土曜に自民党の新総裁が高市早苗氏に決まってから、しばらく模様眺めをしていましたが、週明けの昨日月曜には東証の日経平均株価が2,000円を超える上昇となりました(今日も上がっていますが)。この上げ幅はちょっと異様に感じます。安倍政治の二番煎じが始まる合図なのでしょうか。
今日党三役+αの人事も発表されましたが、キングメーカーを気取っていても、単に勝ち馬に乗りたかっただけの御仁がまたしても副総裁に就任するようで、幹事長といい、院政よろしく、これほど明け透けにこのお方に依存して、斬新さも何もあったものではありません。しかも、幹事長代行に裏金議員の「象徴的人物」を就けるというんですから(政治資金収支報告書の記載額を次々と二重線で消して不明と書いて提出するとか、事務所の引き出しにン千万もの現金を保管するとか、〇〇(某国)にいるはずなのに△△(別国)で飲食した領収書があるとか、「常人」ではちょっとあり得ない「芸当」のできるお方です)。高市氏は早々から「全員、馬車馬のように働いてもらう」などと意気込んで(いれ込んで)おられますが、次のゲートが開いた途端に落馬なんてことにならないかと密かに期待……ではなく、ご心配を申し上げます。公明党との連立協議も順調ではないようですし。老婆心ながら(爺ですけど)。
総裁選でかりに進次郎氏が勝ったとしても、個人的には「よく、こういう人を選ぶよなぁ」と思うので、どっちにしても同じことなのですが、しかし、高市氏には、靖国ほか、石破前総裁の時にはあまり気にしないでよかった問題がいろいろあります。今のところ多数派を形成するべく、連立の組み直しの候補として上がっているのは国民民主党ですが、万一これに参政党も加わるとなると、ちょっとこれは一大事です。というのは、参政党は秋の臨時国会でスパイ防止法案を提案する構えを見せているからです。
普通の国民が「スパイ」という語からイメージする「スパイ」と参政党(の神谷代表)が言う「スパイ」は同じではないようです。参院選中に神谷代表は「極端な思想の人たちは(公務員を)辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」「極左の考え方を持った人たちが浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っていると思う」と述べています。「ディープステイト(闇の政府 陰謀集団に乗っ取られた政府)」という語を使いはしませんが、中身は今の米国で前政権(民主党)の関係者を「極左」と罵り、政府機関からの排除を煽るトランプ大統領を彷彿とさせます。
「極端な思想の公務員、洗い出し辞めさせる」 参政・神谷代表が発言 | 毎日新聞
しかしですねぇ、だいたい「極左」って何なんですかね。社会主義者とかマルクス主義者? 実際は党派色などいっさいない公務員が大・大多数だと思いますけど。それに「極左」はダメだけど「極右」はいいんですかね。多くの人は政治的に「中立」だし、公務員も「政治的中立」じゃないといけないわけですから、批判するんなら、ちゃんと両方とも批判してくれないと。
雑誌『地平』11月号に弁護士の海渡(かいど)雄一さんの記事があります。スパイ防止法の問題点がまとめられた、きわめて有益な内容ですが、海渡さんも、神谷代表の発言を危惧して、こう書いています。
■セキュリティ・クリアランスとレッド・パージ
新たなスパイ防止法では、参政党の神谷宗幣氏の言動から、公務員や民間企業社員に対するセキュリティ・クリアランスの審査において、日本国に対する忠誠度を審査し、忠誠度の足りないものは組織から排除するような制度も想定されているかもしれない。
現在、特定秘密保護法、経済安保情報秘密保護法にもとづいて公務員と民間企業社員に対して実施されている適性評価=セキュリティ・クリアランスにおいては、その運用基準において政治的な思想信条、労働組合活動歴などの調査などはしないし、できないとされている。神谷氏の想定するような制度は、日本国憲法の保障する思想・良心の自由の保障と正面から衝突する。
(海渡「スパイ防止法批判」、『地平』・11月号、28-29頁)
決して楽観しているわけではありませんが、現行の法理(立てつけ)から言って、神谷代表の思うかたちにはならないでしょうし、そんなことは許してはならないと思います。しかし、経済安保がらみの「スパイ」については楽観できません。拡大解釈を重ねられて網を広げられる危険性はこちらの方が大です。
スパイ防止法は1985年、ときの中曽根・自民党内閣で提案され、野党だけでなく身内の自民党内からも反対の声が上がり、審議未了廃案となりましたが、28年後の2013年、第二次安倍内閣で成立した特定秘密保護法には、85年に廃案となった自民党のスパイ防止法案の大半が盛り込まれているとのことです。海渡さんの記事の続きを引用します。
……(85年のスパイ防止法案と13年の特定秘密保護法の)両者の違いを見つけるとすれば、特定秘密保護法の罰則は最高刑期10年であるのに対し、自民党のスパイ防止法案は「外国通報目的」の場合に死刑と無期であり、著しい厳罰が規定されていた。特定秘密保護法に含まれていない規定は、この規定である。新たなスパイ防止法では、防衛関係だけでなく、経済安保に関する情報についても外国通報目的の漏洩が厳罰化される可能性がある。
この場合、「外国」の定義が問題となる。具体的に言えば、アメリカへの「漏洩」は許され、中国には同じ行為が厳罰の対象となるということを、国際協調主義を原則とする現憲法の下、どのような法理で正当化できるのかが問われることになろう。……
……特定秘密保護法の初の適用事件では、何が特定秘密であったのか、説明を受けた自衛隊の退職幹部もわからなかったという。中国における情勢に関連する情報だとメディアにはリークされている。
特定秘密保護法においても、「何が秘密かも秘密」という状況において公務員などの萎縮が進んだことが指摘されている。さらに外交関係や国際情勢に関する議論にまで秘密のベールがかぶせられるようになれば、中国などとの緊張緩和のために何をすればよいのかといったパブリックな討論すら難しくなってしまうことが予測される。好戦的なムードが高まる中、情報も市民に共有されないのでは、平和構築と対話を説くことに大変な勇気が必要となるだろう。
冤罪であったことが明らかとなった大川原化工機事件は、公安警察が経済安保法の制定に前のめりになる中で立件をあせり、法解釈をゆがめ、証拠を捏造までして作り上げたものだった。しかし、経済安保情報秘密保護法が制定された今日、大川原化工機事件のような事件については、冤罪を晴らすための取り組みそのものが困難になっていくかもしれない。秘密強化が冤罪を生みだすこと、そしてその冤罪を晴らすための弁護活動にも大きな障壁となること、この教訓を忘れてはならない。
(海渡、同、27-28頁)
まだ総理大臣に決まったわけではありませんが、高市新政権が発足した場合、巷では新政権に物価高などへの対策や積極財政に期待する声が大きいようです。もし、安倍政治をトレースするとしたら、世間の関心を経済に向けているあいだに、いろいろと国家主義的な制度改定に手を伸ばしてくる可能性がありますし、その前にまた総選挙を打ってくるかもしれません。飴だけしゃぶらされて鞭うたれないよう、スタート前から警戒しておかないと。
<追記事>
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