ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「改革者」気取り

 こういうことを偉そうに言える人間でもないのですが、「改革者」を気取った愚か者というのは、いつの時代にも、どこの世界にもいるものだと思います。当世の代表例は、毎日テレビのトップニュースになっている某国の大統領でしょう。彼の巨大な力の源泉は「大統領令」なる「行政命令」のようですが、パリ協定からの離脱や関税率の上乗せなどといった諸政策と、紙ストローの廃止やシャワーの水圧制限の撤廃など、ほとんど当人の「趣味」と思える話を同じレベルで「法令」にするのはいかがなものか。加えて、これらがすべて「政策」だとするならば、「やりっぱなし」でよいはずもなく、その「効果・効能」についての検証が欠かせないはずです。某国が三権分立の国ならば、(当人は絶対にプラスの「成果」しか言わないにしても)当然議会と裁判所の出番となるでしょう。大統領令が万能ではないことを、歴史知らずの愚か者(とその取り巻き)に、世論をもって示さないといけません。そもそも切迫した事情もなく「行政命令」を頻発させることの是非がまったく問われないのはおかしなことです。みんな、あの人だからしょうがないと諦めているのか。あるいは中間選挙までの1年半、長くても任期の4年間の辛抱だということなのでしょうか。それにしても、水圧制限を撤廃する根拠にいたっては、これを聞いた人々は怒りというか、愚弄されていると感じないのか。
「アメリカのシャワーを再び偉大に」 トランプ氏、水圧制限を再び撤廃する大統領令に署名(字幕・10日)
【やさしく解説】トランプ氏が連発「大統領令」って何?◆「紙ストロー廃止」「メキシコ湾と呼ぶな」:時事ドットコム

 とはいえ、そんなことを日本の千葉県の田舎者が言っても遠吠えにしかなりません。しいて言えば、こういう「改革者」気取りの人間たちは「系」(?)でつながっていて、類は友を呼ぶというか、マネをする輩がいるので、まず身近な類似例を取り上げるのも意味があるかもしれません。
 雑誌『地平』5月号に、小生にとってはお隣の茨城県の公立学校の状況を紹介したルポがあります。記事の冒頭には、ある茨城県内の県立高校の正門横に張られた横断幕の写真があります。そこには「令和5年度大学合格実績」と称して、「国公立大学26名、私立大学277名」という数字とともに大学の具体名が並んでいます。さながら予備校か学習塾のアピールのようです。
 大井川知事のもと、茨城県では中高一貫校が増設され、「起業家精神」「IT」「グローバル」「探究活動」などをキーワードに「人財」(「人材」ではなく!)育成の教育が強力に推し進められてきたとのことです。公立の中高一貫校は千葉県にもありますが、今のところは3校、他方、茨城県は(小生が数えたところでは)14校もあって、これにはいささか驚かされます。2020~23年度の3年間だけ10校新設ですから、肝煎りというか、かなり強引に進められたと想像されます。当然、それにはどんな「効果・効能」があるのか、総括されなければなりません。しかし、案の定(知事サイドが言うほど)、いい影響ばかりではないようです。記事「ルポ イバラキ 生徒を苦しめる超・競争教育」にはこう書かれています。一部引用させてください(人名にはアルファベットに替えたものがあります)。

……中高一貫校では中学三年生を高校生として扱うため、授業についていけない生徒が自信をなくしていった。Kさん(某中高一貫校教員)は、「附属中学の生徒が高校入試を受けたら半数は合格しない水準です。入学後に悩み、病んでしまう」と心配する。関係者によれば、同校の不登校は約1割で予備軍も多い。付属中学生の二人が退学したという。
 個々の教員が「なんとか進学させてあげたい」という一心でバックアップするが、業務過多になる。教員自身が心身を壊して這うようにして出勤するため、長期療養休暇の定義となる休職期間30日を超えない。「まさにやりがい搾取です」。Kさんは、メンタル疾患に陥った。茨城県の公立学校で働く教員がうつ病などで長期休職した人数は2023年度で157人と過去最多だったが、それも氷山の一角だろう。いつしか教員の間では、「中高一貫校にだけは異動したくない」と言われるようになった。

 問題が噴出する中高一貫校の増設は急だった。2019年2月20日に大井川知事が記者会見で「県立高等学校改革プラン」を発表。2020年度から22年度にかけて水戸一高土浦一高など10校に中学を設置するという具体的な内容を突然、公表した。大井川知事は会見で「(既存の)中高一貫校の実績が出ている。その効果を最大限に発揮させるべく、最大限のスピードで整備するように教育庁に指示した」と言及している。
 そもそも2018年、人口減少や社会の変化に対応するための学校や学科のあり方について茨城県高等学校審議会が行われ、同年12月25日に答申がまとめられた。中高一貫校の増設について答申では、新たなエリアを検討して未設置地域を中心に設置を検討すべき意見と、地域の中学校や高校への影響を考慮し慎重に検討すべきという両論が併記されていたが、具体的なエリアも校名を示されていなかった。その二ヵ月後に記者会見で、突然の発表となったのだった。

<中略>

……大井川知事の肝いり施策として民間校長が募集された。水戸一高土浦一高、竜ケ崎一高など中高一貫校や新設高校を中心に配属されている。任期は4年だが、成果によって契約延長される。となれば、民間校長は短期間のうちに成果を出さなければならない。大学の合格実績であれば“成果”が一目瞭然となるだろう。
……取材を進めると複数の関係者が「中高一貫校にはKPI(重要業績評価指標)があり、難関国立大や医学部の合格目標などが県から降りている」「民間校長になってからKPIと言い始めた」と証言するのだ。
……相当数の教育関係者が、「知事がワンマンなら校長もワンマンになる。トップダウンで成績重視の教育が行われ、学校が内側から壊れている」と懸念する。
 それというのも、2000年に学校教育法施行規則が改正されたことで、校長の権限が強まったからだ。職員会議の位置づけが明確化。職員会議は校長が主宰し、「校長の職務の円滑な執行のため」に置くことができるとされた。……知事と校長が一蓮托生の関係であると、現場は「上」を見るしかなくなり、学校からも民主主義が消えてゆく。
<以下略>

                      (『地平』5月号、72-75頁)

 これは基本的に茨城県だけの問題ではなく、多かれ少なかれ他県も似たような状況で、わが千葉県も例外ではないでしょう。小林さんは「現場は「上」を見るしかなくなる」と書いていますが、これも同じです。
 3月の下旬に新聞発表された県内の公立学校教職員の人事異動特集を眺めていたら、この4月から校長、教頭になる人の中に、昔の同僚教員の名前を幾人も「発見」しました。「改革者」を気取って、子どもたちを出世や自己顕示の手段にしないか。同僚だった時期からだいぶ時間が過ぎていますし、杞憂であってほしいのですが、当時の彼らの「上」を見る「小権力者」的態度を思い出すのです。



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