ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

武蔵野市の住民投票条例案のこと

 昨日12月13日、東京・武蔵野市で外国籍の住民も住民投票が可能となる条例案が市議会の総務委員会で審議され、賛成多数で可決した。ポイントは、外国籍の住民も日本国籍の住民と同様、住民基本台帳に3ヶ月以上登録されていれば投票資格があるということ。21日の本会議で成立すれば、逗子市、豊中市に次いで全国で3例目になるとのこと。

 基礎データを調べると、武蔵野市は今年1月1日現在で人口14万7,600人余(世帯数77,854)。うち外国人住民は11月現在で3,103人(人口比2.1%)。内訳は、中国が1,078人(34.74%)でダントツに多く、以下、韓国・朝鮮507人(16.34%)、米国215人(6.93%)、ネパール193人(6.22%)、台湾168人(5.41%)、ヴェトナム
118人(3.80%)、フィリピン103人(3.32%)、英国80人、フランス54人、…などとなっていて、国の数は78カ国に及ぶ。
http://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/034/857/gaikokujin202112.pdf
http://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/034/857/suii202101.pdf

 税金を納めていないのに行政サービスを受けたり利用したりしたらズルいタダ乗りだが、税金を徴収しながら市が行政サービスの資格を認めなかったり、その対象から除外したりしたら差別である。こう考えると、外国籍の住民に投票権を認めないのは「差別」ということにならないか。だから、国政選挙権のことはひとまず措くとしても、同じ住民で、税も納めている人に対して、外国籍を理由に住民投票の権利を認めないとしたら、それは無理があると思う。今年の3月には無作為抽出の市民アンケートが行われ、回答率は25.5%と低かったが、そのうちの73.2%の人が外国籍住民の投票に賛成もしている。
http://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/031/051/anke-tokekka.pdf

 しかし、昨日の「外国離れ」「日本離れ」の続編(あるいは各論)かと思えるが、ここに来て反対論・慎重論を掲げる側の巻き返しが急となっている。議論はけっこうだが、「武蔵野市を外国勢力に乗っ取らせる為の条例」などという物言いは被害妄想も甚だしい。人口2%の「外国勢力」がこれを橋頭堡にして武蔵野市を、ひいては日本を「乗っ取る」と本気で考えているのだろうか。加えて、威圧的な街宣や個人攻撃…。こうした方々は、陰謀論めいた主張をがなり立てる前に、まず、日本に住んで一緒に生活していて、不自由な思いをし、人としての尊厳を踏みにじられ、仲間とみなされない、傍らにいる(はずの)外国人と話をしてみてはいかがかと思う(無理かも知れないが)。

 12月11日付朝日新聞の記事より。

武蔵野市の外国人も住民投票案、10年前の伏線 「標的に…」 [フカボリ]:朝日新聞デジタル

市役所周辺で大音量の街宣車
 「民意そのものがゆがみかねない」。同市を含む選挙区が地盤の長島昭久衆院議員(自民)が9日朝、JR吉祥寺駅前でこう訴えた。自民系会派の市議も条例案への反対を訴えた。自民系会派代表の小美濃安弘市議は「条例案を出し直させたい」と話す。
 条例案はその都度、条例を定める「個別型」でなく、投票資格者の4分の1の署名があれば議会の可決なしに実施できる「常設型」。市長・議会の「二元代表制」を補完する意義がある。13日の市議会総務委員会で採決される。
 反対派が問題視するのは、18歳以上で市の住民基本台帳に3カ月以上続けて登録されている者という参加要件に外国籍住民が含まれている点だ。市長選などでの参政権がないのに住民投票に参加を認めれば、民意がゆがむというのだ。
 長島氏は「外国籍の住民は少なくとも3年以上、市内に住む人という要件は必要」と訴える。議論が不十分だとして「拙速だ」とも批判している。

 松下玲子市長は「条例案は多様性を認める社会につながる」と意義を強調する。「拙速」との批判には市は数年前から議論を重ねていると反論する。今年3月のアンケートでは外国籍の住民を投票資格者に含めることに73・2%が賛成だった。

 保守色の強い自民党国会議員らでつくる団体は9日、「外国人参政権の代替になり得る」として反対する声明を発表した。
 さらに、市役所周辺では街宣車が大音量で反対を訴え、排外主義的な団体も「自治体乗っ取り条例」などと声を張り上げてきた。一方、賛成派は愛敬浩二・早稲田大教授や上野千鶴子・東大名誉教授らが名を連ねた声明を11月に発表し、「威圧的な宣伝や脅迫まがいの行動が跋扈(ばっこ)している」と指摘。外国籍住民の声が反映されれば「地方自治を深化・発展させる」と強調している。
 市内の男性(35)は「こういう制度がなければ外国籍の方が意見表明する場はない。むしろ必要な制度」と話す。パート勤務の女性(64)は「長く住まないと地域のことは分からない」と反対だった。

類似条例は約40自治体、同種は2自治
 武蔵野市によると、外国籍の人が住民投票に参加できるのは約40自治体。「在住期間3年以上」など条件を設ける自治体もあるが、2006年施行の神奈川県逗子市と09年施行の大阪府豊中市武蔵野市と同じ条件で認める。
 武蔵野市住民投票条例案は、自治基本条例に基づく。自治基本条例は、自治体運営の基本理念などを定め、地方分権一括法が施行された00年以降、全国で制定が相次ぎ、名称は各地で町づくり条例など異なるが、約400自治体が定める。
 だが、野党時代の自民党がその動きにブレーキをかけた。11年、「国家の否定が根底にある条例」とする資料を都道府県連に配布。憲法改正をめざす日本会議も同調。自民党のプロジェクトチームの参謀役だった八木秀次・麗澤大教授(憲法)は「それ以降、潮目が変わった」と語る。制定阻止の運動が盛り上がる中、自治基本条例やそれを元に住民投票条例を作る動きは鈍化した。沖縄県石垣市議会が6月、自治基本条例から住民投票の条項を削除するという動きも起きた。それだけに、日本会議のメンバーは自治基本条例に基づく武蔵野市住民投票条例案の動きを知り「なぜ、今頃」と感じ、制定反対の意見を同市に届けるよう周囲に呼びかけたと明かす。
 明戸隆浩・立教大助教(多文化社会論)によると排外主義的な団体による自治基本条例への反対も約10年前から活発化しており、「他の自治体の動きが沈静化していた中、武蔵野市条例案を提出し、標的にされてしまった」と話す。
 それでも、各地の条例制定のアドバイザー役を務めてきた小原隆治・早大教授(地方自治)は自治基本条例の重要性を説く。条例策定時は「参加と協働」が盛んに言われた。右肩さがりの時代、行政ができない部分は市民がやっていく必要性が出てくる。「様々なバッシングはあるが、市民参加のルールの根幹を作った条例が大事であることは変わりない」

山元一・慶大教授(憲法学)の話
 外国人参政権の代替になり得る」という反対派の主張は論理が飛躍している。憲法はたしかに国政選挙での選挙権を日本国籍のある人に限っているが、市長や市議を選ぶ選挙権を外国籍の住民に与えることは禁じていない。住民投票でも同様だ。投票を認める外国籍の住民の要件について「自治体との特段に緊密な関係を持つ人」との裁判例はあるが、「3カ月以上在住」がただちに問題だとはいえないだろう。外国籍の住民にどこまで投票権を与えるか、各自治体が判断すればよい。それこそが憲法の保障する住民自治だ。

 先月の政治学者の水島朝穂さんの解説も勉強になった。
直言(2021年11月29日)武蔵野市住民投票条例の何が問題なのか──憲法蔑視の荒野

 12月14日付「論座」の武田真一郎氏の解説も。
武蔵野市住民投票条例への反対論に理はあるか?~4つの観点から考える - 武田真一郎|論座 - 朝日新聞社の言論サイト




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