ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

島田雅彦さんの叙勲

 作家の島田雅彦さんが昨日(4月28日)春の叙勲で紫綬褒章を受けたことを知りました。少し驚きました。
 小生の狭い知見の限りでも、島田さんが「学問や芸術分野で功績を残した人」というのは全くそのとおりだと思います。ロシア語つながりの親近感?もわいて(これはあとで気づいたことですが)、島田さんが書いたものは、たとえば『ヒコクミン入門』など、小生個人としてはとても共感しながら読みました。しかし、それらを政府が「功績」と讃え、公認するとは思っていませんでしたし、そもそも島田さん自身、そういう政府の公認をよしとする人だという認識はありませんでした。

 国が行う表彰の類いというのは人によっては「罪づくり」な感じもします。もちろん嫌なら断ればいいわけで、実際、イチロー選手は国民栄誉賞を2度も打診されて、それでも受けませんでした。島田さんにも正式発表前に当然打診はあったはずで、「お受けします」と答えてから、さて、小生らのような受章を素直に喜んでくれなさそうな人たちに向けてどんな釈明をしたものかと、考えてきたと思います。他の文学賞の類いだったら、こんな「謝罪?」みたいな釈明をすることもなかったでしょう。そういう意味では気の毒です。
 島田さんは言葉を選びながらこんなふうに答えていました。日テレの動画から引用します。

「言論の自由、手放さない」 作家の島田雅彦さんに紫綬褒章

 (自分は)これまでもわりと政治批判というか、体制批判とかいうことで、どちらかというと、正統よりは異端、体制派よりも反体制側、という感じでやってきたこともありますし、忖度とか自粛というのが苦手で、わりと書きたいように書いてきたという……これまでの私の態度に、(今回の受章は)それなりの「励まし」(笑)というか、背中を押してくれる感じと、とてもありがたく受け止めております。
 先輩方が、お前、何でそんな賞をとって喜んでるんだとか(笑)、あの世からお叱りを受けたとしたら、何と言い訳するかと。……今、世界的な傾向として、日本に限らず、中国やロシアもそうですが、どこでも言論に対する多少の圧力というのを書き手はみんな感じているはずであって、その中で引き続き言論・表現の自由というものを自分から手放さないように追求していくということを考えた場合、このようなチャンスに、自分はそういう怪しい者ではないと、言論の自由を追求しているだけだということを、褒章をもって証明することになるのではないかと。まあ言葉は悪いですけど、褒章をもらってるんだから、私の言論にとやかく言うなと(笑)……というような態度がとれるのではないかと、そういうふうに説明したいと思います。

 この20年間で紫綬褒章を受けた作家・脚本家で、小生が名前を知っている人たちを列挙してみます。
渡辺淳一(2003年)、市川森一(2003年)、阿刀田高(2003年)、佐野洋子(2003年)、塩野七生(2005年)、宮城谷昌光(2006年)、つかこうへい(2007年)、池澤夏樹(2007年)、高樹のぶ子(2009年)、宮本輝(2010年)、北方謙三(2013年)、浅田次郎(2015年)、桐野夏生(2015年)、伊集院静(2016年)、三谷幸喜(2017年)、夢枕獏(2018年)、林真理子(2018年)、川上弘美(2019年)、岡田惠和(2019年)、井上由美子(2020年)、多和田葉子(2020年)……
紫綬褒章の受章者一覧 - Wikipedia

 この中に島田さんの名前を並べても特に違和感はありません。しかし、島田さんは苦笑交じりに「釈明」を迫られる。それは、選ぶ側からすれば、どんなに「功績」があろうと、出したくない人には絶対に出さないからでしょう。だから、島田さんの言う「言論・表現の自由」が、実は「急所」を外しているのではないかという疑念をもたれてしまう(実際、そういう指摘を目にしましたが、小生にはその評価が妥当かどうか判断できませんでした)。やはり「不幸」な感じは否めません。

 でも、いいんじゃないかなと思います。「在野」がこれだけ削られて、非「与党」的な声を上げる人がどんどんと隅に追いやられている状況下で、今の政府(上のインタヴューで島田さんは「政府…」と言いそうになって「政治」と言い直したように見えましたが)に本気で疑問や異議を唱えようとすると、どれだけ気力と労力を要するか(些細なことですが、田舎で9条改憲反対の署名を集めるのでさえ妙な圧迫感があります)。島田さんには、紫綬褒章を逆用し、「怪しい者」ではないから、話を聞いてもらえるという戦術?を駆使して、今後も大いに発信を続けてもらいたいと思います(小生には正直「綱渡り」的な感じもありますが)。その上で、今回は言及しなかっただけで、自分と同様に他者の言論の自由が侵害されたときには、今までと同様、一緒に批判・告発に加わってくれることを心から願います。言論・表現の自由を「自分から手放さないように」というのはそういう意味だと信じたいです。




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