差別主義者の中には「多様性社会なんだから自分の考え方も一つの意見として尊重されてしかるべき」といった自己正当化をする者がいますが、属性など、当人の心がけや努力によって変更できないことをもって、不当な攻撃や侵害を与える行為や考え方は、そもそも「多様性」の一つにカウントなどされていません。政治家ならそれ故に選挙で落とすことが可能ですが、まさかの事態で当選をさせてしまうとなると、民意によって差別主義にお墨付きが与えられたなどと政治家本人と支持者たちが勘違いするので厄介です。
米国のトランプ大統領がまさにこれです。彼は就任以降、バイデン前大統領時代に進められた政策を次々とひっくり返していますが、DEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包摂性)施策の廃止もそのひとつで、メタやアマゾン、マクドナルドなど、大企業に見直しを求め、実際に女性の幹部登用目標や採用を変更した例もあるようです。周回遅れの(はずの)日本にもその影響が出るのかどうか。
今朝の毎日新聞に松岡宗嗣(fair代表理事)さんの次のようなコメントがありました。
論点:「多様性」の行方 | 毎日新聞
トランプ大統領のトランスジェンダーやノンバイナリー(性自認が男女どちらでもない)の人々の排除は苛烈だ。軍やスポーツからの排除に加え、性別移行のための医療への連邦政府の補助を停止する大統領令にも署名しており、特に未成年者が対象にされていることを危惧している。
トランスジェンダー女性だと公表している米国の俳優は旅券の再交付の際、性別欄の「女性」を「男性」に変更されてしまった。AP通信は、国防総省が公式サイトなどから削除する写真の候補に、広島に原爆を投下したB29爆撃機が含まれると報じた。機名の「エノラ・ゲイ」の「ゲイ」を男性同性愛者と誤認したためだという。……
「反DEI」政策に基づいて削除された性的マイノリティー関連の政府系のページは約350にも上るという。
他にも連邦政府の書類から「偏見」「気候危機」「障害」「差別」「メンタルヘルス」「マイノリティー」「抑圧」「特権」「包摂性」などの言葉が削除されているそうだ。これは現代の「焚書」である。
日本にも影響が及ぶだろう。第一に、「国内のSNS(交流サイト)では既にトランプ氏の「反DEI」をもてはやす動きがある。主に男性など多数派の「剥奪感」を背景に「行き過ぎた多様性」「ポリコレ疲れ」などの言説や「トランス排除」の動きは日本でも広まっており、トランプ氏に喝采する空気は既にある。
第二に、報道の問題。トランプ氏による「反DEI」や「トランス排除」が事実関係のみ短文で報じられる機会が増えている。結果、それを正当と受け止める人も増えるのではないか。「性別は男と女しかいない」というトランプ発言を報じ、その問題点や背景を指摘しない報道は「反DEI」に加担しかねない。
第三に教育の問題。日本の学校では差別を社会構造の問題として教えず、権利を守るという視点が薄い。「困った人に優しくしましょう」「かわいそうな人に思いやりを」と「気持ち」の問題に回収しがち。このため社会の構造的不均衡への視点が育たず、DEI政策も多数派の許容範囲ならいいが、そうでないと「逆差別」「行き過ぎ」と反発が起きてしまうのではないか。
米国に比べ、まだまだDEI政策が必要なこの国で、米国からバックラッシュ(反動)だけが輸入されることを非常に懸念している。
DEIに反発し、言葉を消しても、マイノリティーの存在が消えることはない。ともに生きているのだ。……
(毎日新聞 2025年4月18日付 「論点 多様性の行方」より)
世相の針は左右に振れがちです。しかし、DEIについては、日本は欧米並みではなく周回遅れが現実であり、まず、DEIを社会に広く浸透させる必要があるでしょう。もし世論がトランプ政権によるバックラッシュに容易に便乗してしまうとしたら、松岡さんが「かわいそうな人に思いやりを」と述べているとおり(この点、小生も同意見ですが)、日本の学校の人権教育が個人への「同情」や「憐れみ」といった情緒面に比重がおかれがちなことと関係がある気がします。それでは「多様性社会なんだから自分の考え方も一つの意見として尊重されてしかるべき」という差別主義者の主張に同調しかねません。
