来週から確定申告です。源泉徴収ですべて済んでいる人には頭の上を通り過ぎていくような話ですが、昨年はちょっと違っていて、自民党議員の裏金問題の発覚により、ある種の殺伐とした空気が流れていました。「国会議員は(裏金を雑収入として)申告しなくていいのか?」――具体的な場面に出くわしたわけではありませんが、世間の多くはそんな不信感を抱きながら申告に必要な書類を取りそろえていたわけで、税務署の職員には「針のむしろ」だったかも知れません。
今年は国民民主党が主張する「103万円の壁」の引き上げをめぐって、行きつ戻りつの与党協議が続いてきました。国民民主党の支持率の上下動を見ても、世間の税への関心は高いと思います。それだけに、税は報道(広報)のされ方次第では容易に「火がつく」案件です(周知のこととは思いますが、実際上は「103万円の壁」は税負担上は大した壁ではなく、社会保険料の負担が生じる「106万円の壁」の方が超えた場合の「落差」が大きかったのですが、こちらは来年秋をめどに撤廃されるという話もあります)。
先日の日曜でしたか、昼にテレ朝の「TVタックル」という番組を漠然と眺めていたら、1989年の消費税導入の経緯が説明されていました。今の20代から30代半ばの人たちにとってはほとんど「歴史的過去」の話です。曰く、消費税の導入前には「物品税」という、いわゆる贅沢品に課税される趣旨の間接税があって、各品目の税率をめぐって複雑怪奇化していった点が強調されていました。たとえばテレビは昭和30年代にはまだ各家庭に普及しておらず、街頭テレビの前に人だかりができたり(これは今でもありますが)、近所でテレビをもっている人の家にみんなで押しかけたり(さすがに、これは……)と、家にテレビがあることがステータスシンボルの時代があったようです(笑)。それが高度成長期を経て平均的な生活水準が向上し、テレビも、車も、エアコンも、庶民の間に普及してくると、贅沢品と日用品の線引きがだんだん難しくなってきたと。だからこの際、どの商品も一律3%(導入時)にして課税した方が「公平」という話になった、というのです(!)。もちろん、そうした説明は当時もなされていたと記憶していますが、たとえば「直間比率の是正」――所得税(や法人税)などの直接税に偏った税収構造における間接税の比率をもっと上げるべきという論――あるいは、高齢化社会に向かう将来の財源確保といった話が、番組ではややおざなりにされた印象です。何も知らない人にとっては、消費税は税率が一律だから公平だというイメージ(ロジック)が残った(刻印された)感じです。
消費税の税率は食料品などを除いて今や10%。全税収の1/3を占め、税収項目の第1位です。財務省は機会があればまだ税率を上げる気でいます。低所得層には負担感の大きい逆進性の強い税であることは、導入時からすでに指摘されていました。ある意味、現在の格差社会の骨格をなしているのがこの消費税を含む税体系であると言っても過言ではないでしょう。何せ、消費税率が上がれば、所得税や法人税は下がるというパターンが積み重ねられてきたわけで、消費税導入時の議論に立ち返るなら、今度は所得税・法人税の税率を上げ=「リッチ」の方々に課税し、日用品の消費税率はできるかぎり低減ないし撤廃する方が、税の公平性、応分の負担という「原則」に沿うものに見えます。税制は「国のかたち」、社会の礎をなしていると思います。
先週雑誌『地平』の最新号が送られてきました。「いけね、まだ前の号が読みかけだった」と思い、まず先にこちらを片付けようと思って、改めて読み直し始めました。中では竹信三恵子さんの論考「『税金返せ』からの転換を ジェンダー論から見る『103万円の壁』」には、この「国のかたち」を再認識させられました。こんなところにもジェンダーバイアスが潜んでいて、制度的に日々(感じ方というか観念が)再生産されているわけです。一部引用させてください。
「103万円の壁」引き上げの罠
……「103万円の壁」引き上げ論の盛り上がりに、戸惑いの声が出ている。
中高年単身女性の貧困問題に取り組む「わくわくシニアシングルズ」の大矢さよ子代表は、1990年代から女性の就労を抑制し低賃金の要因になっている税や社会保険の壁の撤廃へ向けて活動をつづけてきた。
「103万円の壁の大幅引き上げ案は、夫の扶養下にとどまろうとする女性を増やし、経済的自立を削ぐことにもなりかねない。主婦パートの就労抑制が他の女性の賃金にも影響して高齢女性の低年金と貧困の温床になっているのに、『手取りを増やす』はこのことを見えなくさせてしまっている」と、衝撃を隠せない。
「103万円」は、生活を支える最低費用としての基礎控除と働くための経費としての給与所得控除を合わせた額だ。最低限度の生活を保障する意味から、このラインまでは課税が免除され、同時に、このライン以下の配偶者を扶養する働き手は配偶者控除も受けられる。こうした夫への控除がなくなることを気にしてパート主婦などに働き控えが起きていることに批判が高まり、世帯収入の激変を防ぐ仕組みが設けられた結果、いまは103万円を超えても税への影響はほとんどない。
ただ、こうした「年収の壁」を基準に配偶者手当を出している企業が社員数ベースで五割以上(人事院「令和四年職種間給与実態調査」)あることや、勤め人の妻は年収130万円を超えると社会保険料の免除措置がなくなることから、働き控えは、なお、なくなっていない。
神奈川県に住み、非正規で働く三〇代のAさんは、自身をそんな制度の被害者だと感じている。最近離婚し、非正規で働きながらシングルマザー向けの様々な公的支援を使いこなして幼い子ども二人と暮らしているが、「103万円の壁がなければキャリアを積み上げられ、離婚後の経済的自立もしやすかった」と思うからだ。
正社員として働いてきたAさんは、結婚した時に、夫に「専業主婦になってほしいが、年収103万円までならいい」と言われた。理由は、「それ以上働くと、会社からの家族手当やいろいろなものが引かれ、自分の給料が減るから」だった。派遣社員として働き始めたが、103万円の枠内に収めようとすると一日6~7時間で週2~3日しか働けなかった。さらに、子どもが生まれると子育てに大幅に時間を取られ、どんなにがんばっても103万円を超えるか超えないかくらいしか働けなくなった。
「今考えると、夫が働くかどうかを許可すること自体、おかしかった。年収の壁と子育ての壁が、そんな疑問を阻んでいたんです」
今回の「178万円への引き上げ」は、収入が増えるうえ扶養の枠内にとどまれるという点で、夫に依存したい女性にとっては歓迎だろうとAさんは思う。ただ、自身のキャリアを犠牲にして夫の手取りを増やす女性はなくならない、という思いは消えない。
生協労連の調査(2024年2月、複数回答)によると、社会保険に加入しようと考えたことがあるがやめた理由は、1位が「手取額が減る」(62.0%)、2位が「夫の会社の配偶者手当がなくなる」(52.1%)、3位が「家事・育児のため長時間働けない」(22.5%)、4位に「夫に調整するように言われた」(21.1%)が」入っている。
壁の引き上げは、そんな「夫の壁」を高くすることで、壁の内側の女性たちを増やすことになりかねない。
(『地平』2025年2月号、86-87頁)
