お米の値段が下がりません。スーパーのコメ価格は15週連続で最高値を更新したといいます。農林水産省がおととい公表した、全国のスーパーで販売されたコメ5㌔の平均販売価格は、去年の同時期より2倍以上も高い4,217円だそうで、一年前には想像できなかった超高値です。政府は3月から備蓄米の放出を始めましたが、地域較差はあるものの、全体として値段が下がったと実感している消費者は少ないようです。韓国に旅行した日本の人が米を買って帰るニュースをTVで見ると、関税や検疫、面倒な手続きを考慮するとしても韓国のお米の方が断然安いわけで、そりゃあそうする人もいるよと思います。
備蓄米を放出しても米の価格がなかなか下がらない理由は、そもそも備蓄米を取引できる卸売り業者が限定されている(というよりほとんどJA=農協だけ)との指摘を受けた農水省は、備蓄米が行き渡りやすいよう、禁じていたはずの卸売業者同士の売買を認めることにしたそうですが、備蓄米を手に入れた卸売業者(=JA)が別の卸売業者にマージン抜きで米を売り渡すことはありえないので、常識的に考えれば、これだと米価は下がらないと予想されますが、NHKは林官房長官のコメントをそのまま流して、「価格の安定につながるか注目されます」などと報道しています。「価格が下がることにつながるか」ではなく「価格の安定につながるか」とは、要するに高値で安定するかどうかってことですかね? 庶民の願いとはズレまくっていると思います。
備蓄米 3回目の入札開始 卸売業者どうしの売買可能に | NHK | 農業
農水省は本気で米の値段を下げる気がないのではないかという疑念は、前にもブログで書いたとおりですが、今回の措置でこの疑念はほぼ確信に変わりました。いや、むしろ政府のやる気の有無を問題にした点で的外れであって、これは国民の食糧問題に便乗した、自民政権お得意の特定業者の優遇の一環です。そもそも本気で米の価格を下げたいんだったら、1年以内に同量を買い戻すという条件を付けること自体がナンセンスでしょう。そんな条件をクリアできる業者は極々限られるわけで、最初からそういう意図のもとに(少なくとも含意されて)制度設計がなされたというべきでした。
このあいだ昼のテレ朝「ワイド!スクランブル」にも出演していましたが、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁さんは、農水省の備蓄米放出に米価を下げないカラクリが巧妙に用意されていると述べています。一部引用をお許しください。
備蓄米が消えていく…「コメの値段は下がらない」備蓄米の9割を"国内屈指の利益団体"に流す農水省の愚策 | キヤノングローバル戦略研究所
JAの「仕入れ値」と「売値」
一つは、消費者に近い卸売業者や大手スーパーではなく、米価を低下させたくないJA農協(全農)に備蓄米を売り渡したことである。その量は、放出された備蓄米の9割を超える。
米価は需要と供給で決まる。備蓄米を放出しても、その分JA農協が卸売業者への販売を減らせば、市場への供給量は増えない。また、JA農協が備蓄米を落札した値段は60キログラム当たり2万1000円である。これより安く売ると損失を被るので、これ以上の価格で卸売業者に販売する。
もう一つは、1年後に買い戻すという前代未聞の条件を設定したことである。米価の上昇によって、農家は25年産の主食用米の作付けを増加させることが予想される。しかし、7月まで売り渡す予定の備蓄米61万トンと同量を市場から買い上げ隔離すれば、1年後も米価は下がらない。そもそも、放出して買い戻すのであれば、市場への供給量は増えない。備蓄米の放出には、米価を下げないという農水省の意図が隠されているのだ。
卸売業者がスーパーや小売店に販売するコメは主としてJA農協から仕入れている。その時の価格が「相対価格」と言われるもので、現在60キログラム当たり2万6000円まで高騰している。……
価格を操作しているのはJA農協
卸売業者は相対価格をベースに自らのマージンを加えてスーパーや小売店に販売する。
相対価格が下がらなければ、小売価格も下がらない。相対価格を操作できるのはJA農協である。その市場シェアは減少したとはいえ5割を占める。この独占事業体は、在庫量を調整(増や)して市場への流通量をコントロールする(減少させる)ことで、相対価格を高く維持できる。
農水省は、JA農協以外の流通ルートが増えたから米価が上昇していると説明しているが、これは全くの虚偽である。米価を高く操作してきたのは、JA農協そのものである。
その手段として利用してきたのが在庫調整だった。
JA農協は米価を操作したいために、2005年には全国米穀取引・価格形成センターを利用して架空取引によって米価を高く設定する「全農あきた事件」(※注)を起こしたし、2011年には価格を操作しやすい相対取引に移行するために同センターへの上場を減少し廃止に追い込んでいる。また、農家にとってはリスクヘッジの機能を持つ先物取引に反対してきた。公正な価格が形成されると価格操作ができにくくなるからである。
農水省の主張は経済学的にもナンセンスである。JA農協という独占事業体の市場占有度(独占度)を高めれば、価格は下がると言っているのである。他の事業者の市場参入を増やさなければ、米価は下がらない。さまざまな事業者がコメの集荷に参入することは、コメ市場をより競争的なものとし、JA農協の独占的な価格形成を防止する効果を持つ。
※【全農あきた事件】2005年1月に発覚した全国農業協同組合連合会秋田県本部(全農あきた)の「米横流し事件」と「米架空取引事件」。全農あきたの子会社のパール秋田が、取引先の経営不振により2億5100万円が不良債権化した。パール秋田は赤字に陥ることを防ぐため、農家から販売目的で預かっていたコメを横流しして簿外販売し、取引先から債務弁済があったように装い利益を計上した。また、全国米穀取引・価格形成センターにおいて、全農あきたはパール秋田等との間で架空取引を行い、パール秋田等に高値で落札させ、米価を高く操作した。
追加放出でやむなく20%は下げる
ただし、JA農協もある程度相対価格を下げなければ、政府から何のために備蓄米を放出したのかという批判を受ける。しかし、備蓄米を2万1000円で買っているので、それ以下に下げると損をする。
つまり、現在の相対価格2万6000円を2万1000円に20%減少させることが限度となる。同じ割合で小売価格が低下すると仮定すると、それは3400円となる。
今回の備蓄米放出には、JA農協救済というもう一つのカラクリがある。
追加放出はJA農協の在庫積み増しが目的
7月まで10万トンずつ放出すると、農水省は合計して61万トンの備蓄米を放出することになる。
今回JA農協の集荷量が減少したことを、農水省は意図的に問題とした。農水省自身の調査で否定されたが、様々な業者が集荷に参入したので、米価がつり上がったという虚偽の主張を展開した。
既に放出した21万トンの根拠は、JA農協と卸売業者を合わせた民間在庫量が減った40万トンを補填すると言うのではなく、JA農協の集荷量が21万トン減ったからだというものだった。この時点で、JA農協救済という疑いが持たれるものだった。米価維持のためJA農協が在庫調整すれば、61万トンのかなりの部分は市場への供給量の増加ではなく、JA農協の在庫積み増しとなる。JA農協の独占力が向上し、卸売業者との相対価格交渉に有利に働く。
さらに、農水省は1年後に61万トンを買い戻す。
これだけの量を市場から買い上げ隔離すれば、農家が25年産の生産を相当増やしたとしても米価は下がらない。JA農協は米価操作をやりやすくなる。……
<以下略>
韓国の旅行者が米を買って帰るシーンをTVで見たら、価格の安い海外産の米をもっと輸入すべきだという声が当然出て来るでしょうし、もっと国内の米の生産量を増やせないのか、という声だって上がるでしょう。でも、日本国内の水田は休耕田や耕作放棄地があちこちに拡がっているのです。かつて米を作る能力が十分すぎるほどあったのに、それをそぎ落とした挙げ句に、輸入に頼らないと国民の主食が確保できないような国にならんとしています。それを推し進めてきた農水省は、今また、特定業者の利益を守るための(としか思えない)政策を遂行せんとしています。山下さんは「身から出た錆」と書いていますが、それはJAだけでなく、私たち自身の「錆」でもあると受け止めています。
