債務超過状態に陥ることが明らかだからです。これは粉飾に近い状態です。この一点だけ見ても、実質的に東電は企業として存続できる状態になく、国が延命装置をつけて生かしているだけだと言えます。
東電はもはや通常の民間企業として理解すべきではなく、政治的な原発推進主体として理解したほうがいいでしょう。原発推進に再び舵を切った政府は、事故を起こした企業であっても原発を再稼働させる――それが可能になれば、他の電力会社だってもう怖くなくなります。「事故を起こしても潰れない」「賠償は国がやってくれる」「裁判でも責任を問われない」。これが続けば、モラルハザードです。反省し、真剣に事故の対策を考えることがなくなります。……国に寄りかかるということは、国民負担に寄りかかるということと同義です。それを複雑な制度を作ることで隠蔽し、まるで企業努力の一環として再稼働があるかのように装っています。
(『地平』2026年2月号、113-117頁)
解散総選挙で高市自民党が勝てばなおさらのこと、たとえ中道改革連合が勝ったとしても、再稼働の流れは簡単には変えられないでしょうけれど、こんな欺瞞的、虚無的方法を知って傍観している気にはなれないですね。
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