雑誌『地平』の最新号を眺めていると、一枚の写真に目が留まります。がれきの上に二人の女の子が座って笑っている。背後にあるのは廃墟となった家屋です。キャプションにはガザ南部のハーン・ユニス、アル・カティーバ地区とあります。見ていると既視感のようなものを覚えます。それも遠い昔の記憶ではありません。大分・佐賀関の火災の跡です。あるいは、地震のあった能登で横倒しになった建物の写真も連想します。でも、女の子二人の背後にある廃墟(破壊)は、火災や地震がもたらしたものではありません。
これは、写真ではなく、テレビのことを述べたものですが、スーザン・バック-モース(堀江則雄訳)『夢の世界とカタストロフィ』を読んでいたら、こう書いてあります。
……検閲されない戦争報道はまったく異なった効果をつくり出す……。テレビの質が頻繁に批判されるのはまさに、前後の脈絡に関係なくイメージをつくれるのがテレビだからである。イメージが文化的なコンテクスト(このなかには政府が伝えたいと望むプロパガンダ的なコンテクストも含まれる)のなかに閉じこめられないと、視聴者は自分が見ているものの純粋な身体性に反応する。説明的な注釈が不足しているために、視聴者は自分が見るあらゆるものにたいして文脈化されたイメージの意味への共感ではなく、脆弱な人間肉体への感情移入をもって反応する。共感には文化的地平が共有化されることが必要だが、感情移入は模倣であり、感覚的知覚への身体的な反応である。戦争の際の検閲されないテレビの真の危険は、人々が自軍の兵士の死体や負傷した者の姿を見て反応することではなく、敵の人間的な苦痛や苦悩のイメージに耐えられないと感じることである。つまり、ナパーム爆弾をうけた子どもたち、処刑される戦争捕虜、そして爆撃されたバグダッドのアミリヤ防空壕で悲嘆にくれてすすり泣いている女性たちである。逆説的だが、この人間の苦痛の光景への身体的な反応、そして具体的で直接的な個人の経験は、ヴァーチャルな集団のもっとも一般的な形態をイメージする基盤になる。すなわち文化的な差異を超える人間愛である。1968年のシカゴでの民主党全国大会で警官隊に打ちのめされていたデモ参加者たちが、「全世界が見ている」と初めて叫んだとき、彼らはこのユートピア的な訴えをもってサイバードリームを表明していたのだ。この「全世界」は、文化の特定の境界を超えた人間性の集合的な夢であり、文化によって強いられた苦悩に、それがどこで起きていようとも抗議する人間性の集合的な夢なのである。
(堀江訳、同上書、315頁)
「感情移入」と「共感」が別ものであろうとなかろうと、二人の女の子の写真を見て、何も感じないという人はいない――そう思いたいところですが、著者がこの文をものしてから(著書が刊行されてから)25年。「人間の苦痛の光景への身体的な反応」……というよりも、「全世界が見ている」という「ユートピア的な訴え」が今も共感をもって迎えられるかというと、正直なところ、そうは言いがたい面がある感じもします。25年の間に、否、この2年で壊されたもの。大きく傷つけられたもの。それは家屋や生活、人命にとどまりません。
二人の女の子の写真が掲載された記事のタイトルは「故郷は廃墟になった。イスラエルと世界を決して許すことはない。」です。筆者のルワイダ・アメルさんは第二次インティファーダのあった2000年、7歳のときにイスラエル軍の攻撃でハーン・ユニスにあった最初の家を破壊され、劣悪な仮設住宅に大家族で押し込められた後、与えられた質素な家を自分の力で増改築して、やっと7人が暮らせる姿にしたそうです。「(私は)家を出るのが好きではない。どうしても外出しなければならないときも、できるだけ外の仕事を早く終わらせて帰宅した。家が与えてくれる安心感と静けさが大好きだった」と書いています(同誌、22頁)。しかし、その家屋をまたしても瓦礫の山にされたのです。
記事の結びにはこうあります。「今は、この街の大半と同じように、そこには瓦礫だけが残っています。私たちは25年前と同じ荒廃と直面しなければなりませんが、再び再建する力があるのかどうか、私には分かりません。私の心も体も、この疲労に屈してしまったのでしょうか。
愛しい私たちの家、去る前にキスして抱きしめてあげたかった。あなたがもっと強かったら生き延びられたかもしれないけど、戦争はそうさせなかった。
私は決して世界を許しません。戦争は終わったかもしれませんが、私たちにはもう、住む場所などどこにも残されていないのです。」(同誌、24頁)
彼女は「戦争は終わったかもしれません」と書いていますが、12月2日、イスラエルの攻撃によりガザ地区の住民2人が死亡しています。
ハマス、遺体の一部引き渡し イスラエルはガザ攻撃続行 - 日本経済新聞
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