ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

フジテレビの危機

 今日の夕方16:00過ぎから始められたフジテレビの「やり直し」記者会見を見ています。先回の静止画像プラス記者選択制の「ごまかし」会見とはちがって、今回は記者が総勢500人ほど集まり、テレビでも生中継され、開始からもう6時間になろうとしています。一旦休憩を挟んで、まだ続くようです(22:00現在)。ただ、今回「ごまかし」がないのか、と言われると、それはちょっと……。
 フジの経営陣には前回の会見は「失敗」したという思いが強いと思いますが、しかし、世の批判、とりわけスポンサー企業によるCMの引き上げ(差し替え)という事態にならなかったら、こんな短期間で「やり直し」会見を開こうとは思わなかったでしょう。報道によれば、CMの差し止めに動いたスポンサー企業は現時点で少なくとも75社とのことで、今までフジで普通に放映されていたはずのCMの多くがAC JAPAN公共広告機構)のものに差し替えられている様はかなり異様に見えます。
 具体的に言えば、たとえば、先週の24日(金)の夕刻18:16から18:24に放映されたスポットCMをメモをとりながら眺めてみると、計21本流れたCMのうち、AC JAPANのものは計16本(全体の76%)で、残りの5本は、まねきや(買取業者)、ユニクロ、映画宣伝、エネワンでんき、ビットフライヤーでした。AC JAPANのCMは、10種類ほどあるものの中から選択され、重複しつつ使い回されています。他の時間帯も割合はだいたい同様で、現状で7~8割方はAC JAPANのCMが流されていると考えてよいと思います。こうなると、同じものを何度も繰り返すかたちになるので、すぐにマンネリ感を覚えます。

 フジテレビの広告収入は2023年度で1,473億4,800万円だそうです(テレ朝・スーパーJチャンネル)。もちろん、スポットCMと番組CMでは単価(単位)は異なるでしょうし、放映時間帯によっても単価は違ってくるでしょう。ですから確かな額は計りかねますが、フジは、AC JAPANに差し替えたスポンサー企業にはCMの代金を請求しない(払い戻す?)という異例の対応をとるそうなので、もし履行するとすれば、おおざっぱに計算しても1ヶ月あたり数十億円の収入を失うことになりそうです。
 本日の会見を受けて、スポンサー企業がCM差し止めを翻し、CMの再開を決断するようには思えないので、テレビで解説する複数の専門家が指摘するとおり、多くは第三者委員会の報告内容を見てからの対応となりそうです。報告の期限は3月末なので、少なくとも2ヶ月分の損失は覚悟しなければならないでしょうし、下手をすれば、それでは済まない事態も起こりえます。フジの一般社員から経営陣に対して、会社は大丈夫なのかという声が上がるのは当然のことです。4日前の社員向けの説明会で、そのような質問を受けた港社長(前社長)は、「10年、20年、大丈夫かと言われれば、それはどうかと思うが、それなりの蓄えはある」というように答えたということです(同日のLive News イット!による)。この局面で社員の不安を煽るようなことを社長の立場にある者が言うべきでないというのはわからないではないですが、それにしてもこの言い草は「楽観的」過ぎて、小生にとっては「えー!?」です。
 つけ加えれば、先週80人ほどだったフジテレビの労働組合員が、この件をきっかけに500人を超えたという報道を受けて、新社長に就くことになった清水氏は、今日の会見でこれをどう感じているのかと質問され、「組合員の増加は社への参加意欲の現れで、社の再生のためによく対話をしていきたい」という趣旨の話をしていました。これも小生にとっては「はぁ?」です。
 今日登壇している経営陣に、ガバナンスやコンプライアンスの欠如の問題はもちろんありますが、それとは別に、そもそも危機感が薄いのではないか。一視聴者に過ぎない小生の感じ方で視聴者一般の見方を代表させるわけにはいきませんが、ひょっとしたらフジテレビは現在存亡の危機に立たされているかも知れません。彼らはフジテレビで働く一般社員の多くがどんな気持ちで今この会見を見ているのか、あまりわかっていない感じがします。数日前の社員説明会で彼ら彼女らの声を直接聞いていたはずなのに……。

 その4日前の社員説明会でのやりとりの一部を伝える記事を読みました。さすがにこれを今日の記者会見と同類には扱えませんが、港氏や嘉納氏らの基本的な姿勢には似たものを感じます。それは自分たちは退任しても(できても)、「姿なき主」の存在を守るというどうしても譲れない一線があるからでしょう。「守るべき人」の優先順位がちがうのではないかと思います。一部引用します。
【独自】「この場で社長会長が辞任してくれないと月9ドラマが止まる!」悲痛のフジテレビ社員説明会の一部始終《緊迫の1・23ドキュメント》(現代ビジネス編集部) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
【独自】フジテレビ社員集会の一問一答「なぜいま辞任しないんですか?CMがゼロになります」《涙のフジ社員説明会1・23》(現代ビジネス編集部) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

(社員に向けてフジテレビとしての対応を示した港・嘉納氏に対して)……「信頼をがばっと取り戻すために、大きなことをやらなくちゃいけないときに、ちまちましたことばかりです。たとえば全役員、取締役の総退陣と役職降格です。管理職は全部40代にすればいいんです。
 こんな年寄りばっかりが管理職で、意味がない。僕ら50代の社員は40代のサポートに回ればいいんですよ。新しい時代つくるのは30代、40代でしょう。こんな年寄り連中が、ああでもないこうでもないと言っている暇があるんだったら、そういうこと言って『アピール』してほしいと思っています。
 じゃないと僕たち本当に生活できないですから。家族をもって、生きるか死ぬかの話しているときに、『再生委員会』なんてちゃんちゃらおかしい。できることやっていく? 明日の生活がどうなるかみんな不安なんですよ。ドラスティックに、視聴者と株主とスポンサーに対して、フジテレビは変わるんだな、真剣だなと思わせないといけないときでしょう?」

 この社員の発言には、大きな拍手が沸き上がった。嘉納会長は
「言っていることは正しいと思う。そういう面もある。今は言えないけど、そういうこともひとつの柱としてはあると思います」
と言葉を濁した。すると、別の社員がさらにこう質問した。これまた役員退陣の話だ。

「再生委員会、改革委員会って港社長はおっしゃっているのは、もう事実上経営者の方々は総退陣を決めておられて、次の体制に向けて委譲して託していくというお気持ちで立ち上げられるという理解でよろしいでしょうか?」
と尋ねると、経営陣は、「体制にかかわる、ということではないです」と回答。「じゃあ、経営者は引き続きいまの経営陣で続けていくということですか?」と重ねて問うても、「そういうことは言っていません」と返されたので、この社員は以下のように畳みかけた。
「ではそこはどうなるんですか? この週末には、CMがゼロになってAC(の広告)だけになるかもしれないという状況で。
社員のほとんどが、日枝さんも含めて経営陣が総退陣すべきと思っているし、皆そういう風に話をしています。対外的に、総退陣して次に行くと言っていただかないかぎり、第三者委員会のことくらいでは、大手のスポンサーさんをはじめとして関係先には、理解をいただけない。
われわれ社員だけではなく、スポンサーさんや関係会社に対する「アピール」を明日の朝イチ、午前中にでもしていただかないといけない。別に退陣表明といっても、手続きもあるから、今すぐやめるわけじゃないんですから、リリースだけでいい。
リリースされれば、世の中が変わってくるんじゃないでしょうか。今日も中居(正広)さんが引退表明されて、うちだけが取り残されている。古市(憲寿)さんもああいう発言(注・「めざまし8」で日枝氏ら経営陣の退陣を主張)をされた。今日も取締役会も経営会議もあって、メディアも押しかけたと思いますし、ご心労もいかばかりと思いますけれど……」

 ここまで発言すると、この場で、日枝氏を含む役員総辞職をこの社員は呼びかけた。
労働組合は、いままで80人しかいなかったのに、すでに500人になりました。なんとかしていただけるとみんな信じているんです。社長を最後まで信じたいんです。日枝さんもお疲れなんでしょうけど、社長・会長がご決断いただいて、今日この場で言っていただければ、変わるんです。
総辞職の意思をここで表明してください。いま出たら、明日から変われるじゃないですか。変えましょうよ、もう。もう本当に。
日枝さんだって87歳のお年寄りですよね。ライブドアのことから何十年もやられたからおかしくなってるんだけど。『王様は裸』だってなんで言ってあげられなかったんでしょう。社員一同、そこはそれが怖かったんですよ。いつもそうじゃないですか。これは利益が上がらないからやめようって言っても、それは『日枝さんがやっているからまずいよ』ってキープしたり、『日枝さんの地雷だよ』とかそんな話ばっかりでした。
日枝さんがご自身の業務が、何のためにもなっていなくって、長期政権だからダメだったんですよ。もうこの場で終わりにしませんか。会長・社長、はっきり言ってくださいよ」

 この社員は途中涙ながらにこの発言を行った。社員説明会には参加していない日枝氏の「老害」こそが、今回の中居さんの性加害トラブルとフジテレビの隠ぺいの問題の背景にあると指摘し、場内から拍手が響いた。……

 だが、嘉納会長は、
「今回の問題については非常に重く、当然受けとめてます。経営責任っていうのもあると正直思ってます。フジテレビが信頼を取り戻してやっていくためには、いろんなことを変えていかなきゃいけない。具体的にどう進めるかは、皆さんの意見もうかがってやっていく。近い間にやっていかなきゃいけない」
とファジーな回答に終始し、経営陣の進退や日枝氏について言及することはなかった。すると、先の社員は社員説明会でこう反論した。

「ロードマップ考えたりするのは時間かかるでしょう。それが決まってからじゃ遅いといっているんです。まずは変えます、変わるということを1分でも1秒でも早く伝えないと。その対外的な発信をしないと、決まるのを待っている余裕はない」<以下略>

 「(会見自体が)フジテレビの問題なのでフジテレビの会長、社長らで対応している」「(日枝相談役に影響力があるのは確かだが)今回の件は我々の責任であって、日枝相談役は関係していない」――日枝氏もこの記者会見をどこかで見ているはずです。登壇した彼らにそう言われた(言わしめた?)当人は、そのとおりだ、これでよし、と思っているのでしょうか。
 23:00を過ぎましたが、会見はまだ続いています。

【独自】フジ女性社員が社長に決死の発言「これでは27日の会見は持たない」「日枝さんのこと聞かれたどうする」《フジテレビの非公開説明会Q&A》(現代ビジネス編集部) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

<追記>結局午前2時24分までかかって終了したようです。 
フジテレビ記者会見 10時間超に 新社長に清水賢治氏 港浩一社長 嘉納修治氏 遠藤龍之介氏 金光修氏ら出席 | NHK | テレビ局




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