ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

BBC HARDtalk の河野太郎氏を見て

 先月27日、BBC News Japanでスティーヴン・サッカー氏が河野太郎デジタル相にインタヴューをしています。外相、防衛相と政府の重要閣僚を経験して、秋の自民党総裁選への出馬にも意欲を見せている河野氏ですから、BBCが次期日本の首相候補の一人として、インタヴューを敢行しようというのも当然でしょう。
 しかし、まあ何というのか、聞き手がいろいろと下調べをして日本の政治経済の問題点を指摘しながら質問するのは当然として、答える側の次期首相候補がこの程度でよいものか、ちょっとこの非対称性というか落差が大き過ぎるという印象です。こんな答えで乗り切れるというのは思い上がりというものでしょう。それも普段日本のメディアが、彼に限らず日本の政治リーダーに忖度を繰り返して甘やかしてきたからで、そのツケがこんなかたちで白日の下に晒された感じです。最初の方のやりとりを少し引用しますが、自信満々に(居丈高に)何を言っているのか、と思いました。
HARDtalk Taro Kono – Minister for Digital Transformation, Japan - YouTube
ハード・トーク 河野太郎デジタル担当相 (日本語同時通訳音声) - YouTube

 サッカー:端的な質問ですが、日本は何が間違っていたのでしょうか。日本の強かった経済は何十年にもわたって停滞しているようです。なぜだと思いますか。
 河野:1980年代にバブル経済がありました。日本経済は調整を経ることになりましたが、今は軌道に戻り、日本は改善に改善を続けています。
 :「軌道に戻った」とおっしゃいましたが、日本は膨大な債務を抱え、円安が続き、人々は生活コストの危機に苦しんでいます。日本の国民は政治の現状にウンザリしているように見えます。
 :新型コロナの後、日本のインフレはイギリスやアメリカよりもはるかに低かったんです。ですから心配することはありません。経済は明らかに軌道に戻っています。日本経済は再び成長しています。
 :日本の政治についてお聞きします。(第二次大戦後の)ここ70年間、日本の政治はあなたが所属する自由民主党が支配してきました。他の政党が与党になったのは、この間3、4年だけです。まるで「一党支配」のようですが、それが健全だと思いますか。
 :戦後日本はずっと民主主義国でした。日本の国民は投票によって政府を選んできました。そして、自民党が選ばれたのです。我々は日本を再生させました。経済は現在は世界第3位まで成長しました。第二次世界大戦後、日本は戦争の影響を受けていません。ですから、日本はとても満足しています。自民党が国を統治していなかった時期も何度かありましたが、2012年からは与党に戻っています。
 :民主政治における成功の一つのカギは、正しいアイディア、新鮮なアイディア、革新的なアイディアがあるかどうかにあります。一つの政党が長い間支配すると、それが可能でしょうか。あなたもその現実の象徴です。あなたの父親は自民党の総裁でした。祖父は自民党の重要な存在でした。あなた自身は20年以上国会議員を務めてきました。外務大臣防衛大臣を歴任し、自民党のエリートの一部です。そして、多くの日本人は代替案がないと考えています。それはよいことではないのではないでしょうか。
 :もしよくないことであれば、国民はいつでも政府を代えることができます。日本で政府を選ぶことが出来るのは国民です。そして、新鮮なアイディアをもつ自民党が、この国を統治するために選ばれたのです。ですから、あなた方には「一党支配」に見えるかもしれませんが、日本は複数政党制の国であり、国民は自由に政府を選ぶことができます。実績のある自民党が国民によって選ばれ、国政を担っているのです。イギリスでは政権交代が必要な場合もありますが、それは常に新鮮なアイディアを求めて、というわけではありません。与党は適切に国を統治することができず、国民は代替案を選ばなければならなかったのです。
 自民党は適切に国を統治していると思いますか。政治資金の問題で4人の閣僚が辞任しました。政治資金問題の調査を続いています。あなたの党の多くの議員が関与しているようです。自民党が日本を適切に運営しているとは思えませんが。
 :確かに何人かの国会議員が政治献金の報告を怠っていたのは事実です。日本の政治献金は国会議員が当局に報告する限りは非課税です。それをしなかった議員がいました。ですから、彼らは政府を去ったのです。そこで我々はルールを変更しました。そして、報告を怠った議員の多くは、資金を返還しました。確かにいくつかの過ちはありましたが、それを修正しています。
 :その結果、岸田総理は辞めなければならないと思いますか。彼の支持率は急低下しています。
 :9月に総裁選挙があり、国会議員と自民党員が次の党首(総裁)を決めることになります。
 :あなたは彼に挑戦しますか。
 :これからわかるでしょう(笑)。9月になれば……。
……
 :あなたは自民党がすべての国会議員に政治資金のルールを守らせなかったと率直に語っています。責任がトップに及ぶのであれば、岸田首相はその代償を支払わなければならないのではないでしょうか。
 :岸田総理は報告を怠ったわけではありません。彼はちゃんと報告をしています。
 :でも、あなたの党の総裁ですよね。
 :でも、各議員は自分の申告をする責任があります。誰かが過ちを犯したからといって、その失敗の責任を総理が負うことにはなりません。

 サッカー氏は、世界第2位のGDPを誇っていた日本経済が、バブル後の10年、20年という「再生」のための期間を、ほとんど無為のままに失い、アベノミクスによる株高が大企業と高額所得者を太らせただけで、新技術の創設や雇用の安定につなげられなかったこと、そして今やその負の側面である膨大な債務超過と円安が国民生活に牙を向け始めていることを「間違い」と指摘していると思いますが、質問に対する河野氏の答は、日本経済は「再生」し、経済は世界第3位まで成長した(!)、だから、日本はとても満足している、です。片方は、零落しているという状況が、他方は、成長(上昇)しているでは、まともな議論にはなり得ません。そして、認識としてどちらが的確なのかは明らかでしょう。話題が移るたびに、質問するサッカー氏の嘆息が聞こえてきそうです。
 人口問題に関する応答も凄まじいばかりでした。

 :高齢者が多く、労働人口が減って、納税者が少なくなってしまうという問題は解決できるのでしょうか。実際、日本は毎年50万人も人口が減っているわけですよね。2050年までに日本の人口は1億人を切ることが予測されています。今日の日本では、赤ちゃん用のオムツよりも大人用のオムツの方がたくさん売れていると言われていますよね。こうした人口動態、人口減少の波を変えられない限り、日本の将来は暗いのではありませんか。
 :いえ、必ずしもそうとは言えません。というのは、日本人の平均余命、平均寿命というのはかなり長いんですね。ということで、より多くの人たちが長期間働くことになります。70歳でも働いて、そして社会に貢献しようという方も出て来ているわけです。ただ単に人口が減っているからといって、それが悪いこととは限らないのです。
 :本当に? 本当にそうなんですか。

 いやぁ、これはサッカー氏でなくともびっくりです。河野氏はまだ60代のようですが、70代、80代の高齢者がこの灼熱の炎天下に外で働く(働かざるを得ない)ような社会を「悪いとは限らない」などと言えるものでしょうか。

 最後は台湾問題に関して、中国が台湾への軍事侵攻に踏み切った場合、日本はどう対処するのかという質疑応答でしたが、時間が来たからというのもあるんでしょうが、正直もうばかばかしくて打ち切ったといった風にも見えました。

 河野氏の英語力が実際どの程度のものかは小生には判断がつきませんが、英語を話せば箔が付く――そんな感覚はまだこの国には強いようです。6月に天皇夫妻が英国を訪問し、晩餐会か何かで天皇が英語でスピーチをしたら、NHKはわざわざ画面に「英語で」と字幕(見出し)入りで、これを「偉業」のごとく報じていたくらいですから、びっくりしました。天皇皇后はオックスフォード大学に留学経験のある方々です。これでは持ち上げるつもりで、かえって侮辱していることにならないのか。小生らの世代以上ならともかく、若い人たちの間では英語の壁は昔のように高くはないでしょうし、実際、このBBCのインタヴューのリプを眺めていると、吹き替えなし版の動画を視聴できる人が極少数というわけでもないように思いました。リプ欄には、
 ・「英語でインタビュー対応できるのは凄いけど、言ってる内容は薄っぺらくて大したことないんだよな。これ、河野太郎丸の得点稼ぎのパフォーマンスだろ。」
 ・「国民の大部分がこの番組の存在を知らないのをいいことに言いたい放題。マスコミ、なんとかせぇよ。」
 ・「いよいよ万策尽きてからの英語力アピール。」
というような反応がありました。

 そろそろ、妙な箔付けの「箔」を見破れるようにならないといけない気がします。



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