お米の値段が高いです。以前はうちも米農家でしたが、亡くなった父親が引退してからは、近所の農家さんに頼んで代わりに作ってもらっています。去年、新米コシヒカリがとれたとき、農協に卸した玄米の額は30㌔袋で1万円という話で、びっくりでした。「令和の米騒動」などと騒がれていたので、高くなるとは思っていましたが、その前の年が6,500円でしたから、1.5倍以上の値上がりです。年をまたいで価格はさらに上昇を続けて、現在千葉県産コシヒカリ玄米30㌔の相場は販売価格で2万超が普通になっています。去年の秋からはさらに倍以上、おととしからは約3倍です。
これは消費者には相当な痛手です。他の物品も値上がりしているので、いたしかたない部分もありますが、この高騰ぶりは他の農産品とは比較になりません。政府は一部業者が貯め込んで市場に流さないのが主因と見ているようで、最初は、2024年度産の新米が市場に出回るようになれば価格も落ち着くはずと「楽観」していましたが、年が明けても下がるどころか上がる一方なのを「批判」され、ようやく備蓄米の放出へと動き出しました。しかし、多くの識者が指摘するように、その効果は限定的と思われます。
思うに、放出分をあとで全量買い戻すことを宣言して放出すれば、そもそもの供給量は変わらない(と見込まれてしまう)ことになりますから、価格を引き下げるインセンティヴ(刺激)にはならないのではないか。しかも、相場はわかりませんが、競争入札によって(より)高い値段で落札された備蓄米が市場に流通したら、値段は高いままなのではという気がします。農水官僚のみなさんは本気で米価を下げる気があるのか疑問です。もっと言えば、米価高騰の主因が市場の流通量の問題ではなく、そもそも十分な量のコメがないの(生産量の問題)だとしたら、農水省の認識も政策も的外れということになりかねません。
元農水省官僚で農業経済学者の鈴木宣弘さんは、今のコメの高騰を単なる流通量の問題と見るのは誤りだと言っています。3月10日付MBS(毎日放送)のインタヴューから引用します。
「政府はコメ不足を認めよ」備蓄米は、”一番高い価格を付けた業者が落札”それだと市場価格は下がらないのでは?【専門家が解説】 | 特集 | MBSニュース
……備蓄米は日本各地の倉庫に保管され、整理番号で分けられています。業者はこの整理番号ごとに入札を行い、最も高い金額をつけた業者が落札、というシステムになっています。今回入札がなかったものや、最低落札価格に達していない整理番号のものは(3月)11日、12日に入札が行われる予定です。
―――高い価格の業者が落札するなら、高値になるのでは?と疑問が湧きますが、農水省は「販売価格の制約は設けていない」とするいっぽう「落札したにもかかわらず市場に卸さない場合は指導もありえます」としています。鈴木先生はどのように考えますか?
「高値となる可能性はおっしゃる通りです。政府は、『流通業者が隠している、それを是正すればいいだけだから、その分を一度出してまた買い戻しますよ』と言っているわけです。ということは流通量は変わらないので、そのことを市場が見込んでしまえば結局なにも変わらない状況さえ考えられる。」
「そもそもコメは足りてないんですよ。生産量が足りてない。『もうコメは作らないでいい、田んぼは潰しましょう』と、米農家は赤字で苦しんでても放置されてきたわけで、生産が減りすぎていたところに猛暑があった。政府は作況指数は100を超えて取れているといいますが、現場はそんなに取れてないとみんな言っています。かつ品質が落ちているから、精米にしたときに、いわゆる普通の主食米として売れる量が減っているわけです。」
「実質は、もう前倒しで2024年産が使われて、2025年産の買い付けの約束までできています。ということは、端境期になってくると、不足感が高まってくる。これだけ市場が『コメがもうないんだ』と言っているわけで、流通業者が隠しているんじゃないんですよね。(政府は)そこをまず認めて、それに対する対策をやらない限り、本質的には問題は解決しない。また不足が激しくなって何かあればコメ騒動が起きるような状態を放置してしまうということになるんじゃないかっていうのが、根本的な問題だ」
―――江藤拓農水大臣は、一部の集荷業者がスタックしていて、備蓄米を放出することで抱えている業者も売らなければならないため、市場にコメを出して供給量が増えるのではないか、ということも言っていたと思いますが、そのあたりはいかがですか?
「そういう業者がいないわけではないと思いますが、それはごく一部の可能性もあるわけです。もうすでに(コメは)足りないから先食いして流通し、隠されている部分はほとんどない可能性があるわけです。政府とすれば自分たちがやってきた、コメは余っているから作らなくてもいいと言って放置してきた政策の判断ミスを認めるわけにはいかないので、『コメは足りている余っている』と言い続けて『悪いのは流通だからその部分を是正するだけだ』、という論理にしようとしている可能性があるのかなと思います」
―――鈴木先生が言うように「減反政策でコメ不足」ということでしたら、政策を急に変えることは難しいですし、備蓄米の性格を緊急支援的なものというより、コメ価格の変動に応じて毎年介入する“為替”のように、備蓄米の性格を変えていかなければならないような感じもしますが。
「おっしゃる通り、備蓄米について運用を変えて、米価が2万円超えてきたら放出します、逆に1万5,000円を下回ったら買い入れます、というように備蓄米運用を、数値で明確化してわかるようにすれば流通も安定化して、消費者にとっても、生産者にとっても、価格が範囲内に収まるようなルールを決めるということもひとつですね。」
「増産について2025年は増産する、と言っている方は増えているんですけど、そんな簡単に増やせないほど現場が疲弊していて、せいぜい3%程度しか全国で増産の見込みが立ってないんです、簡単ではない。農家がもっと作って価格が下がってもやっていけるような、生産を奨励するための補助金が、(他の国のように直接支払いで出るとか)、明確にしてくれれば、生産者も増産をやるよ!となり、生産が増えコメの値段も下がる」
「消費者は助かる、生産者も所得がある程度補填され、Win‐Winになるわけです。やはり政策が、この場をどう救済するかというインセンティブを生産者にしっかりと示せるようにしないといけない。ただ余ってる、足りてると放置しないで、どうしたら生産を増やし、増産しても所得が得られて、消費者は安い価格で買えるのか、それから、備蓄米の運用をしっかりルール化して、米の価格が安定していると思えるようにできるかどうか、この点が重要だと思いますね」
冒頭で触れた米農家さんは今年で70歳です。当人もいつまでできるかと常々話していて、こちらも厚意にすがるばかりで申し訳ない思いでいますが、それも「限界」が近づいています。これがこの国の地方の一農村の状況です。他も似たような感じだと思います。
