ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

シャンシャン(香香)と対中外交

 今年双子の弟妹が生まれてお姉さんになった(日本的な物言いかも知れないが…)上野動物園ジャイアントパンダシャンシャン(香香を久しぶりに映像で見た。2017年6月に生まれたので、もう4歳ということだが、ずいぶん大きくなっていた。母親の後ろをちょこまかと追いかけていたシーンが懐かしくもある。中国との協定により、今年の5月をもって中国に返還されるはずだったが、新型コロナの流行により、今月末まで返還が延期されていた。それが今朝のニュースでは、さらにまた半年の延期になり、来年6月まで居られることになったという。中国側の「厚意」に感謝しつつも、コロナを理由とした2回目の延期に、何やら小さな外交カードの気配を感じないではない。 

 昨日、アメリカは中国の人権問題を理由に北京冬季五輪パラリンピックの「外交的ボイコット」を発表した。ロイター伝によれば、オーストラリアのモリソン首相も、これに追随し、北京五輪に閣僚などを派遣しないと述べたという。日本はどうするのか。岸田首相は政府の対応について「オリンピックの意義や我が国の外交にとっての意義を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断する」と言っている。一国の首相が「国益の観点」から判断するのは当たり前過ぎるが、ことさら「国益」という語を持ち出して伏線をはり、「自らの判断」を擁護しないといけないような、何か収まりの悪いことでもあるのか。

 たとえば、(何度でも書くが)「持病の潰瘍性大腸炎が再発し、国民の負託に自信をもって応えられる状況ではなくなった」という理由で1年3ヶ月前に総理大臣を辞任したアベ元首相は、12月1日、台湾の「國策研究院」での基調講演で「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言し、いたく中国(北京政府)側を刺激したが、同時に、この講演、当人は台湾を擁護したつもりになっているが、主催した台湾(台北政府)側からはまったく歓迎されていないのだという。その理由を中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は、こう解説している。
 12月6日付Yahooニュースより。

安倍元首相オンライン演説を台湾はなぜ歓迎しないのか?(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース

◆安倍元首相の講演を報道しないようにする台湾
 12月1日午前、台湾の民間シンクタンク「國策研究院」で安倍元首相(以下、安倍氏)は「新時代の日台関係」というタイトルで基調講演を行った。
 日本では安倍氏が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と言ったとして非常に大きく取り上げられ、手柄として礼賛されている。
 ところが肝心の台湾では報道しないようにしているだけでなく、むしろ批判が目立つ。

<中略>

◆台湾はなぜ安倍氏を軽視したのか?
 なぜ安倍氏が、このような扱いを受けるのかに関して、本来なら日本は強い関心を示さなければならないが、この実態を報道する日本メディアは(筆者がこの時点で知る限りでは)一つもないように思われる。日本では一斉に口をそろえて安倍氏が演説で「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と言ったことや習近平を名指しで批判したこと、あるいは中国大陸の外交部が激しく抗議したことなどだけを報道している。
 ところが現実はまったく異なる。
 たとえば、台湾野党の国民党は安倍氏の講演に関して「許せない」と抗議しているのである。
 なぜ許せないのか?
 それは安倍氏尖閣諸島などを「日本の領土」と言ったからだ。
台湾では尖閣諸島などを「釣魚台列嶼」と称しているが、これを「中華民国の領土」と宣言していることは、国民党だろうと民進党だろうと変わらない。台湾は「中華民国」として尖閣諸島などを「中華民国の領土」と強く主張している。
 したがって国民党は安倍氏の講演が終わるとすぐに台湾外交部に「領土主権への侵犯は絶対に認めることができない」と強い抗議を表明したのである。
 政権与党の民進党政権としても同じこと。
 安倍氏の講演を肯定などしたら、台湾全市民の抗議を受けて政権交代するところにまで追い込まれる可能性がある。だから「安倍晋三」の名前を全て消し、彼の講演に関しても「なかったこと」にするしかないのである。

安倍氏の講演の実際の言葉
 では安倍氏は実際には何と語ったのか、…

 台湾の周辺には、と言いますとこれは、尖閣諸島、先島、与那国島など、日本の領土領海にはと言っても同じことですが、空から、海上、海中から中国はあらゆる種類の軍事的挑発を続けていくことも予測しておかなくてはなりません。
 では日本と台湾はどうすべきでしょうか?
 台湾が取るべき政策に関して何かを言うつもりはありません。
 ここでは一点、自由と民主主義、人権と法の支配という普遍的価値の旗を高く掲げて、世界中の人からよく見えるよう、その旗をはためかせる必要がある、とだけ申し上げます。日本と台湾、ともに進みましょう。
 民主主義は、人のこの自発的なコミットメントを求める制度です。上から権力ずくで強制するものではありません。民主主義はだから、強い。私はそう考えます。
 次に中国にどう自制を求めるべきか、そこをお話しいたします。
 私は総理大臣として、習近平主席に会うたびごとに、尖閣諸島を防衛する日本の意思を見誤らないようにと、言いました。
 その意思は確固たるものであると明確に伝えました。
尖閣諸島や、先島、与那国島などは、台湾からものの100キロ程度しか離れていません。台湾へ武力侵攻は地理的空間的に関わらず、日本の国土に対する重大な危険を引き起こさずにはいません。
 台湾有事それは日本有事です。すなわち、日米同盟の有事でもあります。
 本点の認識を、北京の人々は、とりわけ習近平主席は、断じて見誤るべきではありません。…

 安倍氏は3カ所ほどにわたり、「尖閣諸島などは日本国の領土である」と明言したに等しい内容のことを言っている。

◆カイロ密談と尖閣諸島の領有権に関して
 …1941年11月23日から25日にかけて、当時のアメリカ大統領ルーズベルトと「中華民国」主席の蒋介石はカイロで密談を行った。このときルーズベルト蒋介石に「アメリカとともに日本を爆撃することに協力すれば、日本を敗戦に追いやった後に琉球群島(沖縄県)を貴国にあげよう」と誘い込んだのだが、蒋介石はその申し出を断っている。この事実は秘密にされていたのだが、当時の部下の外交部長によってばらされてしまい、周辺の知るところとなってしまった。
 ところが1969年に国連のECAFE(Economic Commission for Asia and the Far East。アジア極東経済委員会)が尖閣諸島などの東シナ海に海底油田や天然ガスが眠っているようだと報告すると、在米台湾留学生が尖閣諸島に関する台湾の領有権を主張してデモを起こし始めた。というのは、中華人民共和国が「中華民国」に代わって国連に加盟しようと動き始めていたからだ。
 毛沢東は建国以来、尖閣諸島の領有権は日本にあると主張していたのに、海底油田や天然ガスがあることを知ると、中国は突如、「釣魚島(大陸における尖閣諸島の呼称)は中国のものだ」と主張するようになった。
 だから在米の台湾留学生たちは「蒋介石が無能だから、このようなことになる」として抗議デモを始めたのだ。
 この実態を調べるために私は何度も行っているサンフランシスコに再び行き、当時のデモ参加者の記録を入手し、かつスタンフォード大学フーバー研究所にある蒋介石直筆の日記で当時の記録を確認しているので、これは間違いのない事実である。
 1970年に入ると蒋介石の体力はかなり弱ってきたので、息子の蒋経国蒋介石に代わり「釣魚台(尖閣諸島)は中華民国のものだ」と主張するようになった。

 そこでアメリカは沖縄返還に当たり、「領有権に関してはアメリカは関わらない。当事者同士で話し合って解決してくれ」とサジを投げてしまった(このことは、2015年4月29日のコラム<日本が直視したがらない不都合な事実――アメリカは尖閣領有権が日本にあるとは認めない>でも少し触れた)。
 以来、「中華民国」(台湾)は、「釣魚台(尖閣諸島)の領有権は中華民国にある」と強く主張するようになっている。
 しかし、たいへん残念なことに、日本のマスコミや「中国研究者」あるいは「国際政治学者」、さらには「元外交官」までが、安倍氏が台湾に対して上述のような講演をすることは、「中華民国の領土主権を侵犯する言葉を発したのに等しく」、「台湾を侮辱したに等しい」という認識を持つことができないままでいる。

 真相を見極める見識の欠如は、日本を誤った道へと進ませることに気が付かなければならない。
 尖閣諸島が日本の領土であることに疑いの余地はないが、台湾を「友好国・地域」として味方につけたければ、最低限、本稿で論じた基礎知識くらいは持たなければならないだろう。


 台湾にも中国にも反感をもたれるアベ発言を岸田首相はどう見ているのだろうか。アメリカに盲従しながら、アベ氏のごとき無知な発言を許していて、対中(対台湾)外交は大丈夫か。コロナ禍を理由にしているとはいえ、シャンシャンが中国の「厚意」によりさらに半年上野動物園にいられることになったのも、「こうして我々は日本と友好的であろうと努めているのに、日本政府はアメリカに追随するのですか」と問われているわけで、これはそれほど軽くはないように思える。


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