今朝の毎日新聞のトップは、フランスのE.トッド氏のインタヴュー記事でした。だいたい『西洋の敗北』(文藝春秋)に書いてあったとおりの話です。彼は、ウクライナとロシアとの戦争で、米国と欧州は支援に失敗しているのではなく、「敗北(した)」と言っています。以下、引用です。
ポピュリズムの果てに エマニュエル・トッド氏が見る米国の変質 | 毎日新聞
なぜ米欧は「敗北」したか
ウクライナの早期停戦を掲げるトランプ米政権の誕生は、ウクライナを支援してきた米欧の敗北の結果と言える。米国防総省はこの「敗北」の意味を理解している。原因の一つは、米国がモノづくりの力を失い、工業力が低下したことだ。
米国はかつて、原油や天然ガスなどの天然資源を輸出して財を輸入するロシアを「核ミサイルをもった巨大なガソリンスタンド」と揶揄(やゆ)した。だが米国こそが今、そうなりつつある。エネルギー産業やIT、金融などのサービス業が栄える一方、工業が衰退し、エンジニアを目指す学生の数も減っている。ウクライナの戦争は、米国にもはや砲弾を供給する能力すらないことを明らかにした。
もう一つの敗因は対露経済制裁の不発だ。なぜロシアは米欧の経済制裁下で、3年以上持ちこたえられているのか。端的に言うと、制裁に参加せず、ロシアを支援する国があるからだ。ロシアから中国やインドなどへ原油を運ぶ闇タンカー群「影の船団」が存在し、電子機器はカザフスタンなどを経由してロシアに届く。
こうした国々は米国を中心とする秩序を歓迎していない。米欧は自分たちこそが正義であるというナルシシズムにふけっているが、米国が主導してきたグローバリゼーションは、世界の多くの国を搾取することで成り立ってきた。……トランプ氏は米国が世界各国・地域から搾取されていると主張する。欧州や日本、韓国、台湾などが米国に寄生するような不誠実なやり方で自国製品を米国に輸出していると訴える。だが、トランプ氏のいう「寄生する国・地域」が、米国を豊かにしているという現実には目を向けていない。
……
かつて米国は世界で最先端を行く国だった。産業力や大学教育、文化などさまざまな分野で、欧州も日本もロシアも、全ての国が米国に追いつくことを目指した。
世界の模範となってきた国が、産業面でも道徳面でも崩壊しようとしている。1900年ごろには技術力で世界最先端だったドイツが、ナチズムとともに45年に崩壊したのに続き、米欧では2回目の経験だ。
……
かつてWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)が率いた米国は、厳格なモラルと規律、社会的な責任感を特徴とした。だが、トランプ政権では、モラルは見る影もない。私は著書「西洋の敗北」などで米国のモラルゼロ、宗教ゼロを指摘してきたが、第2次トランプ政権ではゼロからマイナスの領域に入った。
米国は明らかに変質した。……
米国が厳格なモラルと規律、社会的な責任感を特徴とする国であったかどうかは、「かつて」をいつの時点に設定するかで変わってくるでしょう。先住民や黒人への対応については、(個々の人間の良心はさておき)最初から厳格なモラルがあったのかどうかも疑わしいし、それはある層においては、過去から「一貫」していたと見ることもできます。そのはてがトランプ本人であり、懲りもせず、もう一度彼を大統領に押し上げた米国民の「一般意志」だと思います。
トッド氏は結びにこう述べていますが、この部分は断じて受け入れがたい。
……断片化した世界では、各国は自力で自国を守らなければならない。特に米国の政策は、かつてのような政権交代によってではなく、トランプ氏の頭の中で変わるため、予測が難しい。米国が不安定で信用できない相手となると中、日本は将来の核武装を視野に入れるなど、防衛体制を改めなければならないだろう。
文藝春秋がトッドの言説を持ち上げるのは、この「核武装論」があるからでしょう。しかし、貿易(関税)戦争に勝者がないのと同様、核戦争にも勝者はないというべきです。百歩譲って、かりに核は抑止力のための備えであって、実際に使用するものではないとしても、被ばく体験をもつわが国は核武装をしてはいけない国です(別の機会に書こうと思いますが、これは関連産業=「死の商人」を喜ばせるだけでしょう)。別の選択肢を考えるべきです。
