ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

広陵高校の出場辞退を知って

 甲子園で熱戦が続くさなか、広陵高校が大会途中で出場辞退することとなりました。野球部内の暴力事件に関する保護者との行き違いに端を発したSNS上の批判が誹謗中傷の域に達し、影響が野球部員はもとより一般生徒や職員ほかにまで及ぶ状況を危惧したということのようです。これまでの学校や部の対応を「おかしい」と思う人は少なくないのでしょうけれど、このような事態に至って「満足」している人はどれほどいるのでしょうか。もし、「清々した」と思う人がいたら、なぜそうなのか、自分に問うてみる必要があると思います。

 昨日の毎日新聞で日曜の連載コラム「新・心のサプリ」で医師の海原純子さんが、連日の暑さと諸事件の相関について書いていました。酷暑でどの顔も眉間にしわを寄せている様子を毎日見ていると、気温が高くなると攻撃性が増すとか、気温の高さと犯罪発生率には、確かに関連がありそうな感じがしてきます。しかし、それは話の「枕」であって、海原さんの真意というか、本当に気になっていたことは、その続きであったように思うのです。以下、引用です。
新・心のサプリ:戦後80年=海原純子 | 毎日新聞

……気温が高くなると攻撃性が増す、とも言われているがそれは気温が高いことによる心拍数の変化などの生理的な影響もあるとされている。
 普段からカッとしやすい人はますます怒りっぽくなるし、不満をためている人も怒りが爆発しやすくなる。怒りの閾値が低下しているから普段は穏やかな人もこの夏は注意した方がよさそうだ。
 もうひとつ気になるのは言葉の暴力だ。SNSで弁護士出身の国会議員が石破首相を、「醜く奇妙な生き物」と発言して問題になっているが、こうした発言の閾値も低くなっているように思える。
 こうした発言は暑さのせいというより、アメリカの大統領が時として発する過激で攻撃的ともいえるSNSでの発言の影響なのかもしれない。
 気分は伝染する、という研究がある。怒りや攻撃的な感情は人から人へ伝播していく。影響力を強く持つ人たちが感情を制御することができずに怒りの閾値を低下させ、攻撃的な発言をすれば社会的な影響は大きいはずだ。
…………
 今年は戦後80年。「戦争をしていないから平和だ」といえないような気もする今の日本。それは「病気ではないから元気だ」といえないことと似ているように思える。確かに戦争はしていないが、自分と違う考えの人を否定したり誹謗中傷したり外国人を差別して排除しようとしたりするエネルギーがくすぶっている。心の中の戦争をなくさないと戦争はなくならない。……

 広陵高校の問題に戻れば、識者や専門家はSNS上で真偽不明の情報を拡散させたり個人を攻撃したりする悪質な投稿に警鐘を鳴らしています。弁護士は、こう言っています。8月11日(月)付毎日新聞2面の記事より。
過激な投稿の前に「仕事失うリスク」認識を 広陵の暴力事案巡り | 毎日新聞

……SNSには真偽が不明な段階にもかかわらず加害者を断定し、実名を挙げ個人やチームを攻撃する過激な投稿が目立った。
 学校問題やいじめ問題に詳しい高橋知典弁護士(第二東京弁護士会)は「信ぴょう性や真偽を確認しないまま情報を拡散することは、名誉毀損のリスクをはらみ、非常に危険が伴う」と警鐘を鳴らす。
 今回は真偽不明の情報が出回り、中には悪意を持って加工したような画像もある。高橋弁護士は「拡散した情報が誤りだった場合、自らが取り締まりの対象になり、仕事や生活を失うリスクがある。それほどの覚悟があるのか。慎重に真偽を確認したのか。情報を広げる前に、自分に問うてほしい」と厳しく指摘する。……

 しかし、私的に言えば、「取り締まりの対象になるから……云々(逆に言えば、対象にならなければやっていい)」という(損得)だけでなく、自身のその「正義感」の行き着く先をも想像すべきと思います。

 同じ今日の毎日新聞の1面トップは、南樺太(サハリン)で起こった日本人住民による朝鮮人虐殺の記事でした。詳細は省きます。
戦時下ですから:終戦の8~9月、南樺太で朝鮮人の虐殺が多発 旧ソ連の新資料で判明 | 毎日新聞

 今回の広陵高校の出場辞退を、よもやと思いますが、SNSによる「成功体験」の一種のようにとらえる人がいたとすれば、そういう人は他でまた同じことをする確率が高いと思います。
 もちろん「直接」手を下すような人間は自分とは別だと。でも、その背後には大勢の「後ろ盾」が存在します。無記名の加担者、匿名のサポーター、それゆえに無責任で痛みを感じないで済む人たち――自分がその一人になっていないかどうかと、考えられない人が、最終的に、ある状況、ある局面でどういうふるまいをするか(強いられるか)、「過去」が教えてくれていると思います。
戦時下ですから:「日本人のくせに臆病者と」 朝鮮人27人を殺した優しかった兄たち | 毎日新聞

……朝鮮人は命乞いをしたが、(鎌田友子さんの)叔父は年長者に「殺せ」と命じられ、短剣で殺害した。当局の取り調べにこう供述している。
<参加しなかったら私を日本人のくせに臆病者で裏切り者と決めつけるでしょう。そして朝鮮人びいきだと受け止めるに違いないと思った>……

 もちろん、想像すれば「現在」だって、そこらじゅうに似たような話はあるとわかります。これは大げさでしょうか。そう願いたいものです。




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