ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

第一弾「働かせたい改革」

 スーパーなどで買い物をしているとたまに気づくのですが、たとえば袋に数個入ったリンゴやミカンを買ってきて、家で中身を見ると、一個くらいキズがあったりとか、1個売りだったら絶対に買わないようなのが混ざっていることがあります。買うときに注意して見ているつもりですが、店側もさるもので、外側からは見えないようにNG部分を内側に向けるなど巧妙に収めたりするので、なかなか気づけません。
 こういうのを「抱き合わせ」というのでしょうか。NGな品物を互いの合意の上で売り買いすることもありますが、八百屋さんとちがって、スーパーで店側と客が掛け合いでものを売り買いするのは無理でしょうし、まあ、腐ってるとか、あまりに痛みがひどければ交換してもらいますが、擦り傷程度だったら、多くの人が「まあしょうがない」と諦めるでしょう。値段が安かったりしたら、余計そうなります。しかし、これは5個あるうちの1個くらいの話だから許せるんであって、5個とも全部キズものだったら看過できません。
 ところが、これが全部NG商品の上に、リンゴやミカンだけでなく、チーズや鶏卵や魚などまで混ぜられたら、その判別には通の人でも戸惑うでしょう。傷んだリンゴに、腐りかけたチーズ、産卵日不明の鶏卵、目の赤い魚などをすべて精査して、平たく言えば、悪い順番をつけて、相対的に悪くない方から食べていくというのはなかなか悩ましいと思われます。めんどくさいから全部捨てちゃえというのが一番「安全」ですが、すいません、食のレベルが低劣で、こんな貧粗なたとえ話しかできなくて(笑)。

 しかし、こういうのを政治に応用すれば、「目くらまし」の効果が見込めるかもしれません。米国のトランプ政権などは大統領令を矢継ぎ早に行使して、次から次へと政策という「商品」を見せて、国民に考える暇を与えない――この手の「目くらまし」もありますが、1925年の治安維持法普通選挙法(ただし25歳以上の男性)のように飴と鞭(というか劇薬)を抱き合わせて「目くらまし」をした例もあります。
 そんな大昔の例を出さなくても、こちらが気づかないだけで、調べれば近年でもこの手の手法は当たり前のように使われてきたでしょう。5つある法案の中に1つだけNGを忍ばせておくとか、上にあるように、4つともみんなNGだけれど、NGの度合いが素人眼にはよくわからないので、1つだけ「NGだー!」と世間の関心を引き付けておいて、残りの3つを無風で通してしまうとか……。メディアをうまく利用しながら、いろいろな「抱き合わせ」や「目くらまし」をしてきたと思います。

 昨日から動き出した高市内閣。早速全閣僚に指示を出し、自分のカラーを出すことに前のめりです。今朝の新聞には、上野厚労大臣に現行の労働時間規制の緩和を検討するよう指示したことが伝えられています。自民党参院選で「働きたい改革」を公約に掲げているので、これはその延長上にある話でしょうけれど、労働時間の規制に不満な企業側の意向があるのは明らかです。これは「(労働者が)働きたい改革」というより「(企業が)働かせたい改革」という方が正しく「本音」を現しているでしょう。でも、働く側の大多数はそんなことを望んでいません。
高市首相:首相、残業規制緩和検討を指示 「働きたい改革」いいの? 「就業時間増」望む労働者6.4%のみ | 毎日新聞

……時間外労働の罰則付き上限規制は2019年4月から、働き方改革関連法の一環の改正労働基準法として導入された。現在の残業時間の上限は原則月45時間、年360時間。繁忙期など特別な事情があっても、月100時間未満、複数月平均で80時間以内に制限される。法施行前は、労使協定(36協定)に特別条項を付けることで、事実上青天井だった。
 法施行後、労働者における長時間労働の割合は減少傾向。だが、今年に入り、深刻な人手不足を背景に、上限規制の緩和を求める声が中小企業を中心に上がっている。こうした声を受けて、自民内部で規制緩和を求める声が表面化してきた。
 全国の中小企業でつくる経営団体幹部は、5月の労働政策審議会厚労相の諮問機関)で、「上限規制により、成長意欲の高い人やさらに経験を積みたいと考えている人が、希望する働き方をできなくなっている。恒常的な人手不足の要因だという意見もある」と述べ、「必要な見直しを行ってほしい」と求めた。
 では、労働時間を延ばしたいと考えている労働者は、実際に多いのか。
 厚労省が24年9~10月に実施した調査によると、残業が月平均45時間以下だった労働者は全体の91.7%。「就業時間を増やしたい」人は全体の6.4%にとどまった。厚労省の試算によると、このうち約半分は労働時間が35時間未満、年収200万円未満となる。
 この層について、厚労省はいわゆる「年収の壁」が「働きたいのに働けない」理由である可能性が高いとみている。残業が月80時間を超えたとしても今より労働時間を増やしたいという労働者は0.1%にとどまった。……

 高市氏は自民党の総裁に選ばれ、上機嫌で「(党議員)全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」などと口走って、批判されたことなどまるでお構いなしのようです。しかし、今の氏の頭の中で、当座これが一番やりたいことなのかと考えると、もちろんそんなことはないはずです。これは他との「抱き合わせ」の1つかもしれないし、あるいは、一時的に世間の関心を引き付けておいて、「隠し玉」や他を通すためのダミー、あるいは「かませ犬」かもしれません。引き続き反動政権が放つ第二弾、第三弾もよく見ていかないといけないと思います。

<追記>
 「第一弾」などと銘打ちましたが、新聞報道の時系列で言ったら、安保3文書の改定(防衛費増、武器輸出の限定解除等)の方が「第一」かもしれません。これは「サナエノミクス・第一弾」ということで。
 それから、引用した毎日新聞の記事で割愛してしまった小室淑恵さんのコメントも重要なので追加して引用しておきます。働く人へのしわ寄せでしかない「成長モデル(?)」は、いいかげんにやめさせないといけません。

……長時間労働の是正に取り組む株式会社「ワーク・ライフバランス」代表の小室淑恵さんは、上限規制の緩和を求める動きについて「『働きたい改革』というと、あたかも労働者が求めているように聞こえるが、厚労省の試算にあるように、実際は『働かせたい側』の論理だ」と指摘。その上で「少子高齢化の下で、長時間労働が可能な、若くて健康でケア責任を負わない人材は今後も減っていく。夫婦どちらかが長時間労働のままでは、少子化の流れも止まらない。長時間労働に頼る戦略は、日本の経済成長を逆に押しとどめることになる」と警鐘を鳴らした。






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