ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

子どもと若者の性教育のこと

 ネットの記事を眺めていて、あとで読もうと思い「拾って」おいた「性教育」の記事(論考)を昨日読みました。フェミニズム研究者の清水晶子さんによる、昨年、2021年3月2日付の記事です。
日本の性教育の転換期に考える、真にヘルシーな性教育とそれがもたらす効果。【VOGUEと学ぶフェミニズム Vol.10】 | Vogue Japan

 読んでみて、性教育も人権教育であり、その出発点は自己決定権だという趣旨の話と理解しました。異論というほどのことはないのですが、何か釈然としない感じも残りました。

 Twitterでこの記事を取り上げていた医師の岩田健太郎さんは、

「…自分が嫌だったらセックスしなくて良い「権利がある」と声高に主張するのではなく、相手が嫌がってたら無理強いしないのが素敵なセックスのあり方だ、と教えてあげるべきなのです。軸の持ち方が間違ってる、根本的に。
 普通、人権教育は「他者」が軸になります。自分ではない他者を認める、それが「多様性」の尊重になります。人権教育がいきなり自分語りをすることは稀有なのです。もちろん、ゆくゆくは自分に戻ってはくるのですが。
 性教育は一人称ではなく、三人称(評論)でもなく、二人称で。と、思いました。…」

と異論を述べておられます。なるほど、と思いました。
https://twitter.com/georgebest1969/status/1480474612299300864

 たとえば、清水さんの記事の中にはこうあります。

性教育とは性に関する医学的な事実だけを教えるわけではありません。それと同時に、自分の性をどのように受け止め、他人の性をどのように尊重するのか、性的交渉を持つときにはどのように合意をとるのか、そして自分とパートナーとの安全をどのように守り、予想外のことが起きたときにどのように支えあうのか。性を教えることには、そのすべてが含まれてきます。
 それぞれの人が自分の性と再生産に関して自分で決定をする権利、そして性と再生産に関わる健康を損なわれない権利を有している。これが性教育の出発点です。

 上の段の文は、おそらく最近耳にする「包括的性教育」のことを念頭においているのでしょう。今、国際的に推進され、日本でも知られるようになった教育プログラムです。端的に言えば、上段の文は、性教育は性の共同性や倫理をベースにしていろいろなアプローチをとるべきだという話だと思います。他方、直後の下段では、(でも)性教育の出発点(基本)は自己決定権におくべきだ(これは譲れない)という話です。
 確かに「産めよ増やせよ」にしろ、「一人っ子」にしろ、子どもを産む産まないを国からとやかく言われるのは大きなお世話ですし、こういうのを批判的に捉えてきたフェミニズムの歴史からすれば、性教育においても「自分が決める」ことを基本に据えるべきだというのもよくわかります。
 しかし、互いの尊重という上段と、自己の尊重(自己決定権)という下段はちがう話ですから、すんなりとは結びつきません。岩田さんが違和感をもたれるのはこれと関係していると思いました。

 加えて言うならば、この「性の自己決定権」、どの学齢を想定しているのかわかりませんが、少なくとも、小中学生については、「自己決定」よりも「自己防衛」や「保護」の方が先に立つことにならざるをえないと思います。小中学生の性被害は、小生が学校にいたむかしに比べても、さらに「恒常」化している印象があります。被害が差し迫っている子どもに(あるいは、現に被害に遭っている子どもに)、権利があるのだから嫌なことは嫌と言っていいという話が、どれだけ可能で説得力があるのかは疑問です。

 この点では、岩田さんが

 性教育は「性」という文脈で、人を愛することがどのくら素晴らしいことか、それを伝える応援歌じゃなければならない。いきなり脅しをかけるのではなく。
僕は以前から学校教育で健康の教育と、お金の教育が足りてないと主張してます。性教育は健康教育に含まれます。お金の教育は重要ですが、「周りは悪人ばっかで、いかにお金を騙し取られないかが大事、自分の財産を守り抜く方法」みたいな文脈で教えられたらうんざりすると思いますね。

 と、Tweetしています。これも岩田さんをうんざりさせてしまいますが、残念ながら現状では子どもたちに対して「脅し」をかけざるをえないし、周りに「悪人」がいる危険については警告を発し続けなければ、子どもたちを守れない現実があります。

 これは少子化対策などもそうですが、政策的課題の方が大きいと思います。まず、こうした権利を子どもが行使できる、周りも認めて子どもを守れる状況をつくらなければなりません。たとえば、飲酒運転のように厳罰化によって性被害も減らせるのだったら、法制化も、やむを得ないけれど選択のひとつかもしれません。
 しかし、肝心の国が問題で、たとえば文科省などは、2015年に問題になりましたが、発行した性教育の副読本に「22歳を過ぎると急激に妊娠しにくくなる」などというまったく根も葉もない嘘のデータを掲載して、性教育少子化対策の道具にしたりします。国政に信がおけず、環境整備のためのまっとうな政策が期待できないのは大きなネックです。

 ジェンダー課題解決の活動をしている国際NGOのプラン・ユースグループが昨年6月に公表した「ユースから見た日本の性教育の実態調査報告書」を拝見しました。
https://www.plan-international.jp/youth/pdf/0630_Youth_Report_01.pdf

 これによると、現代の日本の子どもと若者の性に関する社会問題は山積していて、中でも人工妊娠中絶は一昨年の2019年で15万6,000件を超え、そのうち24歳未満の中絶件数は5万2,483件と、全体の約3割を占めています。この件数には愕然とします。子どもや若者がいかに社会からサポートを受けていないか、守られていないかの証左だと思います。

 政治がダメだからNGOが動いて、それを政治が追認するだけ――「子ども食堂」と同じで、こういうのは政治が取り組まなければならないことです。本当に何とかしないといけません。話がやや拡散しましたが…。



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