ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

安倍氏国葬とその先

 「PRESIDENT Online」の記事を2つ。
 1つめは、『国葬の成立』(2015年)という著書がある歴史学者の宮間純一氏のもの。過去の国葬の事例を引きながら、安倍氏国葬にするつもりの現政権の意図を考察する内容です。氏は、まず、大久保利通の葬儀と比べています。「維新の元勲」大久保利通は、1878年明治11年)5月14日に暗殺され、その3日後の同月17日に、大規模な葬儀がとり行われました。大久保の邸に集まった者1,200名近く、費用は当時の額で4,500円余り(私的な計算では、米の値段(価値)で換算して現在のお金で1億9千万くらい)なので、「国葬(級の葬儀)」だったと解されます。氏はこう書いています。引用をお許しください。

撃たれて死んだことは理由にならない…「安倍元首相の国葬」に国葬の専門家が「やるべきではない」というワケ 国葬はむしろ「民主主義の精神」と相反する制度 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

暗殺された大久保利通が「国葬」となった理由
国葬とは、国家が主催し、国費をもって実施する葬儀のことをいう。
日本では、天皇・皇太后などのほか、明治以降1945年までの間、天皇の「特旨とくし」(特別な思し召し。)によって「国家ニ偉功アル者」の国葬が行われていた。国葬の初例は、1883年に行われた岩倉具視の葬儀だが、制度こそなかったものの1878年大久保利通の葬儀は国葬に準ずる規模で催された。
大久保は、5月14日に石川県士族島田一郎らに暗殺され、そのわずか3日後には葬儀が盛大に行われた。かつてないほどの大がかりな葬儀を、なぜこれほどまでに急いで実施しなければならなかったのか。暗殺されたのだから事前の準備はない。
葬儀を主導したのは、大久保の後継者として内務卿に就いた伊藤博文と、大久保と同じ薩摩藩出身の西郷従道大山巌らである。彼らが心配したのは、政府の最高実力者であった大久保が不平士族の手にかかって落命したことで、反政府活動が活発化することであった。前年には、西南戦争があったばかりで、不平士族はもちろん、自由民権派の活動などへも政府は警戒を強めていた。明治政府は、この段階ではまだまだ盤石ではなかった。

安倍政権の評価を固めるためではないのか
そこで、伊藤たちは、天皇が「功臣」の死を哀しんでいる様子を、大規模な葬儀という形で国内外に見せつけようとした。葬儀を通じて、天皇の名の下に島田らの「正義」を完全否定し、政府に逆らう者は天皇の意思に逆らう者であることを明確にした。大久保の「功績」を、天皇の「特旨」をもって行われる国家儀礼で揺るぎないものとし、それによって政権を強化しようと葬儀を政治利用したのである。
そしてこの葬儀は、一般の人びとを巻き込んで執行された。かつてない規模のセレモニーを一目見ようと人びとが集まり、葬列はさながらパレードのような状態となった。
私には、伊藤たちの思惑が岸田首相の発言と重なった。表面上は、民主主義を守ると言っているが、多数残されている安倍元首相の疑惑を覆い隠し、安倍政権の評価を固めて自民党政権を守ろうとしているのではないか、と。

 安倍氏の葬儀も一大セレモニーにするつもりでしょう。しかし、戦後唯一の「国葬」だった吉田茂の葬儀のときがそうだったように、今回も、かりに9月の末に「国葬」が行われても、関心を示さない人、反対する人は多いはずです(7月19日のNHK世論調査では「国葬」を「評価する」49% 「評価しない」38% です)。
 吉田葬儀の新聞記事によれば、……浅草六区では黙祷の合図のサイレンがなっても誰も足を止めない。東京駅でも、スピーカーで黙祷の合図が知らされたが、足を止めて目を閉じたのはごくわずかであった。銀座の女子高校生は黙祷している人をみて「あれ、なにやってるの」と言う始末だった……(『朝日新聞』1967年10月31日夕刊)ということで、部分的には半世紀前と同様の光景も予想されます。しかし、右へならえの同調圧力は今の方が強いでしょうから、テレビなどメディアを総動員すれば、国民の異議や反対の声を押し流せると政権は考えているでしょう。その声の中には統一教会安倍氏自民党の癒着に対する不快感や抗議も当然含まれています。

 9月末のこの「国葬」が終わった後は、どうなっていくのか。それが2つめの記事です。ジャーナリストの鮫島浩さんが、安倍氏なき後の自民党にこれから何が始まるのかについて書いています。安倍・麻生二大巨頭の蜜月関係は、実は岸田政権成立によって事実上終わっていたとして、氏はこう記しています。これも引用をお許しください。

友人としての弔辞は感動的だったが…安倍氏不在の自民党を支配する麻生氏がこれから始める"恐ろしいこと" 優先されるのは「安倍氏の悲願」より「財務省の悲願」 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

安倍派をしのぐ「大宏池会」の夢
霞が関の秩序もガラリと変わった。安倍政権は霞が関の主流であった財務省や外務省を首相官邸から遠ざけ、傍流とされてきた経産省警察庁を重用した。財務省はこの間、麻生氏を前面に押し立てて官邸からの風圧をしのぎ、紆余曲折をたどりながらも消費税増税を二度実現させた。
安倍政権から菅政権にかけて財務相を9年近くも務めて「財務省の用心棒」となった麻生氏が後ろ盾となる岸田政権が誕生して財務省は完全復権官房副長官には岸田派ホープ財務省出身の木原誠二氏が就任し、主要官庁から送り込まれる首相秘書官(事務)6人にうち財務官僚が2人を占めるという異例の財務省支配が確立した。そもそも岸田派(宏池会)は池田勇人大平正芳宮澤喜一財務省(旧大蔵省)OBを中心に受け継がれてきたハト派の老舗派閥であり、財務省と親和性が極めて高い。
麻生氏には野望がある。祖父・吉田茂の直系である池田勇人が創設した老舗派閥・宏池会を源流とする麻生派、岸田派、谷垣グループを再結集して「大宏池会」を再興し、清和会(安倍派)をしのぐ最大派閥として日本政界に君臨することだ。小泉政権以降の清和会支配に終止符を打ち、宏池会時代を打ち立てる麻生氏の野望を安倍氏が気前よく受け入れるはずはない。

向かうところ敵なし
麻生氏は慎重に事を運んだ。参院選前に安倍氏との党内抗争が勃発して自民党議席を減らせば元も子もない。そこで参院選までは安倍氏の顔を立て、その持論である憲法改正や防衛費増額を前面に掲げて党内融和に腐心した。しかし参院選が終わった後の党役員・内閣改造人事では清和会の福田氏を財務相に抜擢するなどして安倍氏の影響力をさらにそぎ、二大巨頭の最終決戦にケリをつける――そう腹を固めていた。
その矢先、安倍氏が予期せぬ凶弾に倒れた。二大巨頭の一方が突然消え失せ、麻生氏は党内闘争を仕掛けることなく唯一のキングメーカーとして君臨することになったのだ。自民党参院選に圧勝。安倍氏亡き今、向かうところ敵なしである。
「麻生氏は安倍氏を手厚く国葬して安倍支持層へ礼節を尽くすでしょうが、その後は安倍色の強い政治家や官僚を一掃して麻生体制を盤石にしていくでしょう。国葬はそのためにも必要な通過儀礼です。安倍氏を失った清和会が分裂の危機を迎え、大宏池会の再興に待ったをかける力はありません。政界、財界、官界、マスコミ界の麻生詣では激しくなるでしょう」(宏池会関係者)
麻生氏が政局では大宏池会の再興に突き進むとして、国民にとって重要なのはキングメーカーとなった麻生氏がどんな政策を推し進めるかだ。

安倍氏の悲願、憲法改正には消極的
参院選で自民、公明、日本維新の会、国民民主党改憲4党が発議に必要な3分の2を確保した以上、安倍氏の悲願である憲法改正に突き進むのか――。実は麻生氏や岸田首相に近い宏池会財務省からはそのような声はほとんど聞こえてこない。
「2025年まで国政選挙が予定されていない『黄金の3年間』に入ります。せっかくの時期に憲法改正に手をつけると、岸田政権は全エネルギーを改憲4党で具体的な改憲案を合意することに注いで消耗するでしょう。発議に持ち込めても国民投票で勝つ保証はない。国民投票で否決されたら内閣総辞職は避けられません。そのようなリスクを背負い、改憲の成否と心中するつもりは麻生氏にも岸田首相にもありませんよ」(財務省OB)
参院選改憲を掲げたのは安倍氏の顔を立てたにすぎない。もはやその必要がない以上、「黄金の3年間」を改憲論議に費消するのはもったいない――というわけだ。
麻生氏が改憲論議に消極的なのには政局的な意味もある。憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要で、自公与党だけでは不可能だ。改憲を政権の最優先課題に掲げたとたん、維新と国民の両党に協力をお願いし、事実上の与党として遇しなければならない。維新や国民はそれを狙って改憲論議を訴えている。その誘いに乗らず、改憲にさえ手を出さなければ、気を遣うのは連立相手の公明党だけでいい。
「麻生氏は維新が大嫌いです。小泉政権で激しく対立した竹中平蔵氏の影響を受けていることも気に食わないし、安倍政権で対立した菅義偉前首相と松井一郎代表がじっこんであることも不愉快です。維新は存在感を増すために改憲論議を声高に訴えるでしょうが、そうなればなるほど、麻生氏は『わざわざ維新に花を持たせて居場所をつくってやることはない』と改憲論議から引くでしょう」(財務省OB)……

「黄金の3年間」を見逃すはずがない
安倍氏の悲願が憲法改正ならば、岸田政権で完全復権した財務省の悲願は消費税増税である。……
財務省を遠ざけた安倍氏が退場し、財務省の用心棒である麻生氏が君臨する岸田政権は、消費税増税を進める千載一遇の好機である。しかもこの先は国政選挙が予定されていない「黄金の3年間」なのだ。財務省がそれを見逃すはずがない。
24年秋には自民党総裁選がある。それが終われば衆院議員の任期は1年を切り、25年の参院選とあわせて選挙一色になる。消費税増税を実現するとしたら24年の通常国会がタイムリミットだ。
麻生―岸田体制の下で多少強引でも消費税法改正を急ぎ、岸田政権の支持率が急落すれば24年秋の総裁選で宏池会ナンバー2の林外相にバトンタッチして体制を一新し、解散・総選挙になだれ込めばいい――宏池会関係者の間ではそんなシナリオもささやかれている。……

 さながら、安倍氏の葬儀は清和会のメンツのためにやってあげているような印象です。終われば清和会の分裂は必至でしょう。……その後、消費税率を上げられる政治状況になっているかどうかはわかりませんが、こんなシナリオの上に安倍氏国葬がのせられていることを知ると、死者さえも利用する政治の冷徹さを感じないわけにはいきません。

 それにしても、このキングメーカー、不見識な失言・暴言をいつまで放置しておくのか、いいかげんに退場させないといけないと思います。今朝の毎日新聞の「余録」で紹介されていた、ジョンソン英国首相の後任候補の一人であるリシ・スナク前財務相は、父がケニア、母がタンザニア生まれのインド系で年齢は42歳です。対抗馬のリズ・トラス前外相も40代の女性です。何という彼我の違いでしょう。「……おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う、って言ってやるとみんな絶句して黙る」――こんなセリフ、英国民にはとても聞かせられませんが、もし、耳にすれば、きっと得意の痛烈なジョークで返してくることでしょう。「おかしいなあと思って、日本の最新の民度計とかいうのを調べたら、中から真空管が出てきて、びっくりしたよ」とか……(笑)。
余録:動物作家、戸川幸夫さんの小説「人喰鉄道」は… | 毎日新聞




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