ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「イズムィコ先生ができるまで」を読んで

 今日は短く。
 ロシアの軍事評論家・小泉悠さんの半生をたどる記事を興味深く読みました。
【小泉悠】「いいところなし」の少年に、「細部から全体像を描く」を教えてくれた人:朝日新聞GLOBE+

 小生が初めて小泉さんを知ったのは、北朝鮮が度々「飛翔体」を飛ばし、TBSの「ひるおび」に出演して、その解説をしていた頃ですから、2010年代の半ばではなかったかと思います。小泉さんの現在の肩書きは「東京大学先端科学技術研究センター特任助教」ですが、当時は「未来工学研究所研究員」でした。その後も、北朝鮮が「実験」をするたびに番組に呼ばれ、その「軍事オタク」ぶりを「披露」していました。軍事に疎い人間が、小泉さんをつかまえて「軍事オタク」などと称すること自体無礼な話ですが、他の軍事評論家の話だったら聞き流すはずが、なぜか、小泉さんの話は、通にしかわからない(さしあたって小生には必要のない)ようなレベルの話にも、耳を傾けてしまう妙な感じがありました。それが機縁で、自分にはハードルが高いのを承知で、何冊か著書を読み始めたのです。

 小泉さんは千葉県松戸市の六実の出身ということですが、これにもオッと思いました。松戸は、田畑や野山ばかりのうちの田舎とはちがって、東京のベッドタウンですが、親類縁者が住んでいるので、何となく近しい感じがあります。それに、「六実」というのは、明治政府が行った下総台地の牧の開墾でついた名前です。「初富(鎌ケ谷市)、二和、三咲(船橋市)……以下」、昔、開墾された順番に地名がつけられたと人から教えられ、「目からうろこ」だった記憶があります。その六実が、下総基地に近く、自衛隊員と接する機会があったことは、小泉さんの興味関心に少なからぬ影響を与えたはずです。

 小泉さんの話では、軍事に夢中になったり、自衛隊員と仲良くなるのを、両親はあまりよく思っていなかったようです。いくら基本的に子どもに干渉をしないといっても、市民会館で原爆展を開くような親です。何かのきっかけで価値観のちがいが露わになり、時折衝突が起こったりすることはあるでしょう。記事にはこうありました。

「両親とはさんざんもめました」
だが、両親との確執は、独特のバランス感覚とさまざまな素養を養うことにもなった。
意見の異なる相手にどう耳を傾け、どうしたら納得してもらえるのか。自分のやっていることを両親に説明しようと必死で考えるうちに、相手の知識や関心に目線を合わせつつ説得力をもって話す力が、自然と鍛えられていったのだろう。
「いまも日本の安全保障について考える時には、まず両親の顔が浮かぶ。あの人たちをどう説得すればいいだろうかと、考えるわけです」
議論のための批判や反論をする人を「悪魔の代弁人」という。小泉さんは「僕にとっての『悪魔の代弁人』は両親だった」と振り返る。

 小泉さんと両親が偉かった、というか、よかったのは、「説得」という言葉が出てきたように、確執を避けたり、ごまかしたり、あるいは、力や感情の衝突のような処理に委ねずに(あったかも知れませんが)、言葉のやりとりに収斂させたことだと想像します。これはひとつの「文化」でしょう。しかし、「文化」が違えば、確執はいくらでも暗転します。具体的なやりとりまではわかりませんが、それを「安全保障」という題材でできたことが大きかったと思います(皮肉?な感じもしますが)。小泉さんの話に、軍事の素養というハードルがあるのに、何となく耳を傾けてしまうのは、このためかもしれません。

 大学卒業と就職を控えた時期についても、親戚を表現した「……謎の安定感」という言葉には笑ってしまいます。

……学業のほうは、安全保障を学ぼうとしたがぴったりのゼミがなく、入ったのは平和学のゼミだった。卒業の時期を迎えても、その後どうするのか、展望はほとんどなかった。
「身近にサラリーマンがいないから、会社って何をしているところかもわからなかった。職業的な想像が働かなかった」
たしかに、小泉さんの親類を見渡すと、教員だった父親以外、サラリーマン生活をしている人はほとんどいない。一度は勤めても、フリーになる人が多く、母方の兄弟はみな児童文学の世界にいた。
「親戚はかなりアナーキーな人たちで、最悪、死ななけりゃいいという、謎の安定感があった」と笑う。

 小泉さんは学校時代は「パッとしなかった」と振り返っています。もちろん、何かで表彰されたり、リーダーとして一目置かれるような存在ではなかったかも知れませんが、それが逆に、稀少な知性を育てたようにも思えます。それは、もちろん本人の資質と人間性があったればこそですが、それだけではありません。世の奥の深さを改めて感じます。今後ともご活躍を祈りたいです。




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