東大が授業料を値上げして、来年4月の学部入学者から現行の53万5800円を64万2960円にするそうです。値上げの話は前から出ていて、学生から反対の声が上がっていましたが、かなり強権的に決定されたようです。他の国立大学へも波及するのはおそらく避けられないのではと思います。
東京大、来春入学から授業料2割値上げを正式決定 他大学に影響も | 毎日新聞
大昔と比べてなんですが、国立大学については1980年代に入るあたりから入学金と授業料が毎年交互に上がり始め、70年代だと通年で授業料はまだ10万円に達せず一桁台だったはずですから、今の授業料の額を知ると隔世の感があります。余計なことを言うと、その代わりトイレの壊れたドアノブがそのまんまとか、ヒビが入った窓ガラスがテープで止めてあるだけとか、やっぱ国立だわと思うことがたびたびあったように記憶しています。まあ、今からすれば、遠い昭和の風景ですが。
しかし、もし学内の施設整備費が不足しているからその分を値上げしたいという単純な話であったとしても(それだけとは思えませんが)、国立大学が(国立大学なのに!)負担を学生側に求めるかたちはよくないでしょう。一般的に言って、授業料値上げの話が出れば反対の声が上がるのは当然とはいえ、そのやり方にも問題があると思います。確かに、6月の「総長対話」で藤井輝夫学長は学生に対して、「(運営費交付金が減額される中)学びの環境を良くしながら設備の老朽化や物価、光熱費の上昇などに対応しなければならない」と説明したということですが(リモートで?)、説得力を欠くのは、ぎりぎりまで知恵を出し合って最善の方法(値上げの額を含む)を模索した形跡がなく、「事前通告」をして格好をつけたかたちにして、10万円以上、20%もの値上げを発表してしまったことです。その手法は批判されてしかるべきだし、額自体の妥当性も問われなければなりません。
東京大、授業料値上げの背景にある国立大の窮状 他大学への影響は | 毎日新聞
「東大の学費値上げに反対します」という署名サイトには、反対する理由として、
1.本来すべての人に開かれるべき高等教育の機会を閉ざす
2.学費減免制度や奨学金制度が不十分
3.学費値上げ検討プロセスに学生及び教職員が排除
の3点が挙げられています。特に3.については、
私たちは、常に大学当局と「対話」を求めてきました。また、様々な団体等が、申し入れや署名の提出など、大学当局に学生や教職員らの声を届ける努力を続けてきました。しかし、大学当局はオンラインでの不十分な「総長対話」を強行し、さらに安田講堂前に意図の不明な警察導入を行うなど、学生と真摯に向き合おうとはせず、拙速かつ排他的に学費値上げの検討を進めてきました。
と述べられています。
関連して、現役学生はもちろん、(東大以外を含む)大学の先生方からも多数の意見が寄せられていて、一番共感したのは、千葉商科大学の中倉さんの意見です。引用をお許しください。
「受益者負担」という言葉で学生(およびその親)が学費を負担するのが当然であるかのような論理があります。しかし社会のための人材養成という面がある以上、受益者は社会であり国家でもあります。だから、学費は無料でなくても、もっと安くあるべきです。それは国立も私立も同じです。
普段はすぐに世の中に範を示すことに熱心な東大が、この件に関しては、「それぞれの大学の判断」と言うのは詭弁です。東大が学費を上げれば、他の大学も上げる可能性はとても高いでしょう。それくらいの責任感は持ってほしい。
あと、反対の意思表明をする教員や大人があまりにも少ない気がします。まるで政府の代弁者のように、「国家も大学も財政的に苦しい」「法人化以降政府の方針で運営費が減らされているのだから仕方ない」というあたかも見識があるかのような態度で反対しないのも詭弁です。自分たちはもっと安い学費の時に大学に通って得をしたのに、今の若者たちの利益は平気で毀損する。未来は若者のものであり、私たち大人は彼らを応援する義務がある。学費の値上げに反対すること、そしてさらに(無料化でなくても)値下げのために声を上げることは、誰にでもできることです。反対しなければ、政府も大学も、大半の人はそれでいいと思っているんだと、無視するだけです。政府の方針は変えればいい、財政は優先順位の問題です。だから変えようという意思表示が大事です。これは東大だけの問題ではなく、大学教員だけの問題でもなく、すべての大人の問題です(学費を払うのは親の世代です)。
オンライン署名 · 東大の学費値上げに反対します - 日本 · Change.org
https://www.change.org/p/%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E3%81%AE%E5%AD%A6%E8%B2%BB%E5%80%A4%E4%B8%8A%E3%81%92%E3%81%AB%E5%8F%8D%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99
小生も「安い学費の時に大学に通って得をした」一人なので、今の学生と将来の学生を「応援する義務」があると思っています。大学は、学費を値上げするのではなく、国費で賄う方向で当局と交渉すべきだし、世論はそれを後押しすべきと考えます。これから高校の授業料を無料化しようという時代と方向なのに何としたことか! ドイツだったら、「はっ? 学費の値上げ? 国立大学って無料じゃないの?」と返すことでしょう。
