ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

教職員の不祥事に思うこと

 栃木県の県立高校教員が校内に小型カメラを多数設置して盗撮していた疑いで逮捕され、昨日から県教育委員会は県内のすべての県立高校(県立中学校を含む)に校内の緊急点検を行うよう指示したというニュースを見ました。今週から各校で教室や更衣室などの点検が進められ、明日22日には完了する見込みとのこと。現場の教職員の「嘆き」が聞こえてきそうです。
栃木 県立学校で盗撮の疑い 逮捕の教諭「スリルがあった」供述 | NHK | 事件
高校教諭の盗撮事件受け 不審カメラなど調べる一斉点検 栃木|NHK 首都圏のニュース

 宇都宮市内のある高校の校長は「生徒たちが安心して学べる環境を確保するため、引き続き点検を行う」とのこと。学校管理職として何とかしないといけないと思う気持ちはよくわかります。ただ、点検すれば不安が払拭されるわけでもないでしょうし、新学期が始まっても点検を怠れないとすれば、この「点検業務」は誰が担うのか。もちろん、校長さんは空いている時間、校内を見回ることはできるかもしれませんが、それですべてがチェック可能ではないでしょうから、おそらくは、教職員も授業開始前、あるいは空き時間に教室内・施設内を「点検」するとか、「マニュアル」化するところが出てくるのではないかと想像します。実際、学校に不審者が入れば、教職員は警備員のごとく校門前に立つし、生徒が近くの公園や大型店舗で騒ぎを起こせば、警察官のように不定期に巡回するし……。教職員の業務が増えていく(加算されていく)パターンに、これも当てはまるのかどうか。重労働ではないにしても、創造的でない分、疲労(徒労)を覚える感じです。

 その一方で、文部科学省はおとといの会合(教師を取り巻く環境整備特別部会=第2回)で、学校と教師が担う業務とそうでない業務の分類(線引き)について検討したそうです。たとえば、子どもたちの登下校時の通学路における日常的な見守りや、学校徴収金の徴収・管理、保護者からの過剰な苦情や不当な要求は「学校以外が担うべき業務」に分類される(べきな)んだそうです。人も金も不足する公立学校で、これは本当にできるのか、やる気なのか、というのが率直な感想です。
保護者からの過剰な苦情・不当要求「学校以外が担う」文科省が改訂案 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」

 授業をするのが教員の本務だとすれば、教室や更衣室などに盗撮カメラがないかどうかの点検(保安)だって、「理屈」上は「学校以外が担うべき業務」に分類してもいい感じがします。いったい誰がやるのか。「学校以外」だとしたら、校長も外れます(報告は受けるにしても)。ひょっとして警備会社を入れるのか。公立学校にそんな経済的裏付けはないでしょうから、「教師以外が積極的に参画すべき業務」ということにして、地域住民の支援を仰ぐのだろうか……云々。学校現場で、もしこんな話になったら、職員から乾いた笑いが出てきそうです。とどのつまりは、教職員がやるしかないというところに落着するでしょう。

 部活動にも似たところがあります。表を見ると、「教師以外が積極的に参画すべき業務=学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」に部活動が含まれています。部活動に地域の指導者がかかわる話(地域移行論)が出てから、数年がたちますが、現状でどの程度進んでいるのか。統計的にわかりませんが、概してまだまだ「絵に描いた餅」の域を越え出ていない印象です。この「地域移行」の観点からすると、部活動は、登下校時の見守りや、学校徴収金の徴収・管理と同様、本来「教師が担う必要のない業務」ということになるでしょう。そう「断言」できないのは、現実問題、部活動には教師が担わざるを得ない面が少なくないからでしょう。「担わざるを得ない面」どころか、放課後部活動が始まると生き生きしてくる「部活=命」の先生が中高には大勢います。むかし新卒のある若い先生に懇親会で、「どうして先生になろうと思ったのですか?」と尋ねたら、「部活の指導がしたくて」と答えました(確かバスケットボールだったと思いますが)。もし、部活動を「教師が担う必要のない業務」と言われたら、彼ら彼女らは存在を否定された気持ちになるでしょう。他方、部活は教師の本務ではないと思っている先生方からすると、休日もなく駆り出されてエネルギーを消耗するのは耐えられないという思いが強いはずです。あっちを立てればこちらが立たずですが、おそらく部活動の位置づけはしばらくは(いや、まだまだ)このままでしょう。つまりは、部活動の地域移行も、全体としては「絵に描いた餅」、「机上の空論」なのです。

 同じく昨晩、文部科学省は、来年度から公立中学校で35人学級を段階的に実現するため、教員の定数を5,800人増やすのに必要な費用を、来年度予算案の概算要求に盛り込む方針を固めたというニュースも目にしました。
文部科学省 公立中学校35人学級実現へ 教員定数5800人増 来年度予算案の概算要求に盛り込む方針 | NHK | 文部科学省

 今、学校現場の教員不足は深刻です。こんな状況で教員の数を想定どおりに増やせるのか。やりたければ誰でもいいってわけにはいきませんし。一縷の希望は、ブラックとか不人気とか評判がよくない中で、昔ほどではないにしても、子どもたちの「将来なりたい職業」の中に教員が顔を出している調査があることでしょうか(類似の調査がいくつかあるので定かではありませんが)。
中高生のなりたい職業ランキング、1位は?【1000人調査】 | マイナビニュース
子どもの「なりたい職業」2025年版が発表! YouTuber・野球選手を抑えた1位、そして 初登場の“挑戦的な仕事“とは?|のびのび子育て応援サイト【nobico/のびこ】

 教職にあえて就きたい、学校でがんばってみたいと思う子どもたちがいるのは、社会のありかたとしては「健全」なのかもしれません。とはいえ、連日の不祥事報道で「慣れっこ」になってしまいましたが、子どもたちを相手に「健全さ」を保って仕事を続けられない教職員が続出しています。潜在する「問題教員」と「問題行動」を見つけ出し、完全に封じ込める――できればそう願いたいですけれど、特効策は実際上なかなか見出せないと思います。
 盗撮で逮捕された教員がどんな人間で、教職に就いてからどんな「遍歴」をたどり、何をきっかけにこのような「事件」を起こすに至ったのか、社会とのつながりを含めて、細かい検証は専門家に委ねるとして、小生のような元職のロートルに言えることは、たとえば、学校と教師が担う業務と担う必要のない業務の線引きをするというのなら、文科省有言実行で是非それを実現させてほしいということ。調整手当10%のときもそうでしたが、先生方は給料を上げてほしいと言っているわけではなく、まず人員を増やしてほしい、休めるようにしてほしいと言っていたのに、結局(財務省等に)押し切られてしまう。学校現場で働く教職員を「失望」させないでほしいのです。
 もちろん、文教政策に「失望」したから盗撮をした(していい)という話(説明)は成り立ちません。当たり前のことです。けれど、そんな愚かな「逃げ口上」が入り込む余地などないことは、教育機関も、関係者も、当面する仕事一つひとつに真摯に向き合っているかどうかで示すほかないようにも思えるのです。

 今朝の新聞にも千葉県内の教諭がわいせつ行為で懲戒免職処分になった記事があり、ガックリしましたが、被害を被るのは、文科省でも、県教委でも、教職員でもないはずです。そこが起点にならないと。
未成年わいせつ、32歳教諭を免職 県教委 /千葉 | 毎日新聞



 
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