ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

TACO高市内閣発足

 昨日自民党高市早苗総裁が総理大臣に選ばれ、(ようやく)新内閣が発足しました。自分が年をとったせいもありますが、政治家の面々が軽薄・卑俗に見えてしまってしょうがないです。今さらながら、本当にこういう人を総理大臣にしちゃうんだと思うのは、(世論とは異なり)こっちが単にそう思っているだけなのでしょうか。
 「初の女性首相」――逐一確認したわけではありませんが、おそらくどの新聞も今朝はそのようなタイトルを銘打っていると思います。「日本初」はもちろん事実には違いありません。しかし、「だから何?」という声も聞こえてきそうです。というのは、高市氏は、女性にとってのいわゆる「ガラスの天井」を破った人かもしれませんが、他の女性たちと一緒に、多くの女性たちから共感を呼ぶ政治をすすめようとしてきた女性では(全然)ないからです。
 たとえば、今朝の新聞記事を眺めていると、立憲民主党田名部匡代参院議員は「初の女性総理が出たらぐっとくるものがあるかと思ったが、正直あまり感動はなかった。理由は共感する政策が少ないこと。国会では女性議員は圧倒的に少ない。だから足りない政策を、党派を超えて力を合わせ(実現し)ていこうというのが女性のトップリーダーへの期待だと思うが、高市さんにはあまり期待を感じない」と述べています。
高市内閣:高市内閣発足 日本の課題どう挑む 公明離脱、逆風に 地方は不安の声 | 毎日新聞

 あるいは、女性学が専門の諸橋泰樹・フェリス女学院大学名誉教授は「彼女は女性全体の代弁者ではない」として、こう述べています(引用記事は元のインタビューを談話に要約したもののようです)。
女性初の首相「素直に喜べない」 ジェンダーの専門家が抱く懸念 | 毎日新聞

……高市早苗さんが女性初の首相となったが、ジェンダー平等が前進する期待はできない。現在の日本社会では、形式的にも男女の平等ができておらず、(各国の男女の格差を示す)ジェンダーギャップ指数は148か国中118位。女性の総理大臣が誕生する意義は大きいが、女性ならば誰でもいいわけではなく、中身や質の問題がある。素直に喜ぶことはできない。
 女性だから革新的な思想を持っているとかリベラルだとか、そんなことはないだろう。彼女は女性全体の代弁者ではない。
 高市さんは自分が女性であることを時に押し出しながらも、アンチジェンダーという人に見える。ジェンダー政策がむしろ後退する懸念がある。女性の皇族に関する改革も、選択的夫婦別姓制度も進めないだろうし、フェミニズムとは相いれない。
 高市さんは女性のタカ派、そしてフェミニストではないというところが男性には受ける。彼女はそれを意識しているのだろう。……

 実質的に「ガラスの天井」を「破った」わけではないけれど、既成事実だけは残したというところでしょうか。

 自民党の総裁就任早々に「全員に馬車馬のように働いていただく。私自身もワークライフバランスという言葉を捨てる」などと鼻息荒く挨拶をした高市氏。裏金議員たちもためらわずに要職に就けると豪語し、早速その象徴的人物を党幹事長代行に就け、各党へのあいさつ回りでは、当人を「傷もの」ですがと紹介するなど、パワハラ体質全開でしたが、そのおかげで公明党は連立政権から離脱すると決断しました。高市氏や自民党にとっては、これがけっこう痛撃だったらしく、閣僚人事では裏金議員の登用をあきらめ、安全起動策へと切り替えました(ちなみに今度の新外務大臣は、自分の資金管理団体から、住所・電話番号・会計責任者が同一の後援会組織(=支出公開基準がゆるゆる)に14年間で4億4,590万円もの寄付をしていた事実を忘れてはなりません。安倍派の「裏金議員」らのキックバック方式に対し、こちらは「俺への忠誠の証に俺の使った歯ブラシでお前も……方式」ではなく「〇木方式」と呼ばれています)。
自民・茂木氏、自身の資金管理団体から後援会への資金移動「自制」 疑念回避へ来年度から - 産経ニュース

 傍流の立場で、今までは好き勝手に言ったりしてきたことが、今度はできなくなる。総理になったら自分はこうすると「公約」のように掲げていたことを実際にはやらない(できない)となると、支持者から「何でやらないんだ!」という不満がくすぶり、批判の声が上がるでしょう。やがては一部が離れていくかもしれません。高市氏は靖国神社の秋の例大祭への公式参拝を今回は自重しました。本人は外交的な影響を考慮してと釈明しています。まあ、しょうがないだろう、一国のトップ(まだ総理指名前でしたが)なんだからと、支持者がみんなそれで納得してくれればいいですけど、就任前は威勢のいいことを言っていたくせに何だ、やっぱり口だけか、と失望している人も中にはいるでしょう。
 でも、一国の総理大臣(というか公職の立場にある人)にはそういう面がありえます。おそらく当人もそれを早々に自覚せざるをえなくなっている。昨日は総理に選出された祝福で高揚感が先行していたかもしれませんが、今日からは支持者や賛同者の声だけでなく、批判や疑念の声も含めた「世論」全体と向き合っていかなければならない。どう対処していくのか。組織やチームで対応しながら決断するといっても、最後の最後は自分一人でしょう。

 米国にTACO(Trump Always Chickens Out トランプはいつも尻込みして退く)という皮肉語があるようですが、高市総理もやがてはこれになぞらえて揶揄されるかもしれません(SACOになるかも知れませんが)。となると、性格的に推察するに、世間の揶揄を自分に対する「嘲り」や「軽蔑」ととらえ、依怙地になって、逆に、やらなくてもよい施策に手を出したり、強行突破をはかったりという事態にならないとも限りません。というのも、自身が総務大臣をしていた頃の文書をめぐる国会質疑で、「捏造の文書でなければ閣僚や議員を辞職するか」との問いに「結構だ」と啖呵(見栄)を切ってしまい、のちに「捏造文書」でないことがわかって「もはや彼女は制御不能だ」と言われていた時期もあったからです。その後「記述は(捏造ではなく事実だが)不正確だ」で辞職云々については「シラ」を切り通していますが。
【再び議員辞職宣言】高市早苗が「総務省内部文書」と「奈良県知事選」で退路を断ってまで“暴走”を続ける理由と”強くて頼もしいサナエ”アピールの行方 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け

 こんなある種の「挑発」や「売られた喧嘩」を(勝算もないのに)買ってしまうような人に、国民全体の「いのち」を預けて大丈夫なのか。とりあえず、今のところは世論の動向を気にしているようなので、Takaichi(Sanae) Always Chickens Out の方向にもっていって、歯止めにしないと、と思っていますが。英国の女性総理になぞらえれば、高市氏がサッチャーになるか、トラスになるかは、我々次第だと思います。




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