ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

日本の子どもをめぐる報道

 連日子どもが絡む陰惨な事件報道が続いて、気が滅入ります。被害者になっても、加害者になっても。
 千葉市で中学生が起こした殺人事件の現場がテレビに映ると、何かむかし普通に通っていた住宅街の風景とよく似ているように感じられて、余計に他人事に思えなくなります。
逮捕の中3「少年院に入れば家を出られる」 千葉女性殺害 | 毎日新聞
「自分より弱い人狙った」中3容疑者 千葉84歳女性殺害 | 毎日新聞

 このタイミングで、偶然でしょうが、昨日の毎日新聞に「こどもの自死(自殺)」についての記事がありました(以後「自殺」で通します)。それによれば、日本の自殺者数は、コロナ禍に一時的に増えましたが、全体としては減少傾向で、昨年2024年では2万320人、前年比1,517人の減少となり、統計を取り始めてから2番目に少なかったそうです。ところが、小中高生は529人で、前年から16人増。コロナ前から増加傾向で、特に女子の自殺が増えて、去年は男子の数を上回ったとのことです。記事の冒頭で、記者は「日本は子どもにとって生きることが厳しい社会になっているのか」と問いかけています。

 命を奪う行為が他者に向くか自分に向くかの違いは大きいですが、子どもが人を殺すことと自ら命を絶つことの根っこには何か同じものがあるような感じをもっています。その意味で、子どもの自殺に社会としてどう向きあうかは、子どもの殺人事件への向き合い方に通じるのではないかと思っています。

 記事には識者のコメントがあります。その一人、キッズドア理事長の渡辺由美子さんは、「日本はこどもが命を絶ってしまうことを是認する社会になっているのではないかと思う」と述べていますが、これはかなり厳しい意見です。一部引用です。
論点:こどもの自死 | 毎日新聞

……こどもが困っていることを具体的に解決していく姿勢を社会全体でみせなければなりません。こどもは声をあげているのに社会がその声に向かい合っていません。不合理な校則に声をあげても「それは変えられません」となります。今の社会は、こどもの勇気をくじくようなことを、大人がよってたかってやっています。そのこともこどもが命を絶つ理由の一つではないでしょうか。
 こどもの環境について、とても厳しい態度があります。おカネなどの問題があれば高校を卒業できなくても仕方がないと考える人が3割もいます(2022年の調査)。こどもは親を選んで生まれるわけではないのに、こどもに自己責任を押しつけています。格差をどう埋めるかは社会がやるべきことなのに、社会は動こうとしません。だから、つらいことがあった時に、もうだめだと思って命を絶ってしまうのではないかと思います。
 ベビーカーを押していると、蹴られ、文句を言われます。子育てをしている人はみな、一日中何回も「すみません」と言わなければなりません。こどもだからいろいろなことをするのは当たり前なのですが、許されません。こどもにひどいことをした人には厳しく対処すべきなのに、ベビーカーを蹴るような行為が放置されています。
 こどものことを真剣にとらないからです。こども自身もそのことをみているから、自分は社会のなかで、「すみません」と言わなければならない邪魔な存在だと思うようになります。こどもが自分を肯定し、自分は愛されていると感じることが難しくなります。
……<中略>……
 身近なところでこどもが命を絶つことは、こどもにとっては不安なことです。みんなでなんとかしようということをやらないと、死んでもこんな感じなんだ、とこどもは思います。社会の冷たさを感じるのです。自殺は社会のゆがみがにじみ出ていることです。ですから、どうにかしなければならないのはこどもではありません。社会のほうです。

 やや思い込み(思い入れ)が目立つ印象です。たとえば、「おカネなどの問題があれば高校を卒業できなくても仕方がないと考える人が3割」というのは確かに多いと思いますが、逆に言えば、7割の人=多数派はそうは思っていないわけで、これで社会は格差を埋める努力をせず、子ども(と家庭など)に自己責任を押しつけて動こうとしないという下りは、雑な行論に感じます。渡辺さんの言うように、一皮めくれば、褒められない事例はたくさんありますが、少なくともこの日本社会は「こどもが命を絶ってしまうことを是認する社会」には、現状なっていないと思います。もし、そうなら、子ども食堂で子どもに温かいご飯を食べさせてあげようとする人や、フードバンクに食糧を提供しようとする人は出てこないでしょう。どこを見るか、見ないかで評価は変わってきます。

 とはいえ、何とかしなければならないのは、子どもではなく、まず、社会の方だというのは、渡辺さんの言うとおりと思います。社会学という学問がありますが、事件や事故を個人に起因するものとは考えないのが前提だそうです。まさしくこの社会学の分析により、子どもの自殺(殺人)の原因を究明し(原因に迫り)、社会として必要な手立てを考えていくことはとても重要です。特に女子の割合が急増している点は、個人的に多いに気になります。専門家の詳しい分析を待ちたい思いです。
 ただし、その一方、こうした分析ではおそらく計りきれないのが、個人の事情です。「十人十色」という表現はこの場合適切ではありませんが、10個の事例があったら、必ず10個の事情があるでしょう。社会学による類型パターンにうまくはまらずに、そこから剥落したり、漏れ出たりすること、あるいは、それゆえに軽視されかねないこと、そこにも目を向けなければいけないように思います(そこにこそ本質的問題があるかもしれません)。

 いずれにしても、個々の問題はそんなに単純ではないし、単純に考えてもいけないはずですが、メディアの報道や世間の反応には「パターン」にあてはめて理解・納得しようとする傾向が見え隠れします。千葉市の生徒の場合は「家庭状況が複雑だった」との報道がありましたが、「複雑な家庭状況」なら事件を起こすと言えないのは自明のことです。そもそも「複雑さ」の具体的な中身が問題です。

 そう言えば、同じく昨日5月14日にユニセフ(国連児童基金)のイノチェンティ研究所が、OECDおよびEU諸国における「子供の幸福に関するランキング」というのを発表しました。パンデミックの前後で、全体として先進国の子どもたちの学力、精神的幸福度、身体的健康が著しく低下した」とのことです。こういうのも、直接関係する人はともかく、日本の順位が上がった、下がったで、一喜一憂する話ではないのでしょう。
日本の子供、心の健康が下位低迷 ユニセフ「幸福度」調査(共同通信) - Yahoo!ニュース

 むしろ、他国との比較では、日本の子どもは恵まれ過ぎているくらいで、それゆえに(精神的な面での)「幸福」を享受できてよいはずの日本の子どもたちの中に、そうでない子どもが多くいるという事実を改めて印象づけられます。幸福感を精神的とか物質的とかに分けて考えることには、異議というか、しっくりこない面があるのですが、それは機会を改めて……。
「どう防ぐ 子どもの自殺」⑤ ~子どもの幸福度を高めるには~|読むらじる。|NHKラジオ らじる★らじる



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